白詠街
風光る、一面の草原。草の海にひかれた白い砂利道をナグモとリウは歩いていた。抜けるような青空はまるで深い海に似ている。
ひゅうい、ひゅうい。高い笛の音が耳を掠めた。ナグモはふいに足を止める。一拍後。ぼすんっ、とリウがナグモの腰に頭からぶつかった。またきっと、前を見ずに歩いていたのだろう。リウは眉間に皺を寄せる。自身の不注意を棚に上げて、ナグモに向かって文句を言おうと口を開きかけた。
しかし、リウの言葉は口から溢れる前にナグモの手によって止められてしまう。
「しぃ。静かに」
ひゅうい。ひゅうい。
音がする。先程よりも、より近くに感じる。風のせいか、それとも。
耳をすませてみても、見渡してみても、音の正体は分からなかった。背の低い青草たちは、猫の毛を撫でつけたときのようにつやつやと光っているだけで、何も教えてはくれなさそうだ。
ナグモとリウが白詠街に訪れたのは二日前。観光案内所のおじさんから是非にとオススメされたスポットがここだった。詳しい説明は受けていない。ただ真っ直ぐに進めばいい、とだけ告げられたときは正直不安にもなったが、何かあれば頑張って逃げよう、と旅慣れた二人は底抜けの楽観的思想を引っさげてここまで来たのだった。
「なんの音だろう」
「合図だったりして。今からカモが行きますヨロシクねって」
「嫌なこと言うなあ」
リウがナグモの先へ行く。「オジサンはそこで待ってなよ」
制止する声も聞かずにリウはさっさと進んで行った。道は緩やかな坂になっていて、景色が途中で切れている。青空に飲み込まれたその先に、なにがいるのか検討もつかない。
いくらリウがすばしっこいからと言って、子供を偵察役にする訳にはいかない。それにあの子は――。ナグモは額に滲む汗を拭いながら、急いでリウの後を追った。
坂の上。
白い鯨が悠然と、青く澄んだ空を泳いでいた。
***
白詠街の住民は穴のあいた石を持っている。それを風に向けると、ぴゅういっと高い音が出る。ぴゅうい、ぴゅうい。お土産にふたつほど買ってみたが、どうやら模造品らしくいくら風を通してみてもうんともすんとも鳴らなかった。
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