ぬくもりを繋ぎとめて
天気予報では都心でも雪が降るかもしれないと伝えられた冬の日、事務所で1人、パソコンに向かっていると、
「おはよう、ございます」
と、マフラーに顔の多くが覆われている夏来が入ってきた。
「おはようございます!今日は早いですね。」
打ち合わせの時間まで、あと1時間ほどあった。
「うん、台本を、読んでおきたくて…」
マフラーを外すと頬も鼻の頭も少し赤くなっている。
「外、寒かったですよね。」
何か温かいものを淹れようと、椅子から立ち上がり、夏来のもとに向かう。
「何か温かいもの飲みませんか?」
と問いかけると、
「ん」
と夏来は両手を差し出す。その意味がわからずに夏来の顔を見ると、その手がプロデューサーの頬を包んだ。
「っ!冷たい!」
びっくりして思わず“ひゃっ”という普段出さない高い声が出てしまった。
「ごめんなさい。でも、プロデューサーさんのほっぺ、あったかい。」
“ごめんなさい”の気持ちがあまり感じられなかったけれど、にっこりと笑っている夏来に怒る気持ちは全く生まれなかった。
頬に当てられた両手に自分の手を添えて頬から外すと、今度は冷えた夏来の手を包んだ。
「風邪引かないように、暖まりましょう。ココアがいいかな。」
そう言って自然に手を離そうとした瞬間、
「あっ…」
引きとめられた右手がきゅっと夏来に捕まえられる。
「え?…ど、どうしました??」
出来るだけ平静を装って、夏来の反応を待つ。心臓の音がうるさい。これは私の音か、それとも、握られた手から伝わってくる夏来の音か…。
「あの、プロデューサーさん…」
少しの沈黙のあと、次の言葉を紡ごうとした時、
「おっはようございまーーーーすっす!!!俺っち一番!!!」
「うわぁ、あとちょっとだったのに…四季に負けたぁ!!」
勢いよく入ってきた四季と隼人。2人とも階段を競争してきた様子で、膝に手をつき、呼吸を整えている。
先程とは違う理由で心臓が早くなった。驚いた瞬間に、夏来はプロデューサーを自分の後ろに隠し、そしてお互いの手が離れた。
「ったく、2人は元気だよなぁ〜。ふぁああ。」
と大きな欠伸と共に春名が事務所へ入り、夏来と夏来の陰にいるプロデューサーに気付く。
「あれ?夏来、早かったですね。」
少し遅れて入ってきた旬が不思議そうに夏来の顔を見る。
「みなさん、おはようございます。High×Joker揃いましたね!少し休んだらちょっと早いですが打ち合わせを始めましょうか。」
夏来の後ろからひょこっと出てきたプロデューサーの頬が少し赤くなっていて、さらに旬は眉間に皺を寄せ「???」と頭を傾げていた。
◆ ◇ ◆ ◇
打ち合わせのため、プロデューサーも他のメンバーも会議室に向かう。
先程、驚いた瞬間にプロデューサーの手を引いて自分の後ろに隠した。急にやってきた謎の来訪者から、彼女を守ったのだろうか?そんな自分に驚いて、右の掌にそっと視線を落とす。
(僕は、何を伝えたかったのかな…。)
と、ぼんやりと夏来は思った。
でもみんなが来る前、思わずプロデューサーの手を引きとめたのは、もっとあの暖かなぬくもりに触れていたかったから。それだけは、はっきりとわかる。
ふうっと小さく息を吐いて、会議室に向かおうと一歩踏み出したら、後ろからきた春名に頭をくしゃっと撫でられた。