ホットココアは恋の味

もうすぐ雪が降りそうな寒い季節。

私は、緩んだ首元のマフラーを掛け直し、今日も足取り軽くとあるビルのエレベーターのボタンを押す。

目的地は私の通う進学塾。

今年受験生の私は、この受験戦争を切り抜けるため、4月からここへ通っている。

そこで出逢ったひと。

もはや、受験とは関係なく、ここへ通うには相応しくない感情を膨らませながら、その扉を開く。


「やぁ、ナマエ。
今日は随分と早いんだな。」


扉を開くとともに目の前に映る恋い焦がれるその人は・・・

少し驚いた様子で私の名前を呼んだ。



「エルヴィン先生!
今日は学校が時間短縮日だったので、自習に来ました。」


そう。私の恋い焦がれるこの人は、ここの塾の講師。

大学院生だとおっしゃる先生は、アルバイトとしてここで少人数制のクラスを担当している。

科目は歴史。

理系の私にとって、社会の科目はとても苦手な科目。

大人数のクラスでは、とても付いていけなくて、だけどセンター試験で社会科の科目は外せないから、通常のクラスとは別に、歴史の少人数クラスを追加した。

そこで出会ったエルヴィン先生。

最初は、その整った顔立ちに見惚れていた程度だったけれど

授業中の真剣に説明するその姿
プリントに目を通す憂いを帯びた瞳
休憩時間に溢す悪戯な笑み

そのどれもが私の心を揺さぶり、今ではすっかりその虜になってしまっている。

今日だって、学校が時間短縮だというから、少しでもエルヴィン先生の側にいたいと思い、猛ダッシュで塾に駆け込んだ。

学生である先生が居るとは限らない。

だけど私のはやる心は、塾へ向かう足取りをまるで羽のように軽くしていた。


「随分と熱心だな。
それだけ頑張れば成績も伸びそうなもんだが・・・
先週の模擬テスト、歴史だけ断トツで点数が悪かったようだよ。」

「え!?もう結果出たんですか!?」

「あぁ、ついさっきな。
平均点90点はあるのに、どうして歴史だけこんなに点が悪いんだろうね。」


そう言ってエルヴィン先生は私に模擬テストの結果を見せてくれる。

差し出された結果表に記されている歴史の点数は『68点』。

数学や科学は95点以上なのに、あまり得意でない英語だって85点以上あるのに、歴史だけ他の教科と比べると恐ろしいほど悪い点数。


「えぇ!?今回は結構自信あったのに!」

「この点数で自信あったと言われるとなると、まだまだ勉強が足りていないということだな。」


そう言うと、エルヴィン先生は大きく溜息を吐く。


「今日は通常クラスは無いんだったか?」

「・・・はい。」

「そしたら君の間違えた所を重点的にプリントを用意するから、それをやりなさい。
無論、他の科目を蔑ろにする事も許さない。」

「えー!?鬼ーーー!!」

「あぁ、何とでも言うがいい。
私が鬼になることで君の成績が上がるなら、それで構わない。」


いつも淡々とお堅い表情をしている先生が、悪戯にひとつ笑みを浮かべると、エルヴィン先生はプリントを用意しようと事務所の奥に入っていこうとする。

もう少し他愛もない会話をしていたくて、思わず声をかけて引き止める。


「先生!!わからないところは教えて貰えますか?」

「それは甘えだな。
君が調べても解らないところは教えてあげるが、まずは自分で調べなさい。」


横目で私を振り返るとそれだけを告げ、とうとう話なんてできない距離にまで遠ざかってしまった。


「エルヴィン先生のケチっ・・・」


届くはずのない距離だけど、ボソリと小さく呟いた。





それから、自習室で勉強をしていると、エルヴィン先生は私に大量のプリントを持ってきてくれた。

とても今日中に終わらせることができる量ではないことは、手渡された途端すぐに理解できる量。

少しくらいエルヴィン先生と二人きりになって、手取り足取り教えてもらえる時間があるかな♡

