里の朝に
沖田香耶side
「あ〜う〜」
「あ〜かわいいな〜」
総司君が息子の礼司の周りをごろごろしている。
もともと子供好きで赤子の扱いにも慣れている彼は、今のところ子煩悩親父になってしまっている。礼司がもっと大きく成長したら、総司君の対応も変わってくるのかな。楽しみだ。
「総司君。道場に行く時間じゃないの?」
「んー、ずっとこうしていたいのに」
すっかりだらけた様子で起き上がる総司君。早く行かないと歳三君が怒鳴り込んできちゃうよ。
「礼司を見てくれてありがとう」
「いいよ。僕と香耶の子供なんだし」
不意打ちで私の唇に、ちぅっと吸い付いてくる。息子の前で恥ずかしいな。
「行ってきたんでしょ? 朝市。どうだった?」
「おもしろかった!」
私は即答した。
今朝は息子を夫に預け、千鶴ちゃんと連れ立って地元の少し大規模な朝市へとくりだしたのだ。
古着や小間物、取れたて野菜に旬の漬物、お惣菜に甘味。やっぱり上方と違って安く何でも手に入る。
「今日は栗ご飯に秋刀魚に松茸! 行商の人もおまけしてくれてね、美人だからって言ってくれた!」
鼻息荒く説明する私に、総司君は笑ってうなずいてくれていたけど、最後の一言に笑顔の質が変わった。
「次は僕も一緒に行くよ」
「え? でも正体がばれたら……」
「平気だよ。刀も差してないのに、こんな田舎で僕らのことがわかる人がいるとは思えない」
「まぁ……ちゃんと偽名を使ってればそうそうばれないか」
「君に色目を使う男は、僕がみんな殴ってあげる」
「いやいや何言ってるの。誰が誰に色目使ってるって?」
まさかさっきの、行商の人の話のことを言ってるのだろうか。あんなのはリップサービスにすぎないのに。
ちょっと口を尖らせると、その唇を総司君が人差し指で押さえる。
「君が美人で可愛くて魅力的な女性だってことは本当のことなんだよ。そんな君を狙う不貞の輩から、君を守らないと」
「ぶふっ!」
口が勝手に笑ってしまう。なんだこの馬鹿ップルな会話。
「わかったわかった。次は君もついてきて」
「真面目に言ってるのに……」
笑いの止まらない私に、総司君が拗ねた。
この瞬間もひとつひとつが愛おしい。
「総司───!!」
「あ、道場」
今日も隠れ里は平和だ。
(2012/11/10)