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斎藤一side



九月四日。会津。
俺が十三名の新選組隊士を率いた、如来堂の戦い。敵の攻撃を受け混乱状態に陥り、さらに数名の隊士を失い……。
俺もまた九死に一生を得、森へと落ち延びるしかなかった。

香耶を探すために残ったという、平助たちは大丈夫だろうか。
俺にはもう……おそらくは降伏しか道がない。
俺たちはことさら新政府軍に憎まれている。この先、おそらく屈辱を強いられることになるのだろう。

もし変若水を飲んでいれば、もっと戦えただろうか。



「いいや、違うよ」

なんだと。なぜ違うと言える。


「変若水は歴史から消えた」

それは……確かに山南さんは、変若水をひとつたりとも残していかなかったが……。


「心配せずとも、君は正しい道を歩んでいる」

これが……正しい道だと。


「そう。そして、君もまた、歴史から淘汰される」

俺は、ここで死ぬということか……。


「……表向きには」

おまえは、何者だ。新政府軍の者か。
さく、と枯葉を踏む足音が、やけに耳に響いた。

「それが、私が作る歴史。未来」

女の声。
俺はこの声を……知っている。

逆光を背に浴びて現れた女は。
枯葉を舞い上げる烈風に、首筋で切りそろえられた銀髪を揺らした。

「久しぶり。一君」


───、

ただ、呆然と。
俺の唇は、その者の名を刻んだ。


香耶、と

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