月の女神セレーネは
ゼウスへ願い
愛するエンデュミオンに
不老不死の永遠の眠りを与えたと言う

私はユエを愛し
来世でも彼を愛すことを誓った


Selene


クロウ・リードの住む家の庭で
銀髪の青年と
金色の毛並みの獣が心地よさげに目を閉じている。

「・・・遊威」

少女が近づくと
銀髪の青年“ユエ”は静かに目を開いた。

「起こしちゃった?」
「いや、最初から目を閉じていただけだ」

小さな優しい嘘。

遊威はちいさく微笑むと
ユエとケルベロスの間に腰を下ろした。

「ふわぁぁああぁ・・なんだ、遊威きてたのか。」

ケルベロスも目を開ける。

「今日は先生にご指導いただく日だから。
 さっきまで予知夢の解釈について教えてもらってたの。
 ひと段落ついたから、ちょっと休憩」

幼い頃
魔力の制御ができず、力を暴走させた遊威をみつけ
救ったのがクロウ・リードであった。
それの日以来、遊威は彼を「先生」と慕い
力の使い方を学んでいる。

「もう私が教えなくても、遊威は十分成長したと思いますが・・・」
「先生!」

いつのまに近づいていただのだろうか
気づくとすぐそばにクロウが立っていた。

「まだまだです。
 私はもっともっと、勉強して
 先生の役に立てる魔導士になりたいのです。」
「そうですか。
 でも急ぐことはありません。
 せっかくのいいお天気です。
 今日は外でお茶にしましょう。
 ケルベロス、手伝ってください。」

おやつおやつ、と嬉しそうにケルベロスが体を起こす。

私も、と立ち上がろうとすると

「?」

ユエが服の裾をつかみ、引き留めた。

「ユエ?」

「準備したら戻ってきますから。
 ここでユエと待っていてください。」
遊威とユエを交互にみやり
クロウはケルベロスを連れると
家の中へと入っていった。

「どうかした?」

改めて座り直し
ユエの言葉を待つ。

ユエはもたれかかっていた木の根元に手をいれると
中から小さな箱を取り出した。

「誕生日だろう。今日は」
「覚えててくれたんだ!」

開けるよう視線で促される。
手のひらに収まるサイズの箱を開けると
そこには小さな石のついたシルバーのリング。

「きれい・・・。サファイア・・・?」
にしてはどちらかというとすみれ色に近い。

ユエの瞳の色のようだ。

「アイオライト」

きっと石の名前なのだろう。
ユエはそれだけをつぶやくと指輪を手に取り
遊威に右手をだすよう促した。

「ぴったり、だね。でもなんで・・」

指輪は右手の薬指にぴったりとおさまっている。

「はじめての愛」
「え・・・?」
「アイオライトの意味だ。」

ユエは遊威の右手に唇を寄せると
そのままそっと口づけた。

「誕生日、おめでとう。」

あまりにも自然な流れに
一気に顔に熱が集まる。

「ど、どうしたの。
 急に、こんな・・・」
「急?」

ユエは
何を驚いているのか理解できない
そんな顔をしている。

「ユエ・・!そういうのは・・・
 ちゃんと好きな人にだけにしないと・・っ」

勘違いを、してしまう。

ずっと好きだった人にそんなふうに触れられて

もしかしたら、ユエも私を・・なんて。

「何をいまさら」

ユエは両手を伸ばすと
遊威のほほをつつみこみ
右手でそのまま髪を梳いた。

「当然伝わっていると思っていたが・・・?」
「・・・っ・・!」

察するに
どうやら勘違いでは、ないらしい。

それにしても、なぜこの人はこんなにも言葉が足りないのだろう。

そんなところも含め、好きだったのだけれど。

ずっとずっと
伝えたくても伝えられなかった言葉を
やっと伝えられる。

「ユエ、私
 あなたのことが好きよ。」

ふっ、とユエは笑うと
そのまま顔を近づけた。

「知っている。」
「ん・・っ」

ふわり、とユエの綺麗な銀髪が
遊威のほほをかすめる。

軽く触れただけの唇。

言葉はなくても
それでも確かに

ユエの想いを感じた日







2019.04.07




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