橙色のお月さま

 クコは悩んでいた。この場に残るべきか、それとも立ち去るべきか。見るも無残な現状を拒むように背を向けて、努めて冷静に考える。
不快な臭気が立ち込めるこの場から逃げ出したいのは本心。だが仲間を置いてすたこらと逃げ出すなんて卑劣な行為は一タヌキとして如何なものか。顎に手を添え悩んでいると、自然と手が漂う臭気を遮るように鼻を塞いでいた。もう駄目だ。我慢できない。この場から一刻も早く立ち去りたい。結論に至ったクコは、そのまま振り返らずに一歩、前へと踏み出した。
 耳へと届く仲間の悲痛な叫び声に気付かないふりをして。

 クコがこんな非道な行動にでてしまった訳は、ちょうど一時間前に遡る。
 一時間前、クコは里の寄合所にいた。個性的な面々に囲まれて、秋祭りの話や草刈りの話に耳を傾けていた。初めは厳然たる会議であったのだが、開始から三十分ほどして、遅れてきた一人のじじいが酒瓶一升を持ち込んだのだ。漂う酒気に、その場のおじさんたちがぴくりと反応し、何を思ったのか「まあまあまあ」と意味がわからない合いの手をにこやかに入れながら、酒をくらうじじいに寄っていった。それからは想像できるとおりの展開で。いつのまにやら厳然たる会議は、どんちゃん騒ぎの酒宴と化したのだった。
 それに困ったのは未成年組。親の代理で数人ほど参加していたのだが、唐突に始まった酒宴に参加できる訳もなく、おとなの気持ち悪い勝手さに辟易した高校生たちはその場から退散した。
 狸のクコと犬の玄、飴降らしの智とヤモリの鉄子。同高校に通う同じ年頃の少年少女たち。

 鉄子が
「」
「あーあー。大人ってどうしてあんなに酒が好きなのかね。ジュースの方が美味くね?」
「コーラこそ至高」
「なにを。あのようなバチバチとした品のない砂糖の塊のような頭の悪い飲み物のどこがいいのだ。りんごジュースこそ至高である」

「いやあ。本当大人って汚い汚い。こりゃあ清めなきゃねえ。こりゃこりゃ」
「鉄子ちゃんそれ」
「清めの塩」
「ポテチじゃん」
「とってきたの?」
「ぽーいって置いてたから」


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