※27話後の話
「竹谷くん、これこの前の。返すの遅くなってごめんね」
「あ、あーー…ありがとうございます…全然その、大丈夫です」
「ちゃんとお洗濯したからね」
八左ヱ門の気まずそうな受け応えを、その場にいる全員が集中して聞いていた。それを八左ヱ門も察して、早く話を切り上げようと必死に名前にぺこぺこと頭を下げる。そして名前がその場を去った後、八左ヱ門はこちらが何か言う前に勘右衛門の肩を掴んだ。
「違うんだ勘右衛門」
「まだ何も言ってないけど〜?」
「いや言うだろ。この後みんなしてどういうことだって言うだろ!?」
「面白くなってきた」
対岸の火事はしゃぶり尽くすほど娯楽にしてしまう三郎が盛り上がってきたとばかりに囃し立てる。先程、名前は何故な八左ヱ門の上衣を持って来ていて、何かしらの理由で八左ヱ門の服が名前に貸し出されていたことが分かる。服を貸す状況なんてそんなに多いものでは無い。絶対何か勘右衛門にとって面白くないことが起きたのは明白だったが、青ざめてる八左ヱ門に免じてとりあえず話は聞くことにした。
「その、いつもの如くジュンコが逃げちゃって…それもくの一長屋の方に行ったみたいで……うっかり早朝に遭遇した苗字さんが大慌てで捕まえてくれる人を探してて……」
「もう大体わかった」
「え?もう分かったのか」
話を切り上げさせた勘右衛門に、兵助がまだ何も理解してない様子で首を傾げる。
「つまりおまえは、寝起きの無防備な名前さんを見たってことだよな?」
「ふ、不可抗力だ!!それにそんなにガン見してない!!」
「見たんだな!?」
「みっ…見た!悪かったって本当に!!」
勘右衛門に詰められた八左ヱ門は顔を赤くしながら必死に謝った。顔を赤くするってことはそれなりに青少年の目には毒な姿を名前がさらけ出していたということだ。
「おれだってそんな姿見たことないのに……」
「普通見せないだろ。苗字さんの危機意識が乏しすぎるな」
「それは本当にそう」
今回ばかりは三郎の言葉をかばえそうにもない。勘右衛門だって幾度となく注意している内容だったため、勘右衛門は素直に頷いた。
「まあ…服を貸したっていう判断は褒めてやらないでもない」
「お…おう……」
「でもマジで何で見る直前で八左ヱ門の目が潰れなかったのか…」
「恐ろしいこと言うなよ!!」
八左ヱ門が半泣きで悪かったよ…と繰り返すので勘右衛門はそれ以上の罵倒を飲み込んだ。分かってる。八左ヱ門は何も悪くないのだということを。ただラッキースケベ体質が自分には足りなかったのだと。
「もういいよ……八左ヱ門は何も悪くないし……」
「……」
「でもちょっと三日三晩寝込ませて」
ぱたんとその場に大袈裟に倒れ込むと、兵助が責めるように八左ヱ門を見つめた。
「八左ヱ門……」
「どうしたらいいんだよ〜!!」
悲痛な叫び声を上げる八左ヱ門に、三郎がにやにやと悪そうな顔を浮かべて背を叩いた。
「ここは逆にどんなものを見たか詳細に教えてやるのがいいんじゃないか」
「へっ…」
「寝起きの苗字さんがどんな様子でどんな雰囲気だったのか詳細に思い出すんだ」
「それは……」
何を思い出したの知らないが、じわじわと顔を赤くさせる八左ヱ門に勘右衛門は飛びかかった。
「八左ヱ門、おまえは見たものを全て忘れる。おれとの友情に誓って忘れる。そうだよな??」
勘右衛門の気迫に負けた八左ヱ門は、必死にぶんぶんと首を立てに振った。
「なんていうか…災難だったね、八左ヱ門も」
「雷蔵〜〜…」
「勘右衛門もこれ以上八左ヱ門をいじめちゃいけないよ」
「約束はできない」
むくれた勘右衛門が宥めてくる雷蔵の言葉にすら子供じみた返しをすると、三郎が鼻で笑う。
「心の狭い男だな」
「そうだよーだ。おれは名前さんの事に関してはしょうもない男なんだ」
「恋ってそういうものだもんな」
「え、うん。兵助がそういうこと言うなんて珍しい」
「だって勘右衛門がいつもそう言うから」
確かに名前のことに関してうだうだ考えて部屋でぶつくさ言ってる時に兵助にそんなこと言い聞かしていたかもしれない。
「でも八左ヱ門は無罪だから…」
「無罪…?無防備な名前さんを見てちょっとでもえっちだなって思ったならそれは有罪だ!」
「ええっ…それは……しょ、しょうがないだろ!!」
「認めちゃったよ……」
無罪だと言っていた雷蔵が八左ヱ門の反応を見て「じゃあしょうがない」と頷いたので、その後勘右衛門の気が済むまで八左ヱ門いじめは続いた。そのことに関して、あまり反省はしていない。
モラトリアムと青い春 番外編 1話
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