水
カンカン照りの夏空の下、花壇の花へと水を撒く。
魔法を教えてくれる先生のお役に少しでも立ちたくて、今日は練習後にちょっとだけお手伝い。
「ふぅ・・・」
強い日差しが、容赦なく体力を奪う。
ユエは少し離れた木陰で本を読みながら静かにその様子を見守るだけだ。
ずるい。
そう思う気持ちもある反面、近くにいてくれるだけでも嬉しくなってしまう。
近くにいさせてすらもらえなかったのに、今は離れずにいてくれる。
それだけで今は十分だ。
「冷たっ!!」
急に背後から水がかかる。
振り返るとそこにはクスクスと笑いながら水を飛ばしてくるウォーティーの姿。
「こら、ウォーティー!」
私が本気で怒ってなどいないことは、この子もよくわかってる。
ウォーティーは楽し気な顔で、なおもこちらに水を飛ばした。
服と周りの地面が水で濡れていく。
打ち水で涼しくなるから、いいんだけどね。
「もーっ」
ユエは、というと
自分の配下のカードのいたずらを叱るでもなく、こちらをちらっと見ると、また本へと視線を戻した。
その口元が、いつもより笑って見えるのは暑さのせいだろうか。
「ウォーティー、今ちょっと仕事中だから手伝ってよ。」
花壇を指さす。
状況を察したウォーティーは仕方ない、という表情をしながらも、花壇への水まきを開始した。
ウォーティーが手伝ってくれるならあっというまに終わるだろう。
一時作業を中断し、ウォーティーによって濡らされてしまった服を絞る。
うん、これくらいならきっとすぐに乾く。
絞り終えて顔をあげると、一仕事を終えこちらにウォーティーが戻ってくるのが見えた。
「もう終わったの?ありがとう」
どや顔をしているウォーティーが可愛い。
本当に一瞬で終わったな。
花壇に目をやると、花たちが太陽の光を受け輝いている。
綺麗だな、と思いながら見つめていると、何かを思いついたらしいウォーティーが私の肩をつついた。
そのまま、少しだけ上を指さす。
どうやらそこを見ていろ、ということらしい。
何をするのかと待っていると、ウォーティーはぱっと水を空に向け放った。
「わぁ!!!すごい!」
青空を背景に綺麗な虹がかかる。
この間私が虹をじっと見ていたのをきっとこの子は覚えてくれていたのだろう。
綺麗な虹と、私を喜ばそうとしてくれたウォーティーの気持ちに、心が弾む。
「ユエ!見て!ウォーティーが虹をかけてくれたの!」
ユエにも、見てほしい。
ユエに声をかけ、虹を指さす。
目が合ったから声は届いているはずなのだけれど、そのままユエは私の顔から視線を逸らさなかった。
いつもより少しだけ、目を見開くユエ。
「ちょっとくらい、指さす先に興味持ってよ!」
そう言ってもなお、ユエの視線はこちらから離れなかった。
虹に興味なんかもたないだろうな、とは思っていたけれど、ここまでなんてね。
私の気持ちを察したであろうウォーティーと苦笑する。
「私の顔に何かついてたー?」
開き直ってユエに向かい歩き出すと、ユエは一瞬ハッとしたような顔をし、なんでもない、と再び視線を本に戻した。
変なユエ。
暑さで疲れたし、私も休もうかな。
近づいても逃げられないことに安心する。
ユエの隣に腰を下ろし、私は幹を背に目を閉じた。
ちょっと木陰に入っただけなのに、こんなにも体感温度が違うのか。
風が、木の葉を揺らす音に、耳を澄ませる。
さっきウォーティーが撒いてくれた水も、気持ちのよい風を運んでくれるのに一役買っている。
あぁ・・・・だめだこれ。
眠たくなってきた。
支えている身体が重たくて、だんだんということを聞かない身体が、倒れていく。
倒れた頭が、ユエの肩へとぶつかった。
「ぁ・・ごめん」
怒られる前に、と離そうとした頭に、ユエの手がそっと乗せられる。
「いい。」
このままで、いいのかな
近くにいさせてくれるだけで十分だと、さっきそう思ったばっかりなのに。
ユエへの気持ちが大きくなればなるほど
綺麗な景色を共有したくなったり
隣に座っていたかったり
私の欲にはキリがない。
「あとで起こしてやる」
ユエの手が、優しく私の髪をなでた。
いつだったか、ウインディに見せていた優しい顔。
その表情を向ける対象に私もなりたい、とそう願ってきた。
今隣にいるユエは、一体どんな顔をしてるんだろう。
襲い来る眠気の中で、想像を巡らせる。
もしかしたら、今日の優しさは気まぐれかもしれない。
明日はまた、逃げられてしまうかも。
でも今は
掌から伝わる温かさに身を委ねる
明日もあなたの隣にいられますように
***あとがき***
番外編を書いてみた。笑
本編中で出てきたワンシーンの詳細です。
(本編2話のシーン。水族館の冒頭でもちらっと)
ここ、私の中では結構大事なシーンだったので・・・。
他のワンシーンもこれから番外編として書いていけたらいいなぁ、と思ってます。
本編書けよ、て話ですが・・・苦笑
2019.06.11
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