ピヨピヨパンチ1/1
「ネジ兄さん、おっそーい! 今日はデートだって、言ってたでしょう?」
清閑な屋敷の敷地内で弾けた甲高い声に、ネジは帰りの足取りを見事に止められた。果たして聞き違いであったのか、彼女が何を宣っているのか分からない。
条件反射的に宗主の私室の気配を探ったネジは、長らく待たせていたらしい少女に向かい能面のような表情を心持ち顰めた。
「……デートって何ですか?」
腰に両手を当てて仁王立ちの様でいる、六つ下の従妹のハナビは、子供らしい顔付きで剥れつつも実に宗主に匹敵する眼光をネジに飛ばしている。それに怖じた訳ではないが、彼女の飾り気のないいつもの修行着姿にネジは目を留める。お世辞にも出掛ける装いには見えないが……誰かと勘違いしているのだろうか。
「二週間前に、ちゃーんと約束したよ」
「……ああ……」
鼻高々と言い放つハナビに、考えを巡らすネジの眼が宙を彷徨う。少々回りくどいが……ハナビの言わんとすることに合点が行く。
「悪いがハナビ様、急用ができたので……修行はまた今度にしてもらえないか?」
確かに簡単な口約束をした覚えはあったが……二週間も経てば、血継限界を有した上忍である、予定の間隙に突発の案件が割り込むのもままあることだ。が、全くそれはハナビの知るところではないだろう。話を受けたハナビはやはり、眉を下げて不満顔になる。
「え〜〜? 今度って、次はいつ来れるの?」
「そうですね……。一週間、見てもらえると」
ええ! とまた傍らから嘆きの声が上がる。何しろ彼女は今日久々にネジが訪れるのを待ち望んでいた訳である。
――そんなに先……約束したのに……。
小さく零れる寂しげな声を拾って、ネジはつい眦を緩めた。
「……ハナビ様、済まない。また来るから」
詫びとばかりにやわらかな髪を撫でつけると、ハナビは剥れた顔で、ネジの掌を素直に受けて頭を揺らされる。少し可哀想なことをしたか……でもハナビのことだ、きっと許してくれるだろう。
門扉に向かって歩き出すと、微かな足音がネジの後をついて来た。
「見送りに来てくれるんですか?」
「――……」
「ありがとう、ハナビ様」
そっぽを向いて、それでも側に寄って来るハナビに珍しくネジは笑い掛ける。次に来た時はきっと。約束は難しいけれどもハナビの為に出来る限りの手は尽くそう。
出口までの少し長い道のりをゆったりと歩いてゆくと、多分小憎らしい背中目掛けて、後ろから小さな拳でつつかれる。
「ん……今何か当たりましたか?」
「ううん」
頭を左右に振るハナビに、ネジは気を取り直して歩みを進める。
それから数歩とゆかず、今度はポカポカと雛鳥の怒涛の攻撃が、ネジの背中に叩き込まれた。
分かりました分かりました、速やかに修行致しましょう。
【ピヨピヨパンチ】……リズミカルに パンチを くりだして あいてを こうげきする。こんらん させることが ある。
(旧拍手文)
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