・・・なんて淡い期待も寄せていたけれど、とてもそんな雰囲気もない。

うんざりとしながら、その日一日は塾の閉まる時間まで自習室に引き籠って学習に取り組んだ。



正直なところ、私はそんなに成績が悪いわけではない。

というか、どちらかというと優秀な方。

合格圏内の大学はそれなりに沢山あるし、そんなに高みを望まなければ、そこそこの大学にすんなりと合格するだろう。

入りたい学部は薬学部。

お医者さんになりたい!という程の熱意はないけれど、お薬で人を助けることができるなら、こんなに素晴らしいことはないのではないかと、子供心ながらに昔から思っていた。

それに、女の人は手に職をつけておいた方がいい!なんてお母さんが口煩く言うものだから、薬剤師の免許は将来役に立つかな?なんて。

結婚や出産で一度仕事を離れたとしても、手に職さえあれば、また職場復帰できるんじゃないかなとも考えたりする。

周りの人には

「将来を考えていて偉い!」

なんて言われることもあるけれど、特に自分でそう自負するなんてこともない。

ただ私なりの考えに沿って進路を決めたら、必然的にそうなっただけのこと。



そうやって自分の進むべき進路を決めたなら、後はその目標に向かって突き進むべき。

そう思ってやってきた進学塾。

私にとって、ただの通過点だと思っていたその場所で、思いもよらぬ出会いがあるなんて、通い始めた頃は微塵も思ってもいなかったんだ。





エルヴィン先生と出会ってからは、それまでつまらなかった毎日が、まるでバラ色のように輝いて。

先生のことを考えるだけで胸はいっぱいになるし、他愛もない会話を交わせたなら、その日一日はまるで夢の国に旅立ったかのような幸せを運んでくれた。

それと同時にどんどんと欲深くなる私。

学生先生だという事は知っていたけど

どこの学校に通っているのか
家は実家暮らしなのか一人暮らしなのか
彼女は居るのか居ないのか

そんなプライベートのことまで知りたくなる。



そんなある日。

ふと、何かのきっかけで、通う大学の話を聞くことが出来た。

聞けばなんと、この辺りでも超難関とも言われる国立の『シーナ大学』。

とても普通の人が合格出来るような大学じゃない。

成績が決して悪くない私だって、春の模擬試験の結果から見てみれば、判定はほぼ合格不可能なE判定。

とてもじゃないけど受かる気がしない。

だけど・・・

塾を卒業してからも、もしものもしも、エルヴィン先生に学校で会えたりなんかしたら、そんな胸がときめくことはないんじゃないかな、なんて無謀ながらに思えてきて、夏休み前の進路調査表には思い切って『シーナ大学』と意気込んで書いてみた。

先生はもちろん、親もかなり驚いて、絶対無理だ!だなんて言うもんだから、私それからというもの必死になって勉強に励んだ。

私のこの短い人生の中で、こんなにも勉強したことないんじゃないかってくらい。

そして迎えた秋。

歴史の教科以外はなんとか合格出来る目処が付いたの。

本当に、心は飛び跳ねるほどに嬉しくて。

エルヴィン先生と同じ学校に通えるかも・・・

そんな不純な動機があるなんて、学校の先生や親たちは知る由もないけれど、自分のことのように喜び応援してくれる。



だけど、ただ・・・

歴史の教科だけは、なんとかならないものかなぁ・・・





「はぁぁぁぁあ。疲れた。」


自習室が閉まる目一杯まで勉強していた私。

時間はいよいよ10時を過ぎようとしている。

今から電車に乗って帰って、ご飯を食べて、お風呂に入ったら、ゆうに12時は過ぎちゃうな・・・

そんな事を考えながら近くのコンビニに立ち寄る。

疲れた脳には甘いもの!

そんな言い訳をひとり呟きながら、美味しそうなチョコレートを手に取ったその時、不意に背後から声を掛けられる。


「まだいたのか、ナマエ。」


慌てて振り返るとまさかのエルヴィン先生!!

