幸せの選択肢
「今日もお疲れ様でした〜!」
「はい、お疲れ様〜」
冷蔵庫で冷やしていた缶ビールで乾杯。
ゴクゴクと喉を鳴らし「ぷはっ!」と同じタイミングで飲み終えただけで思わず笑ってしまった。
私の部屋に彼が来るようになってだいぶ経つけれど、回数は数える程度。それほど彼のアイドル活動が充実しているということだ。
テレビからは芸人やアイドルが出ているクイズ番組が流れている。今度出演オファーを頂けたので予習も兼ねて見ているのだ。少しバラエティ色の強い番組だが、S.E.Mなら自信を持って送りこめるな、と確信を持てたのでニヤけてしまう。職業病か…。
今もこうして彼と会うことに後ろめたいような抵抗感を感じないわけではない。アイドルユニットのS.E.Mをプロデューサーとして支えるのが私の仕事だ。S.E.Mのみんなが伝えたい思い、叶えたい夢をサポートすること、スポットライトを浴びてファンの皆様からの温かい声援を受ける彼らを見ることが私の幸せでもあるのに、そこから少し欲張って秘密の時間を持つようになってしまった。
「まーた何か難しいこと考えてるんでしょ。」
スーパーで買ってきたお惣菜をつまみながら、もう頬が赤く染まっているその人が笑って私を見ている。
「仕事のことをちょっと。」
そう言えば、買っておいた乾きものがあったはず、と台所に向かう。
戸棚を開けながら胸の中のざわざわが治まらず、感情が高まってしまう。
今とても幸せなのだ。
仕事の充実感も大好きな人と過ごす秘密の時間もどちらも大切で私を幸せにしてくれる。だからどちらも手離したくない。どちらも欲しい。欲張りなのだ。
野菜があるから炒め物でも作ろうか。気持ちを落ち着けないと彼の顔がまともに見られない。冷蔵庫の野菜室からキャベツ、ニンジンなどを取りだし、洗うために蛇口から水を出す。水が流し場へ吸い込まれていく。ポタリと涙が一粒、その渦の中に流れた。
「お、何か作ってくれるの?嬉しいねぇ。」
頭上から声が聞こえたと同時に温かいものに後ろから包まれた。
「野菜炒めですよ?次郎さんの方が何かおいしいものちゃちゃっと作れるんじゃないですか!?」
「えーー、彼女の手料理に意味があるんでしょう。あ、お肉多めにね。」
片手は腰に回されたままで、もう片方の手で頭をポンポンと撫でられると、顔は笑っていたのにまた涙が出てきてしまう。それは泣く場所を無くさないでくれる、彼の優しさだ。
「あんまりおじさんを1人にしておかないでよね。寂しいでしょ。」
コクリと頷いて返事をすると、抱きしめられている腕にぎゅっと力が込められたから、その腕に甘えてさらに泣いてしまった。