焦がれる
315プロダクションのミーティングルームで次回ライブの打ち合わせ。
初めてのソロ曲披露に、硲さんもかなり気合いを入れて取り組んでいるのがわかる。
「確認事項は以上だ。また気付いたことがあればすぐ連絡を入れるので、よろしく頼む。」
机の上に並べられていた資料をまとめ、たくさん書き込みをしていたノートを閉じる。
「お疲れ様でした。今日はゆっくり休んでくださいね。」
整然と片付けていくその人に笑顔で労いの言葉を送る。
そんなことを言わなくても、この人は明日のイベントに向けて自分のコンディションを整えるだろう。
だけど、少しでも心配していること、伝わるといいな、なんて思いながら言葉にしていた。
「問題ない。体力の回復についてはすでに心得ている。明日も最善を尽くすのみだ。」
予想通りの言葉にちょっと笑いそうになってしまったがぐっと堪えた。
「はい、楽しみにしています!」
笑顔で答え、ミーティングルームの入り口に向かうその背中を見つめる。
「っ…」
胸の奥深くで触れてみたいと焦がれるけれど、手を伸ばすことは、出来ない。
声を掛ければ振り返ってくれる。
でもその先、プロデューサーとしての言葉はきっと出てこない。
ぎゅっと手を握り締め俯いた。
「何故そんな苦しそうな顔をしているのだ?」
その声にハッと顔を上げる。
油断していた。見送ったと思っていたのに、いつの間にかこちらに視線が注がれていた。
「具合でも悪いのか?」
ゆっくりとこちらに近付いてくるのに、一歩後ずさりすることしか出来ない。
「何でもありません。大丈夫ですよ。」
今出来る、精一杯の笑顔を作るが、自分でもわかるほどぎこちない笑顔だった。
「…君はいつもそうやって、無理をしているのではないのか?」
ゆっくりと動かされたその手が、少しの躊躇いを見せた。
慰めようと、あやそうと、私の髪に、頬に、触れようとするのならば止めてほしい。
きっとその優しさに、気持ちが溢れてしまいそうだから。