愛おしさに引き寄せられる。
硲道夫というアイドルとお付き合いしている。私は所謂一般人であり、彼の仕事についてはテレビやライブなどで見える部分と、彼が時々話してくれることくらいしか知らない。話の流れで私から質問することはあるけれど、裏話的なことを深堀しようとは思わない。彼のお仕事が少し特殊だということは認識しているつもりだ。良いこともだけど悪いこともあることは伝わってくる。でも、彼が夢を語っている時が本当に好きだから、出来る限り応援したいのだ。
今日は久しぶりに私の家に寄れると昼間に連絡が入っていた。でも現在は日付が変わるまであと2時間程。1時間前に生存確認の連絡を入れると、少しして既読だけが表示された。
テレビのニュース番組をぼんやりと眺め、時々スマホに手を伸ばすが何の通知も無かった。
「ふぅ…寝る準備をしますかね。」
明日も仕事だ。残念だけれど、先に休ませてもらおう…と立ち上がった時にガチャンと玄関のカギが開く音がした。
「ただいま、帰るのが遅くなって申し訳ない。」
その声に嬉しくなって急いで玄関に向かう。
「おかえりなさい!お疲れ様で…」
言い終わる前に暖かい温もりに包まれた。こんなことは今までなかったから驚いた。ぎゅっと強く抱きしめられた時に彼が大きく深呼吸したのを感じた。
それが愛しくてたまらなかった。
「っ、すまない。」
と体を離そうとしたので急いで両手に力を込めた。今度は私が道夫さんを抱きしめる番だ。身長差があるから背伸びをして道夫さんの耳におでこを寄せる。まるで愛しい人に引き寄せられているようで、この感覚は一生忘れることはないと思う。
少し体を離して道夫さんの顔を見て
「おかえりなさい。」
ちゅっと唇に軽いキスをすると、驚いたようにまつ毛が揺れるのが見えて思わず笑ってしまった。