わたしは貴方のお人形

両手で押し潰した気道はヒューヒューとか細い呼吸音を漏らすだけで、彼は抵抗することなく観念した表情で我が子をずっと見つめていた。指先に感じる脈が止まるまで、握力が無くなるまで必死で締めた首にはふたつの小さな紅葉が落ちていた。この瞬間ベストラ魔道工兵の一員である私は、その長である宮内卿を手に掛けた大罪人となった。しかし、これで良いのだと自分に言い聞かせる。彼の死はフォドラの未来の為に避けられない事象だったのだ。

「おや、終わりましたか?」
「…滞りなく」

肉親がこうして目の前で息を引き取ったというのに、彼は何時もの様に冷たい笑みを漏らすだけだ。私のこの手には、確かに人の命を奪った感覚が残っているというのに。肉親の死にも表情ひとつ変えない彼は、泡を吹き動かない父親の首に手を添え脈が止まった事を確認すると、此方に向き直り微笑んだ。他の部下には見せないこの笑顔を私に向けていただけるのならば、私は何だってやってみせる。

「よくやりました。あとは此れを処分しておいてください」

ヒューベルト様の指示通り、黒魔法でベストラ候を消し炭にする。火葬という文化があるのはブリギットだったかダグザだったか…記憶は定かではないが、これがベストラ候への弔いとなることを信じて灰になるまで燃やし尽くす。服の繊維が焼ける匂い、髪が焼ける匂い、肉が焼ける匂いが鼻をついた。

「よく出来ました」
「帝国王室を陰で支えてきた魔道士として、この程度は造作もないことです」
「そうですか。では、次はセイロス教相手にその力を存分に奮って下さい」
「お約束します、ヒューベルト様」

もう後には引けない程にこの手は汚れてしまっている。彼が殺せと言うのなら、私は女神だって殺して見せよう。化物に支配された人間を解放し、人の世を人の世で在らしめるために。

「ヒューベルト様」
「どうしました?」
「幾人をも手に掛けた私は最早人間ではありません。戦いの後、もし私が不要となった際は申しつけ下さい。この手で最後の化物を殺してみせましょう」

私の言葉を受けくつくつと笑った顔が耳元に寄せられる。その時は、私が貴女を殺してあげますよ。吐息混じりに囁かれた言葉に安心してしまう私は、最早どうしようもなく可笑しくなってしまっているのだろう。

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