夏とチョコレート

 チョコレート。チョコレートって溶けやすいじゃないですか。夏とか特に、ただ部屋に置いているだけでふにふにに溶けちゃって、最悪チョコレートソースみたいな状態になっちゃうでしょう。
 こう言うと、たまに変な目で見られるんですけど、私ね、その溶けたチョコレートが好きなんですよ。
 小さく個包装されたチョコレートだとか、チョコレートでコーティングされたお菓子だとか、生地の中にチョコレートが入れ込まれているお菓子だとか、いろいろありますけど、どれもこれも、溶けてからが美味しさ本番!って感じなんですよね。個人的には。なのに。

 なのに、私の知り合いときたら、どうもそれが――柔らかいチョコレートが許せないらしくて、溶けかかったチョコレートを全部がっちがちに凍らせちゃうんですよ。迷惑極まりないにもほどがあります。
 え?親切心?暑さで柔らかくなったチョコレートは冷蔵庫に避難させるのが普通?
 いやいや、冷蔵庫に入れるとかだったらまだ許せるんですよ。まだね。私だってそんなに気が短い方じゃないですから。冷蔵庫にぶち込まれる程度の行動でしたら甘んじて受け入れますよ。だって、ほら、入れられてもすぐに取り出せばいいだけですし。うんうん。
 でも、違うんですよ。あいつの――彼女のやってる事は、硬いチョコレートに対しての敬意からくるものではなくて、私に対する嫌がらせを目的にしてるんですよ。
 だって、私が食べている時に凍らせちゃうんですから。
 私が、ふにふにとろとろになったチョコレートを口に運び入れようとするその時に、口に入る寸前に、北極の風のような冷たさを持つ彼女の一息で、がっちがちに凍らせてくるんです。
 その虚しい気持ちが分かりますか?
 目の前で、熱々ジューシーなハンバーグに液体窒素を万遍なくかけられた気分です。トンビに油揚げを攫われた気分です。大海原のような心を持つ私ですが、この暴挙にはさすがに、虚無や怒りという名の渦潮が荒波が発生しちゃいますよ。
 私の堪忍袋の緒は硬いので、加害者からの嫌がらせにぶちギレるなんてことはしません。私は大人なので、大人げない真似はしないと心に決めていますから。やっても、精々睨みつけるだけです。
 すると加害者である雪女の友人は私に向かって、まるで悪戯っ子のようににんまりとしてきやがるんですよね。

 ああ、なんてむかつく笑顔なんでしょうか。思い出しても腹が立ってきます。
 満足気な表情を浮かべる彼女の顔に、張り手を喰らわすなんてことはしませんが、私は大人のささやかな反撃として、毎回、彼女の頬を軽く、親指と人差し指で摘んじゃいます。

 それぐらいは許されますよね。許されないとおかしいですよね!!!!もうっ!!


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