プロローグ
行き場をなくした人々はどこに行くのだろう
行き場をなくした想いはどこに行くのだろう
人はなんて儚いのか
一人で生きていくには
なんて残酷な世の中なんだろう・・・
845年。
ウォール・マリアが巨人に占拠され
ウォール・ローゼに命からがら逃げ込んだ人々は
ただ呆然と立ちすくんでいた。
それは本当に突然起こった悲劇だった。
ウォール・マリアが巨人に占拠されてから十日。
難民の集まる広場の片隅には、小さな慰霊所が作られていた。
少し高台に作られたその場所には、連日悲しみに打ちひしがれた人々が多く集まっていた。
とある女性もその例外ではなかった。
肩より少し長い栗色の髪を無造作に束ねた三十代のその女性は、元々は可愛らしい容姿なのだろうが、頬はこけ、その瞳には本来あるべき輝きをすっかり失っていた。
愛する人たちを亡くし、毎日呆然としながら慰霊所に通っては、ロウソクに火を灯していた。
ある日の夕方、彼女は伏し目がちにいつもの場所を訪れていた。
訪れた人々が摘んできた沢山の花が、夕焼けに照らされ輝いていた。
美しい光景なのに、その輝きはまるで亡くなった人々の魂のようで、訪れる人の悲しみを誘っていた。
しかし、もう涙も出ない。
こんな日々がいつまで続くのだろう。
その時、前をよく見ていなかった彼女は、大柄の男の背中にトンと軽くぶつかってしまった。
「あ・・・すみません。」
軽くお辞儀をして去ろうとした時、その男は不意に与えられた軽い衝撃の先を振り向く。
まるで身を隠すように、モスグリーンのマントのフードを深く被ったその男は、力強い眼差しで難民の集まる広場を見渡していた。
とても綺麗なブルーの瞳。
でも人を寄せつけようとしないその力強いオーラは、不気味にさえも思った。
その瞳の奥には、何を想っているのか。
怒り?
悲しみ?
それとも他の何か?
知る由もないが、その瞳はとても綺麗な色をしていた。
「おい、行くぞ」
同じモスグリーンのマントを羽織った小柄な男に声を掛けられ、そのブルーの瞳の男は言う。
「ああ、今行く」
そして、目が合った彼女に一言告げる。
「決して希望を忘れないように」
そう言う彼の瞳には、やはり力強さが込められていた。
マントを風になびかせ、その男は去っていった。
背中には大きな翼の紋章が刻まれていた。
花季 -hanagoyomi-