「バレンタインのラッピングってかわいいよな」
バラエティストアにて新作のコスメを一緒に見ていた時に、ふと目に入ったバレンタインコーナー。レッドとブラウンとピンクと…、バレンタインお決まりのカラーに囲まれているコーナーは俺にはキラキラと映った。
「かわいいよね〜。コスメと一緒で見てるだけでも楽しい」
「わかる」
「見る?」
「見よう」
相変わらず彼女相手だとスムーズに会話が進む。コスメも一通り見たところだったし、とコーナーを移動して、別に作る予定もないのに物色する。
「おー、色々と想像がかきたてられる。リボンはこれで、メッセージカードはこれ組み合わせてー、とか」
「いいねー!せっかくだから作ってみる?一緒に」
「え」
「その方が楽しいじゃん?」
まあ、確かに。男の俺がチョコを作っちゃいけないなんて決まりは無いし。実際作ってラッピングをこだわるのは大変楽しそうではあるが。
「作って誰に渡すっていうの。俺が」
「えー?誰でもいいじゃんそんなの。家族でも友達でも仕事先の人でも。あげる人いなかったら私にちょうだいよ」
「……まあ、名前が貰ってくれるなら、いいか」
俺がこだわったラッピング、きっとこれでもかってほど褒めてくれるんだろうし。けど、もし本当にチョコを渡すのであれば、ちゃんとした意味も含めて渡したかったが……今の流れでは到底無理な話だろう。多分「それっぽい後付け設定ありがとう!」とか言われてしまう。確実に。
……いつになったらこのノリを脱することできるんだ俺たち。でも恐らくこのノリのままでも心地よいと思ってる俺のせいでもある。はあ、自業自得か。
「じゃあ私もラッピング選ぼー!」
そう言ってウキウキと歩き回る彼女の後ろをついて行きながら、どんなラッピングにしたら彼女が喜ぶか俺も考えた。一緒に選んでるわけだからサプライズには全くならないが。
***
私の家だとママがいて恥ずかしいし実の家で作ろうよ。人の気も知らずによく軽々と言うものである。確かに何度か家にあげたのは誰でもない自分自身ではあるが、途中からまずさを感じて家にあげるのはやめた。その事に彼女は何も気づいていないだろうから、そう言い出すのも仕方ない。……仕方ないので了承してしまった。
「やるぞー!」
「材料サンキュ。後でお金渡すわ」
彼女が買ってきてくれた材料をキッチンに広げて、チョコ作りを開始する。スイーツは料理と違ってもっぱら買うことが殆どだから初めての経験だったが、慣れている彼女のおかげで大してハプニングも起きずに順調に作り進めた。
「かわいいのってバレンタインだけだよね」
「ああ、ホワイトデーは地味って話?」
「そう。催事場もないしさー。バレンタインの催事場は楽しいよ〜」
「へえ。いいな。俺も行きたい」
「まだ今年のはギリやってるから行こ」
俺が興味を示すとすぐに「一緒行こ!」と言ってくれる彼女のそういうところが好き。すぐスケジュール帳出して予定立てようとしてくるし、その場でちゃんと実行してくれるのが本当に俺と行きたいんだなって思わせてくれるっていうか。まあ、彼女は友達全員にそうなのだが。
「リボンはやっぱくるくるにするでしょ」
「その方がかわいいもんな」
「うん!というか実のラッピング本当にかわいい!水色と白で統一されててかわいい〜…」
「ドーモ。名前のもいいじゃん」
「へへっ!」
そこで今更ながらふと、それ誰にあげるんだと思う。俺のはもう彼女にあげるわけで、だからわざわざ彼女の好きそうな系統のラッピングにしたわけだが。彼女のあげる先は何も聞いていなかった。複数あるからいくつかは友達なんだろうということは想像つくが、一つ明らかに違うのが…。
「…名前のそれ、誰にやるの?」
「友達ー」
「違くて。こっち」
飛び抜けて特別そうな箱を指さすと彼女が言葉に詰まる。
「そー…れは…」
「……御影先生か」
「うああぁ…なんで分かるの」
