一歩進んで
ライブツアーの打ち上げ。しかし今回の打ち上げはアイドル達からの提案によりアイドル達が主催となり、スタッフ達を労う会となった。これまでプロデューサーと飲むこともあったが、いつもは“保護者的立場”を貫き通すため、酔った姿はあまり見たことがなかった。一般的に見ればお酒は強い方だと思うのだが、今日はツアーのあとで疲れも溜まっていたためか、いつもより早くアルコールが回っていた。
「だ…大丈夫!1人で、帰られる、から!」
「ぷっくくく、プロデューサーの超レアな姿だなぁ。」
「なぁに、輝さん笑ってるんですかぁ!」
“もぉ!”とヨロヨロのパンチで腕を叩かれたが全く痛くないし、不貞腐れる顔が堪らなく可愛かった。
さっさと送る役を名乗り出て良かった、と心の中で呟いた。
マンション前でタクシーを下り、足取りがあまりに不安だったため、本人に確認した上でプロデューサーの部屋まで送る。一歩一歩進める度に、少しずつ空気が変わるのを感じていた。顔はにこやかだが会話はない。そうしてプロデューサーの部屋の前に辿り着いた。
「ここまでありがとうございましたぁ。」
「おう、明日はオフだろ?ゆっくり休めよ。」
ぽんっと頭に手を置き撫でる。
「それではっ!」
輝に背中を向けて鍵を開ける。ドアノブに手を掛けるがなかなかその手が動かなかった。
「どうした?プロデューサー?」
意を決したようにプロデューサーは振り返るが顔は下を向いたまま。つんっと輝のジャケットの裾を掴む。
「…コーヒーでも飲んでいきませんか?」
「ったく、お前なぁ……!」
その小さな声をきっかけに輝はプロデューサーを抱き寄せ、大きく深呼吸する。
「今日は帰る。今度、お前が酔っぱらってない時に正式に来るから。」
そう言って体を離すと部屋のドアを開け、プロデューサーを部屋の中に押し込め、
「おやすみ。」
と、ドアを閉めた。
「……ちくしょう〜〜〜っ。」
締めたドアを背にズルズルとしゃがみ込む。
「よく我慢したわ、俺!偉い!」
真っ赤になった顔を両手で覆いながら煌々と照らす電灯を睨みつけた。
そのドアの裏側で、
「……あぁぁ…やってしまった……。」
一気に酔いが覚めたプロデューサーが同じく真っ赤にした顔を両手で覆い、しゃがみ込んでいた。