教室で見かけるのとは違って、コートを羽織り外出の格好で。

寒いから当たり前なんだけど、いつもの『先生』の肩書きはないように思えて、なんだかちょっと得した気分。

わぁ!先生の帰りと一緒になっちゃった。

思わず頬が緩む。


「こんな時間にチョコレートとは、太らないか心配だな。」


そうやって私の手元のチョコレートを見つめながら笑うエルヴィン先生は、同級生の男子からはとても想像出来ないような大人の雰囲気たっぷりで、どうしようもないくらい胸がドキドキする。


「酷いっ、先生!でも、今日頑張ったご褒美にちょっとくらい甘いもの食べたっていいじゃないですか!」


ドキドキを隠すようにほんの少し反抗。


「そうだな。なら、今日のご褒美に良いものをご馳走してあげよう。
さっきはケチ呼ばわりされてたようだしな。」

「えっ!先生聞こえてたの!?」

「はは、あれだけあからさまな態度を取られると、聞こえなくても解るよ。」


本当に、先生には敵わない。

そう言って、近くのホット飲料のコーナーへ足を運ぶと、取り出してくれたのは『ホットココア』。

おどおどしてエルヴィン先生の後ろを付いて歩いていると、すたすたとスマートにレジを済ませ、それを私に手渡してくれる。


「はい。今日もよく頑張りました。」


そう言って、横目で小さく先生は微笑んだ。





さっきから、ドキドキが止まらない。

偶然帰りが一緒になった私たちは、駅のホームで並んで電車を待っていた。

なんと、エルヴィン先生の家は、私の家の方向と同じで。

駅は違うみたいだけど、もしかしたら住んでるところ近いんじゃないの?なんて考えると、嬉しくてしょうがない。

手元に握り締めたホットココアは、私の浮かれた心を更に温めてくれる。

やばい、どうしよう!
嬉し過ぎて倒れそう!!


「エルヴィン先生、あの、これ本当にご馳走になってもいいんですか?」

「あぁ、もちろん。」

「やった。嬉しくて明日からも頑張れそう。」

「そんなもので頑張れるなんて、幸せだな。」

「そうですか?」

「ああ。」


夢なんじゃないかと思って確認してみると、ほんの少しはにかんで答えた先生は、甘いものを求めていた私とは違い、ブラックのコーヒーを口に運んだ。

そんな仕草さえ大人の男性を感じてしまうものだから、私は相当重症なのかもしれない。


「ねぇ、先生。私、シーナ大学に合格したら、何かご褒美貰える?」


折角帰り道一緒になったんだし、ちょっと踏み込んでお話してもいいかな?

そう思って、思い切って話掛ける。


「なんだ、おねだりか?」


横目で私を見下ろすエルヴィン先生は、笑いもせず淡々とした表情で。

だけど、今日はちょっと突っかかってみたい。


「だって、春にE判定だった生徒が無事に難関大学に合格したなら、先生だって嬉しいでしょう?」

「なかなか強引だな。」

「えー、いいじゃん?先生の後輩にもなるんだし。」

「そうだな、考えておくよ。」


少し困ったような表情を見せた先生だったけど、最後はふわりと微笑んでくれる。

うん、やっぱり大好きだなー。


「わーい!じゃあ今よりもっと頑張る!」


調子に乗ってはしゃぐと、先生は悪戯顔になって私に釘を刺す。


「主に歴史な。」

「うぐ・・・」


思わず嫌な声が漏れてしまったけど、その次の先生の行動に私の心臓は止まってしまうんじゃないかってくらい、ドキリと大きな音を立てる。


「まぁ、君ならなんとかなるよ。」


そう言って、エルヴィン先生は私の頭をポンポンと撫でた。





プルルルルル・・・

電車の出発するベルの音が鳴り響く。

ホームでゆらゆらと手を振りながら、降りた電車を見送る。

すると、ドア越しにエルヴィン先生が軽く手を振って応えてくれる。

夢じゃないよね?

