もしも観月先生との再開の場に居合わせたら




桃矢くんに元彼女がいることくらい知ってた。

それが年上の人だったことも
別れてからも、しばらく引きずっていたことも。

ただ、それはあくまで過去のことで。

むしろ引きずっているところに付け込んで
桃矢くんが引くくらいアピールしまくって

やっとやっと、私は彼女というポジションを手に入れたのだ。

『桃矢くん、好きだよ。私が絶対に絶対に幸せにするから、そろそろ私をあなたの彼女にしてくれませんか。』

『わーったよ。』

何度目かわからない告白に
苦笑しながらも、それでも桃矢くんはOKの返事をくれた。

私が押し切った感は否めないものの、それでも私たちの関係は上手くいっていたと思う。

だから元彼女のことは、私の中では、もう過去のことで

付き合って半年、ずっと気になることなんてなかったのに。




「か・・・ほ・・・・・・」



さくらちゃんたちと一緒にいる女性を見つけ、目を丸くした桃矢くん。

「おっきくなったね、とーや」

突如出来上がる、二人の世界。


一瞬で理解する。
この人だ。

綺麗で優しそうな、大人の女性。

私とは、まるで真逆。



負けた



そんな気持ちが湧き上がった。

今迄気になどしていなかった元彼女の存在が

急激に私の自信を奪っていく。

「と、桃矢くん・・・!知り合い?」

これ以上外から見ているのは耐えられなくて
二人の世界に、割って入る。

「はじめまして、観月歌帆です。」

桃矢くんは気まずそうにちらりと一瞬だけこちらを見て、目を反らした。

目の前の観月さんは、柔らかな笑みをこちらに向けている。

桃矢くんの、この気まずそうな顔は、なんだろう。

この表情は、どういう意味?

「黒羽遊威です。」
「あなたは彼の恋人かしら?」

どう答えようかと桃矢くんに視線を向けると、桃矢くんもこちらを見た。

困ったような表情に、心臓がいやな音を立てる。

「あぁ。」

ため息を吐くようにつぶやかれた言葉。

嫌、だったのだろうか。

観月さんに、私が恋人と答えるのは。

「やっぱり。」

優しく笑う観月さんに、桃矢くんは苦笑いを浮かべていた。










教室に帰ってからも、桃矢くんはなんだかぼんやりとしていた。

まるで私がアピールし始めた頃に戻ったみたい。

不安だけが、大きくなる。

何も言えないまま、帰りの時間を迎え
それでもいつも通り、私たちは並んで帰路についた。



「ねぇ、桃矢くん・・・私のこと・・・好き?」

夕方の公園のベンチ、長くなっていく影を見つめる。

桃矢くんの顔は、怖くて見られない。

一日中抱え続けた不安な気持ち。

これ以上抱えているのは、無理だった。

あの人のように、大人にはなれない。

「気にしてんのか?かほのこと。」

桃矢くんの口から聞く”かほ”の響きに、ズキリと胸が痛む。

再会して、気持ちが再燃していたら?

勝てる気なんて、しなかった。



この半年、うまくいっていた。

手をつないだり、抱きしめたり、キスをしたり

周りからも、お似合いのカップル、と認められていた。

でも

桃矢くんから、好きの言葉は、聞いたことはない。



「桃矢くん、私が恋人か聞かれたとき、困った顔、してたから・・・」
「あれは・・・」

隣でまた、困った声が聞こえた。
だんだんと、目の前が歪んでいく。

ぽたぽたと、涙がスカートに染みを作った。

「遊威」

桃矢くんが立ち上がり、私の前にしゃがむ。

「顔上げろ。」

両手が私の頬を包み、前を向かされる。

桃矢くんは
ったく、と苦笑しながら、親指で私の涙をぬぐった。

「言われたんだ、昔。」

桃矢くんが意を決したように話始める。

「別れ話になったとき。次会うとき、お互いにもっと好きな人がいる、って。かほの言ってた通りになってるのはなんだかシャクだな、って、そう思っただけだ。」

気にさせたなら悪かった、と桃矢くんが謝罪の言葉を口にする。

「言ってた通りに・・なってる?」

”お互いにもっと好きな人が”

「なってる。」
「観月さんより、私はもっと好きな人?」
「そーだよ。」

言い捨てるようにそういうと、桃矢くんは
少し乱暴に、私の頭をなでた。
その顔は、少し赤い。

「桃矢くん、私のこと、好きですか?」
「あぁ。」

ふわり、と桃矢くんの腕に包まれる。

「好きだ、遊威」

頭上から落ちてきた声。

照れ屋の桃矢くんが伝えてくれた
ずっとほしくてほしくて仕方なかった言葉。

「私が幸せにする、って約束したのに、逆になっちゃった。」

「いいんだよ、それで。それに、逆にはなってねェよ。」

桃矢くんのストレートじゃないその言葉に、私の心はまた満たされた。









***あとがき***

やっとまともな桃矢短編!笑
ユエ長編書くために原作読み直してた時に
恋人だったら、あの再会シーンつらいなー、と思いまして。

気に入っていただけたら幸い。


2019.05.28

2015.05.29 タイトル微修正



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