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TopMainドラマチックに泣かせてよ
別に大層な片想い、というわけでもなかった。

ただ最初見たときに笑顔がかわいいなと思って、なんとなく目で追うようになって、女子にもちゃんと優しく接する姿を見て胸が鳴った。
抱く感情に“好き”と簡単に名付けられる勇気も素直さも持ち合わせておらず、少し気になっているだけと言い聞かせる日々。

たまたま一緒になった家庭科の調理実習の班。自分から必要以上に話しかることなんてする気も、できる気もしない私は黙々とじゃがいもの皮を剥いていた。しかしそんな私の思いなど全く知らない君が、何でもないように話しかけてくる。

「包丁で皮剥けるのか?すごいな」
「あ…うん、家でやってるから……」
「しかもおれより早い」
「慣れるとピーラーより包丁の方が剥きやすいよ」

そう言うと、君は感心したような声をあげた。
初めての会話は案外スムーズにできて、話しかけられないと殻にこもっていた私をいとも簡単に引きずり出した。調子にのった私は調理実習中、度々他愛もない話題を振った。
今思えば本当にどうでもいいような話題を振っていたり、せっかく答えてくれたことに対して上手い返しができなかったり。思い出すと身悶える要素が満載だったが、まあ端的に言うなら その時間が浮かれるほどに楽しかったのだ。

いよいよ好きだということを認めなければいけないのかもしれないと腹を括り始めたときに、不意に落とされた友達の会話。

「私この前初めて知ったんだけどさあ、サボ君って2組?の子と付き合ってんだね」
「え、知らなかったの?あれでしょ、あの子、えーっと…エミと仲良い子」
「そうそうそう!顔は思い浮かぶんだけど……、ダメだ名前が思い出せない」

何を根拠に彼女がいないだなんて思っていたのか分からない。まあ、いるよね、かっこいいしね、優しいし。必死に自分を納得させようとしながらも、思考全体に靄がかかって、ぐらぐらと頭が揺れるような感覚が気持ち悪かった。

ぽっかりと胸に穴が空いたような喪失感を抱えて帰宅していると、前方に見える君の姿。その隣には顔は知っているものの名前は知らない2組の女子。別に手を繋いでいたわけでも目の前でキスされたわけでもなかったが、並んでいる姿だけで充分だった。
踵を返してわざわざ遠回りになる道をダッシュで帰宅する。帰宅途中何度も今日起きた出来事を分解し始めようとしたが、全く関係ないことを考えては不自然に思考を逸らす行為を繰り返した。

家について制服のままベッドに突っ伏して、私の頭はようやく事実を事実として飲み込み始める。
彼女がいた、望みなんてない、想い続けたってどうしようもない。何度も同じことが頭をループして、もう分かり切っているはずなのに延々と考え込んでしまう。

ぼんやりと天井を見上げながら、涙も出ない私の姿を俯瞰的に見ている私が隣れむ。失恋ってこんなものだろうか。もっと、少女漫画さながら深く盛大に傷ついて、綺麗な涙を零すものだと思っていた。感覚的に言えば落下死のようなものだと考えていたが、私のこれは、まるで絞殺だ。
君のことを世界の誰よりも好きであると、大声で自身に宣言できるような勇気を持ち合わせていなかった、臆病な私への罰なのかもしれない。

悲劇のヒロインにもなりきれずに死んでしまった私の恋心を、誰か華やかに埋葬してあげてくれないものかと、人任せに願った。


ドラマチックに泣かせてよ


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