ナマエ※アイデア「人間嫌いの生徒とベレト先生」
ナマエ=ミョウジという生徒は、ベルナデッタより手がかかる。他人と関わらないのはベルナデッタと同じだがナマエの場合それに加えて、斜に構えたというか、捻ねた感じがある。そんな彼女のことだから、士官学校で一番大きな催し物にも参加しないのだろう。
「舞踏会には参加するんだよな?」
一応教師としてナマエに参加を促したベレトは、彼女が顔を顰めるのを見てやっぱりなと思う。しかし此処で引き下がる訳にはいかない。彼女が部屋に篭りだしたらベルナデッタ以上に面倒なことになると思ったからだ。それを防ぐためには、彼女を誘い続けるしかない。
「……私は、別に」
「一応士官学校の催しなんだが」
あのベルナデッタでも来るというのに。そもそも舞踏会の何がそんなに嫌なのだろうか。踊れなくても豪勢な食事があるし、普段はなかなか一緒にならない他学級の生徒とも話すチャンスだ。ベレトにはナマエの気持ちがわからない。そんな思いが顔に出ていたのか、ナマエは吐き捨てるように言う。何が楽しいんですか。
「あんなの、異性を漁るだけの催しですよね」
「それでも良いじゃないか。ナマエも良いなと思える男子生徒が現れるかもしれないぞ。あ、別に女子生徒でも良いが」
「男も女も要りません」
そっぽを向くナマエを見て、ベレトは深く溜息を吐く。彼女は何もわかっていない。人との関わりを全て絶つことなんて、人間できやしないのだ。
「お前が家のことで他人と関わりたくなくなったのはわかる。ただ、今のままではいられないだろう?人間誰しも支え合って生きているんだから」
「私は一人でも生きていけます」
「嘘だ。今だって学級の皆に支えられているだろう。他人の親切心を無碍にするのは良くない」
「親切にしてと頼んだ覚えはありません」
「全くお前は…」
ベレトは再びの溜息。これは若さ故の発言だと信じたい。そうでなければ、彼女を気遣う周囲の生徒達があまりに不憫だ。
「先生もこれ以上私に関わらないで下さい」
「それは駄目だ。俺はお前の担任だからな。お前が舞踏会に行かないというなら、俺は毎日お前を捕まえて説得しないといけない」
「わかった、わかりました。行けば良いんですよね」
全く面倒な先生が担任になったものだとナマエはうんざりする。しかし父も母もこんなに構ってくれなかった。私に構ってくれるのは世界でただ一人、ベレト先生だけだ。ナマエはベレトを面倒臭いと思いながらも、彼のことを嫌ってはいなかった。
「じゃあ当日。会場に来ていなかったら寮の部屋まで出張するからな」
「はいはい、わかりましたよ」
ナマエの返事にベレト満足げに笑って立ち去る。残されたナマエは疲れたと姿勢を崩した。
舞踏会当日、ナマエは普段はしない化粧をしていた。本当は舞踏会を少しだけ楽しみにしていた。誰かに、いや、あの人に可愛いと言われたくて、慣れない化粧を頑張った。
「ナマエ、ちゃんと来たんだな」
「寮の部屋まで押し掛けられたら困りますから」
「そうかそうか、言ってみるものだな」
良かったと微笑むベレトは化粧をしたナマエを見て、可愛いとは言わなかった。ただ、いつものベレトだ。ナマエはその態度に何だか苛ついてしまう。
「私は料理を食べたら帰りますから」
「折角の舞踏会なのに踊っていかないのか?」
「そんなことしなくたって良いでしょう。内申に響くわけでもないですし」
「ほら、お手を拝借」
「先生、聞いていました?」
聞いていなかったかもな。ベレトはそう言って笑顔を崩さない。ナマエはむすっとしたまま皿に料理を盛り始める。
その後、人気のベレトは他の生徒に捕まり、ホールの中心へと姿を消した。
一人で黙々と料理を食べたナマエは、あの華やかな空気から逃れる為、人気のない場所を求めて女神の塔へ来ていた。そこに、ベレトがやってくる。この様子だと全ての誘いを捌き切った後だろう。少し疲れたような、そんな表情だ。
「ナマエ、こんなところにいたのか」
「…先生」
「この塔の伝説を知っているか?俺はさっきドロテアから聞いてきた」
「あんな迷信を信じているんですか…?」
「良いじゃないか、迷信でも」
「そんなものですかね」
頬が赤いナマエを見て、ベレトはくすくすと笑う。ああ、彼女はわかりやすい。今までのことを考えてもそうだ。脈ありじゃないか。だから少しからかいたくなってしまう。
「俺は此処で愛を告白しあった二人は、いつまでも添い遂げると思っているよ。ナマエにもそういう人がすぐにできるさ」
「何を根拠に…」
「人の心は根拠なんてものには縛られないだろう?それに本当にすぐできる。だってナマエの目の前には、ナマエの好きな人がいるだろ?」
「な、な、何を…!」
慌てて口をぱくぱくさせるナマエに向かって、なあんてな、とベレトは悪戯っぽい表情。するとナマエは顔を真っ赤にしたまま声を上げた。
「貴方、教師としての自覚が足りないんじゃないの!」
「そうかもな。だから、卒業するまでお預けだ」
ベレトは赤く熟れたナマエの顔を覗き込む。
「私、もう部ナマエ屋に帰ります!」
恥ずかしさを置いていこうとナマエは大股で歩き始める。そんな帰りがけの彼女に向かってベレトは呟く。
「好きだよ、ナマエ」
ぽつり呟く言葉が耳に入ってくるが、ナマエは知らないフリをして女神の塔を立ち去る。もう恥ずかしさと嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。
「今の、ちゃんと聞こえたかな」
残ったベレトは暗がりでもわかるくらいに真っ赤になっていた彼女の顔を思い出し、口角を吊り上げた。