私、エルヴィン先生と帰り道デートしちゃった。

しかもね、最後、私の頭をポンポンって。



寒い冬の駅のホームなのに、触れられた頭だけ、やけに熱い。

握り締めたホットココアは少し冷めてしまったけれど、私の心はあったかくて。



その日は帰ってからも、とてもその熱が冷めることはなく、私の睡眠の邪魔をするくらい、ドキドキとニヤニヤを私に与えたのだった。





それから、あっという間に年は開け、センター試験も二次試験も終わってしまった。

必死になって勉強した日々は、いよいよ終わりを迎える。

もし例えシーナ大学が不合格だったとしても、私は保険で受験し合格している私立の大学に通うことになっている。

当然だけど、エルヴィン先生に勉強を教えて貰う日々も終わりを迎えるわけで。

どうか、受かっていますように・・・

そんなことばかり、考えてしまう。





今日は合格発表の日。

大学の合格者番号が書かれた掲示板にドキドキしながら向き合う。

私の受験番号は『10578』。



10500・・・

10530に

10550

えっと、もう少し先かな。

10600

あ、行き過ぎた。

10571

10573

10574

10576

10577





そして・・・





『10578』!!





あった!

良かった!!

私、念願の『シーナ大学』に合格したんだ!!





合格発表の会場を出て、急いで塾へ向かう。

親と学校へは、電話で簡単に報告を済ませた。

それはそれは喜んでくれて、学校の先生に至っては


「学校創立以来の大快挙だ!」


と大袈裟に騒ぎ立てるほど。

喜んでくれることは嬉しいけれど、正直学校の成績とか私にはどうでも良くて。



そんなことより、エルヴィン先生に伝えなきゃ。

喜んでくれるかな?

先生に褒められたい。

なんて伝えよう。

先生の後輩になるよって言ったら、困るかな?

学食でお昼食べようって誘ったら、一緒に食べてくれるかな?

帰りも、待ち合わせなんかも、出来たりしちゃう・・・かな?



先生の都合なんてお構いなしに、私の妄想は膨らむばかりで。

ただひたすら、はやる心を落ち着かせながら、塾への道を急いだ。





「エルヴィン先生!!」


塾で見つけた大好きな後ろ姿。

本当はその背中に飛び付きたい。

ギュッて抱き着いたら、先生どう思うかな?

私的には、背中なんかより、その厚い胸板に抱き締められたいんだけどね。

いや・・・、流石にそれは引かれるか、うん。



もはや私の妄想は変態的な所まで発展していて、顔の筋肉は緩みっぱなし。

同じ大学に通える!という要素だけで、こんなにも心は踊るものなのか。



不意に声を掛けられ、ゆっくりとした動きで声の主の方へ振り向いたエルヴィン先生は、私の方へ向き合う。

ねぇ、先生。

私、先生の後輩になるんだよ!





「あぁ、ナマエ。大学はどうだった?」

「先生!私っ、シーナ大学合格したのっ!!」

「そうか、良かったな。
君なら合格すると思っていたよ。」


そう言ってふわりと微笑んでくれる。

飛び跳ねて喜んでくれることはしないけど、この優しい表情に心は弾む。

いつもお堅い先生の表情に浮かぶこの笑顔は、私にとって、極上のご褒美なんです。

ねぇ、先生。

同じ大学生になったら、私、先生に告白してもいいですか?



「ほら、君がおねだりしていたご褒美だよ。」


先生は思い出したように、カバンの中から取り出した小さな小箱を私に手渡す。

細長いその小さな小箱に、私は目を見張る。


「先生っ!覚えててくれたんですか!?」


いつかの帰り道、何気なく言ったおねだり。

そんな些細なことを覚えていてくれたことに、嬉しくないはずはない。


「先生、開けてもいい?」

「どうぞ、お好きに。」


慎重に包みを取り除き開いてみると、一部に綺麗なガラス細工が施された、有名ブランドのボールペン。


「わぁ、綺麗。」

「君ももう大人の仲間入りだからな、いつも使っているような大きなキャラクターが頭に乗ったボールペンは卒業かなと思ってね。」


胸が締め付けられる。

だって今、私のことを“大人の仲間入り”だなんて。

もうね、先生への気持ちが止まらない。

伝えたくて仕方がない。

ねぇ、先生。

私・・・


「それに、合格がゴールではないからな。
大学に入ったら、それこそ毎日勉強の日々だ。
遊び呆ける者もいるが、君は薬剤師を目指すんだろう?
だから、しっかり勉強するんだよ、という意味も込めてね。」

