知らぬが花

柔らかな日差し。暖かな風。優しい匂い。彼らは春に包まれている。羨ましい。なんて羨ましいのだろうか。私は何も感じない。何も感じることが出来ない。私は死んだのだ。冬の夜。重たい雪が降る中で死んだのだ。私は私が解体されるさまを見た。一人の人間が細かなパーツになる過程を見た。それはマグロの解体ショーに比べると随分汚いものだった。私は骨と肉に分けられ別々にミキサーにかけられた。水気があった時は多く見えていたが乾燥してしまえばバケツ一杯ほどに収まる量だった。そうして私は加害者の庭園に撒かれたのだ。庭園には様々な人が訪れる。老若男女が庭園内の花を愛で憩う。私はそれを上から見ている。さてこの庭園を彩る花たちが私を食べて大きくなったと知ったら彼らはどんな顔をするのだろうか。



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