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藤隆さんに会った時

不思議と懐かしい気持ちがした


Selene



「木之本藤隆です。今日はさくらさんのことよろしくお願いします。」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

浴衣を着付けてもらうため、木之本家に訪れた私。
玄関で出迎えてくれた藤隆さんは、想像していた通り、優しそうな人だった。

「たまにはいいな。そういうのも。」

桃矢さんの視線が、いつもとは違う浴衣に合うようアップした頭に注がれ、思わず赤面する。
桃矢さんは自分がイケメンであることをもっと自覚すべきだ。
心臓に悪い。

「俺の部屋使っていいから、ある程度できたら声かけてくれ。」

先に着付けの完了している桃矢さんが、部屋へと誘導してくれる。
浴衣は桃矢さんによく似合っていて、学校のファンの子たちがみたら黄色い悲鳴があがりそうだ。

いいんだろうか。
学校の人気者の桃矢さん、雪兎さんと、私なんかがお祭りに行って。

今日はペンギン大王公園の夏祭り。
雪兎さんと一緒にさくらちゃんの保護者としてついて行くことになったから、一緒にくるか?と誘われたのは、つい昨日のこと。

折角だから浴衣も着て行こう、という話になったものの、もう着付けてくれる施設長はいない。
どうしようかと困っていたところを”父さんに着付けてもらえばいい”と桃矢さんに言われ、今にいたる。



「藤隆さん、お願いしまーす!」
私は桃矢さんの部屋で中が見えない程度に浴衣を巻き付けると、藤隆さんを呼んだ。

「きつかったりしたら言ってくださいね。」
藤隆さんが慣れた手つきで浴衣を着つけていく。
浴衣の着付けができるお父さん、って・・・あんまりいないよね。

すごいな。

藤隆さんの手元を見つめていると、藤隆さんは手を休めないまま口を開いた。

「さくらさんが、あなたのことをよく話してくれます。なんだかお姉さんができたみたいだ、と。あ、ちょっと後ろ向いてください。うん、そう。」

お姉さん・・・か。
嬉しいな。

「仲良くしていただいて、ありがとうございます。」
「いえ、そんな!こちらこそ、そんな風に思ってもらえてるなんて嬉しいです。それより私・・桃矢さんにお世話になりっぱなしで・・・」

お礼を言いたいのはこちらの方だ。

藤隆さんが後ろで小さく笑ったのがわかった。

「桃矢くんもね、もう一人妹ができたみたいな、そんな風に思ってるみたいですよ。はっきりとは言わないですけど。」

胸の内に、温かいものが広がっていく。
さくらちゃんと、桃矢さんの気持ちが嬉しい。

まだ会って数か月しか経たないのに。

幸せものだな、私。

「苦しくないですか?」
「・・っはい!」

じゃぁ出来上がりです、と藤隆さんが帯をぽんぽんとたたいた。

「すごい!ありがとうございます。」
「いえいえ。これくらい」

置かれた鏡の前でくるり、くるりと回る。

「これからも、二人のことをよろしくお願いしますね。」

お願いしたいのは、むしろこちらの方で

そう言おうとしたとき、鏡の中で優しく笑う藤隆さんが見えた。

「はい。」

その顔は、桃矢さんとよく似ていた。









「じゃぁ行ってくる。」
「行ってらっしゃい、気を付けてね。」

藤隆さんに見送られ、木之本家をあとにする。

隣を歩くさくらちゃんが、そっと私の手を握った。

手をつないで歩くなんて、いつぶりだろうか。
なんだか、子供に戻ったみたい。

「私の友達の知世ちゃんもくるんです。あとで紹介しますね。」
「うん、どんな子か楽しみだな。」

さくらちゃんの友達だから、間違いなくいい子なのだろう。
表情から察するに、桃矢さんは知世ちゃんのことを知っているようだ。

「遊威の浴衣、それキキョウの花・・・か?」
「そうです。この間買い物に行ったときに、一目惚れして」

ふと、目にとまった。キキョウ柄の浴衣。
店員さんからも似合います、と勧められ、そのまま購入したのだ。

普段の自分より、少しだけ背伸びした落ち着いたデザイン。

「似合わない・・ですか?」
「そんなことないです!大人っぽくてとっても似合ってます!」
桃矢さんが答える前に、さくらちゃんが答えてくれる。

「ありがと。」
「私もいつか、そういう柄が似合うようになりたいです。」

少し顔を赤らめながら、さくらちゃんが続ける。

「さくらちゃんも、とっても似合ってるよ。」

さくらちゃんの兎柄の浴衣は、雪兎さんを意識したものだろうか。
そうだとしたら、可愛い。

「ふふっ」
「ほえ?」

笑ってしまった私に、さくらちゃんは首をかしげた。







***あとがき***
敢えて言うなら桃矢夢要素がかろうじて・・・。
次夢ぽくなるので・・・!(多分)




2019.05.18


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