「で、あいつとはどこまでいったの?」
「ぶっ!」
メイヴちゃんの率直なその問いかけに、私は先程エミヤが淹れてくれた紅茶を吹き出しかける。
「どどどどどどこまでって…」
「あーもう!どこも何もナニに決まってるじゃない!」
顔を真っ赤にする私に、もう我慢ならないといった様子でメイヴちゃんが声をあげる。もう少しオブラートに包んで物を言ってほしいものだが、ケルトの(色々な意味で)有名な女王様には私の言葉は届かないだろう。メイヴちゃんがドン、とテーブルを叩いたせいで、ティーカップが少し浮いた。
「ナ、ナ、ナ、ナニって、その……この前、手を繋いだり、した、けど…」
しどろもどろと話す私に、はぁ〜〜〜〜〜とメイヴちゃんの長い溜め息が降りかかる。
メイヴちゃんは私がマスターになったばかりの頃からお世話になっているサーヴァントで、彼女の良い意味でも悪い意味でも真っ直ぐなところに助けられ、人理修復が終わった今でもお世話になり続けているのだ。そんな彼女だからこそ、私と、恋人である金時の仲を心配しているのだろう。
「金時と付き合ってどのくらい経ったと思ってるの?」
「半年…」
「それでまだ手を繋ぐとこまでしかいってないっておかしいから!!」
先程よりも強くテーブルを叩くメイヴちゃん。今度こそティーカップが倒れて中身が溢れそうになったので、私は慌てて2人分のティーカップを支えた。
「そ、そう言われても…。私だってもっと先の方まで進みたいとは思ってるよ?」
「そりゃあそうよ。寧ろ今のままで満足してるなら私が喝を入れてやるところだったわ」
「でも…金時がそれ以上を許してくれるというか…堪えられるかが心配で…」
「あ〜……」
メイヴちゃんより少し後に来た金時は、メイヴちゃんと同じように私やカルデアを支えてくれた大切なサーヴァントであり、そして私の恋人でもある。半年前、ゲーティアとの闘いの後、疲弊し、ボロボロになって帰って来た私を1番に抱き締め、私が好きだと言ってくれた金時の顔は一生忘れないだろう。あの時、私もどれだけ金時の事が好きなのか思い知らされた。気持ちが通じ合った私達は、それから主従から恋人という関係になったんだけども…。
「手を繋いだのも私からだし、いきなり繋いじゃったら『そういうのはまだ早いじゃん!』って言われて暫く距離を置いて話すようになっちゃったし…」
キスなんてしてしまったら一体どうなってしまうのか。その場で倒れてしまうのはまだ序の口として、きっと暫くは話しかけても避けられてしまうのではないだろうか。その様子が容易く想像出来てしまうから怖いのだ。
真面目な金時の事だから、私を大事にしてくれているのも分かっている。ノリやその場任せで告白してきたわけでもないと分かっているのに…
「本当に、金時は私の事好きなのかな…」
ぽつりと漏らしてしまった私の言葉を聞いて、メイヴちゃんはガタン、と大きな音を出して立ち上がる。
「メ、メイヴちゃん…?」
「…#name#はそこにいて!」
メイヴちゃんは先程までの雰囲気とは打って変わり、真面目な、いや怒っているような顔をして何処かへ行ってしまう。私が余りにも情けないから怒ってしまったのだろうか。呆れてしまったのだろうか。あぁ、金時とも順調とは言いづらいのに、メイヴちゃんにまで嫌われるのは嫌だなぁ…。
はぁ、と小さく溜め息を吐いてテーブルに額をくっつける。
その時、どすどすどす、と力を込めて地面を踏みしめる音が聞こえた。
「お、おい!何処に連れてくんだって…!」
目の前に現れたのは、やっぱり怒ってる表情のメイヴちゃんと、その彼女に腕を引かれて連れて来られた金時だった。何が何だか分からない、という顔をした彼は、私を見るなり顔を赤くさせて「と、とにかく手を離せ!」とメイヴちゃんの手を振りほどく。私が手を繋いだ時は大人しく手を引かれてなんかくれなかったのに、メイヴちゃんはいいんだ…なんて汚いもやもやとした気持ちが胸の辺りに広がった。
「何で連れて来られたのも分かってないの!?」
「だ、だから何度も聞いてんじゃんかよ…!」
「#name#があんたの事で悩んでるっていうのにあんたはうじうじうじうじ…。あのね、彼女に本当に自分の事が好きなのかって悩ませるなんて彼氏失格よ!」
やはり率直と言いますか、その。
「#name#にキスするまで許さないから!」
「メ、メイヴちゃん!?」
とんでもない発言を言い残し、彼女はバン!と音を立てて扉を閉めて出て行ってしまう。
取り残された私達には気まずい雰囲気が流れ、暫くして、金時が口を開いた。
「あ、あのよ…俺が#name#の事好きなのかって悩んでるって、本当か…」