「あの、先生・・・」

「ん?」

「大学に入ったら、学校で後輩として会ってくれる?」


恐る恐る問い掛ける。

もしもその答えがYESなら、私、もう自分の気持ちを先生に伝えよう。

例え今振られても、何度でもアタックしてみせる。

だって、先生の隣に並んで歩きたいから、同じ大学受験したんだもの。















「それはどうかな、私も就職が決まったからね。」





返ってきた返事は思い掛けないもの。





「えっ・・・?」

「あぁ、言ってなかったか?
私も今年、卒業なんだよ。」





足元が震える。

卒業?

誰が?

エルヴィン先生が?


顔面蒼白になりながら思考回路はショート寸前。


なに?

そしたら私、一人で空回りしながら先生の後輩になって、同じ学校で生活する夢を見てたわけ?

私が入学した途端、先生は卒業しちゃうのに?


あんなに夢見た学生生活は、ガラガラと音を立てて崩れていくような気がした。

エルヴィン先生が学校に居ないんじゃ、私、もうシーナ大学に通う気力なんて出てこない。





「ナマエ、どうした?何泣きそうになってる?」

「先生、酷い!どうして言ってくれなかったの!?」

「言わなきゃいけなかったか?」

「だって、先生がシーナ大学だから、私も同じ大学にって・・・」


ただただ悲しくて、消え入りそうな声でそう答える。

それなのに。

先生は淡々とした声色で私に続ける。


「君は、そんな不順な動機で学校を決めるのか?」

「・・・」

「確かにな、君の動機には大体感づいていた。
しかし、いつかは私も卒業する。
それが今年なのか来年なのか。
それは歳の差があるんだから、仕方ないだろう?
自分の人生は、キチンと自分のために生きていかなくてはいけない。」


そんなこと、わかってる。

でも・・・


「でも、私!先生のこと、」
「それ以上は言わないこと。」


勢いよく話し出そうとした私の頬を抓って話を遮るエルヴィン先生。

そのお顔はどこか緩んでいて。

思わず目を見張る。


「これ以上言われると、4月からの生活に支障が出る。」

「え?どういうこと?」

「私は卒業するとは言ったが、大学を出るとは一言も言ってないよ。」


え・・・?

意味、わかんない。


「4月から私は、シーナ大学の助手として勤務する。」





「えっ!?そしたら4月から・・・」

「あぁ、同じ敷地内で生活だな。」


なんだ、居なくなるわけじゃないんだね!


「そしたらまた・・・」

「先生と生徒だな。」


学校で働く先生を見られるんだ!


「じゃあ!学校で会えるのね!」

「学部は違うから、難しいんじゃないか?」


そんなの関係ない!


「私が会いに行く!」

「それはまいったな。」


困られても私・・・


「先生、だいす・・・」

「それ以上はまた今度。」


再び私の頬を抓ったエルヴィン先生はふわりと微笑む。





そして


「合格、おめでとう。」


そう言って、私の頭をポンポンと撫でた。





春。私は念願のシーナ大学に入学し、その薬学部で勉学に勤しんでいる。

想像していたよりも難しい授業は、私の頭をいつもパンクさせる。

疲れた時には、ホットココア。

甘いカカオの味は、まるで恋の味。



時々校内で見かけるエルヴィン先生は、やっぱりとても格好良くて。

ふと目が合うと、優しく微笑み返してくれる。

時々、帰りを待ち伏せしてみたりして先生を困らせたりするけれど、完全に拒否しない先生だって、満更でもないでしょう?



本当は好きって伝えたい。

だけどやんわりと先日伝えられた言葉。


「いつか、ホットココアを卒業して、ブラックのコーヒーがすんなりと飲めるようになれば、ゆっくり話をしよう。」


私、頑張るね。

いつか、先生と肩を並べて歩ける日が来るように。





だから・・・

今はまだ

『ホットココアは恋の味』。





【ホットココアは恋の味 FIN】

花季 -hanagoyomi-