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月神香耶side
平助君は、やっぱりこの世界でも新選組を離隊してしまうんだろう。
総司君だって、いつ労咳を発症するか分からない。敬助君は羅刹の研究を止めようとしない。
新選組で生きて、新選組を見限り、新選組のために命を落とす。そうしようとする、みんなの意志を、変えることはできない。
そうして、私はまた何もかも失うのか。立ち止まって、泣き喚いて、それでもこの手に残るものってなんだろう。
「───!?」
「わっ!? どうしたの?」
急に飛び起きた私の顔を覗き込み、総司君は眉をひそめた。
「怖い夢でも見た?」
心臓が、どきどき鳴ってる。総司君は、目の横に滲む涙をぬぐってくれた。
……なんて説明したらいいのかわからない。未来のことを考えてるうちに、どうしようもない不安に駆られる。それだけのことだ。
「……なんでもない」
「なんでもなくてそんなに涙が出るの?」
いつの間にか涙が止まらなくなっていた。
「うぅ…」
「おいで。よしよし」
総司君の腕の中は、安心するはずなのに。
「僕がついてるから」
総司君だって、いずれ死んでしまう。私を残して。
そんなこと。今考えてもどうしようもない。
「……怖いよ」
「泣かないで。君が泣くと、どうしたらいいか分からなくなる」
怖い。
誰かを失うことが。
今が、幸せだから。
私は総司君の肩に顔をうずめて泣いた。総司君はずっと私を抱きしめてくれた。
永遠なんて望まない。でももう少し、このままでいさせて。
ある日の夜。
今日はちゃんと自室で眠れる日。
「……役立たずの子供、かあ」
なのに、隣の布団の千鶴ちゃんが、溜息ばっかりついてる。
「なんか言われたの? 総司君に」
「えっ!? な、なんで分かったん……あ」
千鶴ちゃんは、にやりと笑う私の顔を見て、盛大に口を滑らせたことを自覚したようだ。
「君が今日、一日中私の顔を見てはそわそわしてた理由を教えてくれるのかなぁ」
「あぅ…」
そして、かっくりと肩を落とした。
千鶴ちゃんは、昼間の巡察での出来事を話してくれた。
「あははは、まぁ、君の気持ちはわかるけど。総司君なりに、千鶴ちゃんのことを心配してるってことなんじゃない?」
「そ、そうでしょうか……」
「薫君、元気そうだった?」
「……はい」
巡察中に薫君を見つけた千鶴ちゃんは、隊を離れて彼を追いかけていってしまったらしい。役立たずの子供なんだから行動には注意しろって、お小言をもらったそうだ。
総司君の言い方が手厳しいのはいつものこと。あいかわらず私と近藤さん意外には、優しくしてやろうという気は無いらしい。
「私が薫君のことを気にしすぎるから、内緒にしておいてって言われたの?」
「あの、その……すみません、香耶さん」
「そんな顔しないでよ。怒ってなんかいないのに」
「沖田さんは、香耶さんが悲しい顔をしないか、無茶なことをしないかって、いつも気にしてらっしゃって…」
「うん」
「私、いつも自分のことで精一杯だから、なんだか恥ずかしいです」
「君はそれでいいんじゃないの? 私だって、自分のことしか考えてないもの」
『ついでに言えば、沖田さんはきっと、やきもちを妬いてるだけですよ。香耶さんが薫さんのことを考えるのが癪なだけです』
「ゼロさん…!?」
暗闇に溶けるように姿を現すゼロ。もう、力を失っていたときのような、毛玉姿じゃなくなって、外に出たくて仕方ないらしい。
「ゼロ。ガールズトークに口を挟まないでよ」
『僕を空気読めないみたいに言わないでくださいよ。緊急事態です』
「え?」
「はい?」
かた…ばたん!
大きな音を立てて、いきなりふすまが部屋に倒れこんでくる。
「なっ!?」
私はとっさに枕もとの“狂桜”を引っつかんで跳ね起きた。
『だから緊急事態だって言ったじゃないですか』
「そんな、もののついでみたいに言わないでください!」
部屋の入り口には、隊士と思われる男が立っていて。婦女子の部屋に押し入るなんて、と私は鋭く睨みつけた。
「何の用だ! 金か、女か!」
『沖田さんの唾付きを襲おうだなんて、どこの勇者ですか!』
「あんたはちょっと黙っとれ!」
こいつのせいで緊迫感が台無しだよ。のっかる私も私なんだけど。
だが、目の前の隊士の次のせりふに、私たちは驚愕することになる。
「血……血を寄越せ……」
「「!!?」」