蝶々
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 何気なく見渡した風景の中、ネジはある箇所にふと眼を留めた。
 風の吹き抜ける、涼しげな草むらの中に、ぽつんと一つ、茶色いお団子頭がしゃがみ込んでいる。
――テンテンだ。

 あんなところで、何をやっているのだろうか。
 そっと近付いてみると、彼女の手にはいくつかの薄桃色の野花が握られていた。もう片方の手は緑の草の中を探っており、今また新たに同じ色の花を其処から摘まみ上げている。
 忍具を弄るでもなく、彼女がこのような可憐な植物に興味を注ぐとは些か珍しい。などと言っては怒られてしまいそうだが。無心になって花を摘む後ろ姿に、心が温まって、ネジは目元を柔らかく細めた。

「テンテ……」

 努めて邪魔をしないように、声を落として。気になって、そのまま通り過ぎることもできまい。
 何をしているんだ? と微笑ましい背中に続け様に話し掛けようとして、直ぐ様ネジはそれを呑んだ。いつもと同じように巻かれた彼女のお団子頭から目が離せず、さくさくと草を踏み締めていた足をぴたりと止める。その間に、何も知らないような顔をしてテンテンがネジを振り返った。

「なに?」
「……いや。何でもない」

 くりくりとした明るい茶色の眼に見つめられて、ネジは何となく口を濁した。ただその場からは去らずに、彼女の側に残ることを選択しそっと隣に腰掛ける。
 花を片手に、小首を傾げていたテンテンだったが、やがてネジを放ってまたせっせと花摘みを再開する。ほんのりと薄紅に色付いた手の先は、今小さな花束を作るのに忙しい。しかし何か視線を感じて、ちらりと彼女が隣を窺えば、ネジが此方を向いている。それも、どこか不自然に、自分の頭の方に目が注いでいるようだ。

「え、なんなの? なんかついてる?」
「待て、触るな」

 頭へと持ち上げた手をすかさずネジに取られて、ぎゅっと押さえ込まれテンテンは目を白黒させる。

「えっ……ど、どうして」
「頭を動かすな。じっとしていろ」

 驚いて身動ぎすると反対の手も取られて、テンテンはいとも簡単にネジに『捕まった』。いかにも高圧的な命令口調だが、そう言う割にはテンテンの両手を握り込むその指先はとても柔らかい。テンテンの手もその中にある花も、潰さないようにとちゃんと配慮している。

「……なんで動いちゃダメなの?」

 あえなく花摘みを中断させられて、テンテンが不満と悲しみの募らせた声でネジを窺う。頼りなく眉を下げたいじらしい姿に、強攻を貫こうとしたネジの頬がみるみる緩んでいく。

 もうすぐ完成する予定だった花束は、ふたりの手の中で小さな彩りを放っている。だからもう摘まなくとも、良い。このままふたりでじっとしていよう――。


 その答は、ゆっくりと和らげたネジの視線の先にあった。
 淡い菜の花色の羽根を、開いては閉じて、お団子に留まっている小さな訪問者。
 花の蜜の匂いに誘われて、優しそうなテンテンの側にきっとふわりと舞い降りた。

「可愛いお客さんが来ている」












「お客……? あー、どうせ葉っぱかなんか、ついているんでしょ(なによいじわる。取ってくれたっていいのに)」
「いや。もっと可愛いものだ(だから、このまま……動かないでくれよ?)」



『蝶々』(旧拍手文)

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