花の冠


 今日のタロはいつもと様子が違っていた。
 小さな歩幅をもっと小さくし、タロはちまちまと怪物の近くへと歩いて行く。が、足元まで近づいても、いつもみたいに怪物の首に抱きつくことも、足から背によじ登ろうとすることもなく、ただそわそわとしながらその場に立っているだけだった。するとタロはくるりと後ろを向き、自分の胸に手を当てて深呼吸をし始めた。
 タロの行動の意味が分からなかった怪物は、前足の大きな鉤爪の先端だけを使い、タロの肩を軽く突く。幼いタロにとってそれは軽くはない衝撃だった。
 タロは怪物に引っ張られるような形で、後ろ向きに転びかけるが、怪物は慣れたように尻尾を回し、タロを抱き留めた。そうしてくるんと、尻尾の先をタロの腰に巻きつけてから、怪物はずいと顔を近づける。
 どうしたの、とでも言いたげな怪物の表情に、タロは目を泳がせる。怪物は声も出さず、そんなタロをじいっと見つめていた。タロは覚悟を決めて、口を開いた。

「あの。えっと。……ぼ、ぼくのっ、およめさんになってくださ、い」

 そう言いながらタロはポケットから何かを取り出し、怪物の頭へと手を伸ばした。
 怪物の頭の上に載せられたのは小さな小さな花冠。ポケットの中に押し込められていたせいで、少し形が崩れていた。
 怪物はタロの行動の意味がますます理解できなかった。不思議そうに首を傾げ、耳まで赤くなっているタロをただ見下ろしていた。


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