分かるだろ、そりゃ。顔赤いし。なんか御影先生っぽいラッピングだし。アーソウデスカ、と拗ねたい気持ちでいっぱいになりながら、どうにか表情に出さないように気をつける。
「いーんじゃない?かわいくできてるし」
「ハハ……沢山貰うだろうから要らないかもだけど」
「そういう風に思うタイプじゃないだろ、御影先生は」
「……ソダネ」
気まずそうに彼女が答える。御影先生にきゃあきゃあ言ってるのは別に前から知っていたし、告白してどうにかなりたいとか思っているわけではない事も知っている。思春期特有の憧れだよきっとそうだよ、と自分に言い聞かせてるのも見てた。けどやっぱ、こういうシーンを目の当たりにすると、俺だって暗い気持ちにはなるわけで。
でもそんなこと彼女には到底言えないので、取り繕わなきゃいけない。いや、なんで言えないんだよ。本当に好きなら言ったらいいのにな。こういう時に動けないから結局俺たちは友達のままなんだ。あーー自己嫌悪。
「当日ひよって渡さないとか、なしだぞ」
「ええっ!」
「俺も作るの手伝ったんだから言う権利がある」
「うっ…うぇ……」
「泣くな」
めそめそとし出す彼女に、自分のラッピングし終えたチョコを渡す。
「はい」
「えっ?」
「貰ってくれるんだろ」
「あ、え?本当に私でいいの?お姉さんとかに渡したら?」
「なんで俺が姉貴にチョコ渡さなきゃいけないんだよ…。貰うって言い出したの名前だろ」
「それもそうだった」
ありがと!と笑顔で受け取った彼女は改めてしげしげと俺が包んだそれを見つめて「やっぱめっちゃかわいいね」と笑った。こだわった甲斐があるというものだ。
「あっ、そうそう!私もあるの」
「え、」
そう言って部屋の隅っこに置いてた紙袋を持ってくると俺に差し出す。
「実へのチョコだよー」
うわそう来たか。一緒にチョコ作りなんてしたものだから俺にチョコとかそういうのはないと思っていた。油断からのサプライズに思わず顔が緩みそうになる。紙袋にブランド名が書いてあったので手作りではないようだけど、嬉しいことに変わりは無い。
「見てもい?」
「もちろん。というかチョコの中身もみてみて」
わくわくした様子でそう言うので、俺のリアクションが見たいんだろう。お望みどおり箱を開けると、中には宝石を模したチョコが詰まっていた。かわいいでしかない。
「やば…、宝石箱じゃん」
「でしょー!?実ぜったい好きだと思ったの!」
「好き好き。というか綺麗すぎて食えないかも」
「分かるー!だから沢山写真撮ってからちゃんと食べてね。味もすごい美味しいらしいから」
「そうするわ。ありがと」
俺の喜んだ様子に大変満足らしい彼女はにっこにこだ。
「やっぱ友達にはこういうかわいいチョコあげるのがいちばん楽しいよね」
「ま…気持ちはわかるけど」
俺も彼女も自分のセンスで選んだプレゼントで相手を喜ばせたい質なのでよく分かる。よく分かるが、またもや友達としか思ってない発言に上がった気分が下がりそうになる。
どうにか彼女の中に爪痕を残したくて、俺は彼女がテーブルに置いてた手に自分の手を重ねた。
「ホワイトデー、楽しみにしてて」
「え?でももうチョコ貰ったよ」
「それとは別に返す」
「ええ、いいのに」
「俺がプレゼント選びたいから」
ぎゅっと手を握ると、彼女がたじろぐ。
「わ、わかった。楽しみにしとく。…実、センスいいしね」
「名前に似合うもの選ぶから」
「え?お菓子じゃないんだ」
お菓子なんて、消えてなくなってしまったら何の主張にもならない。絶対、たくさん身につけるねと言わせるくらいかわいいアクセサリー送ってやる、と静かに意気込んだ。
「指輪……はさすがに重すぎか」
「ペアリング?いいねー!かわいい!」
「…………女友達とは違う意味合いになるの分かってんの?」
「……あ」
前途多難すぎるだろ。
友チョコはもういらない
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