涙腺ダリア

 ダリアの花びらを一片。そっと摘んでごらんなさい。運が良ければ宝石が一粒。運が悪ければが露が一粒。あなたのてのひらに転がるでしょう。

 ***

 私はハクと一緒に登校することになったのだが、どうにも煩わしくて嫌だったので、祖母とハクが揃って朝のニュースを見ているタイミングを見計らって家を出たのだった。静かに玄関の戸を閉め、出しうる限りの全力ダッシュでその場から離れた。振り返ってみても、幸いなことに誰もいなかった。
 朝の空気は絹のような肌触りで、なんでもない日なのに不思議と気分が高揚する。

 いつも乗る電車の時刻まであと一時間ほどあった。朝食を抜いた



 川土手を歩いているとダリアの花が咲いていた。こちらに向かってお辞儀をするように。たくさんの小さな花弁が一枚一枚中心から順に差し込まれている丸い花は、まるで作り物みたいだった。こんな和菓子あるよなあと考えつつ、私は自然と手を伸ばし、花びらを一枚つまみとる。
 はっとした。自分の行動が信じられなかったのだ。どうして手を伸ばしたのか。どうして花びらを摘んだのか。分からなかった。動けずにいた私を嘲るように、右手がまた意図しない動きをする。開く気はないのに、口が開く。私はごく当たり前のように、すんなりと、その千切った花びらを口に運んだ。目を瞑ってもその動作は止まらず、ついにはごくりと花びらを嚥下した。
 自由がきくようになった途端、くらりと脳が揺すられた感覚に流されて、土手を転がり落ちそうになる私を支えてくれたのはハクだった。

「お前なにしてんだ」
「うっ。どうしてここに」
「昨日言っただろう。また付き添ってやるって。俺を撒こうなんて百年早いは小童が」
「」

「食ったんか」
「た、食べたくなかったけど、体が勝手に」
「」


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