どきり、と悪い事をした時のような気持ちになった。私の事を命を懸けて守ってくれて、何よりも大切にしてくれている金時にそんな疑いの気持ちを抱いてしまうなんて、マスターとして、恋人として最低だと自分でも思うからだ。
「…う、うん…。え、えっと、金時が恥ずかしがってるのは分かる、けど、そんなに拒絶されたら少し…いや結構ショックっていうか…」
触れ合う事だけが恋人として重要な事ではない。それも分かっているが、やはり私も普通の1人の女の子として、好きな人とそういう事がしたいという欲求はある。
それに、目鼻立ちの良いサーヴァント達が軒並み揃っているこのカルデアならば、他の人に目移りしてしまうかもしれない。だからこそ彼を繋ぎとめておきたいと思うのだろうか。自分に自信が無いからこそ嫉妬してしまうのだろうけど。…あぁ、本当に自分が嫌だ。じわ、と瞳に涙が浮かぶのを感じる。
「あ、あー…それは悪かったと思って…って、何で泣いてんだよ!」
「何か私、金時の彼女にふさわしくない気が、して…」
一回出てしまった涙は止める事が出来ず、年甲斐もなく、涙はそのままぼろぼろと頬を流れていく。
「な、何でそんな事言うんだよ!」
「だ、だって…」
「お、お、俺は、#name#の事すげー大事に思ってるし、恋人になってくれてめっちゃ嬉しい…。けど、俺はこういう事に慣れてないから…だから#name#を嫌な気持ちににさせちゃうんだろうけど…。あー!ウジウジしてんのは漢らしくねぇよな!」
ブツブツ言っていた金時が、勢いよく私の肩を掴む。
「#name#が嫌じゃなければ、その、キ、キ、キ、キ、ス、しても、いい、か…?」
その2文字を言うのにあまりにも吃るものだから、泣いていた筈の私はつい吹き出してしまう。
「ふ、ふふ、金時、どんだけ緊張して…」
「だ、だってよ!俺、初めてだから…」
「うん、私も初めて。だからおあいこ」
そう言えば、私の肩を掴んでいた金時の手が強張るのを感じた。
「ほ、本当に良いんだな…」
「もう、金時以外にファーストキスを譲る気はないんだから、早くして」
「…!わ、わーってるよ…!」
彼はそう言ってサングラスを外す。彼の青い瞳を見るのはもしかしたら初めてかもしれない。彼の美しい青が私の瞳を見つめる。このまま彼の瞳を眺めていたかったがそうもいかないので、私は照れながらも目を瞑った。そうして彼の顔が近付くのを感じ、私達はそのまま…。
「おー!#name#!こんなところにおったか!聞いてくれ!」
「!?い、茨木ちゃん!?」
突然の来訪者に、私達はお互い顔を赤くさせながら慌てて離れる。扉を勢いよく開けて入って来た茨木ちゃんは何やら憤慨している様子だった。
「ど、どうしたの?怒ってるみたいだけど…」
「我の隠していた菓子が無くなってしまったのだ!誰かが盗んだに違いない!」
「あ、そ、そうなの?それは大変だね…」
「うむ!だから#name#も犯人探しに付いてこい!一緒に我の大事な菓子を盗んだ犯人を塵芥にしてやろうぞ!」
「塵芥にはしないけど、もし盗んだのなら注意しないといけないね」
甘い物が大好きな茨木ちゃんが自分のお菓子を盗まれたとするならばそりゃあ憤慨もするだろうな、と納得する。きっと茨木ちゃんは犯人を捕まえるまで私を離しはしないだろうという事も理解出来た。
「そ、そういう事みたいだから、申し訳ないんだけど…」
正直、目的を達成出来なかったのは残念だがしょうがない。きっと暫く茨木ちゃんに連れ回される羽目になるだろうし、置いてけぼりになっている金時に謝ろうと振り向くと、そこには直ぐ近くに青い瞳があり、そして、
「〜〜っ!、??」
いきなり頬に触れた感触を理解したと同時に、私の顔は急速に熱を持つ。あの金時が、不意打ちでほっぺたにキスとか、そんな。
「?どうした#name#?早く犯人を捕えに行くぞ!」
「あ、え、う、うん!そ、そうだね!」
茨木ちゃんには幸いにも見られていなかったらしく、不思議そうに此方を振り返り、急かす様に私の手を取った。私は部屋を出る前にもう一度ちらりと金時を見てみると、それはそれは顔を真っ赤にさせた金時がそこにいた。
「あ、えっと、終わったらよ…#name#の部屋で待ってるから。そしたらよ、次はちゃんと、」
「…っ!う、うん…!」
最後の方はちゃんと聞こえなかったけど、そういう事なのだろう。と、理解してまた私は顔を赤くさせた。茨木ちゃんに手を引かれながら、あの真剣な青い双眸と真っ赤な顔を思い出し、他の人に目移りだなんて彼は出来ないんだろうな、と自惚れと共に、メイヴちゃんに明日お礼言わなきゃなあと思ったのである。
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