ひどいねって笑って、もう一度だけ囁いて
※映画のワンシーン出てきますが、映画をちゃんと見返してないので、微妙に間違ってるかもしれないです。(そのシーン知世ちゃんいないよ、とか・・)目を瞑っていただける方のみ、お進みください
テレビに映るさくらちゃんや、もう一人の自分の姿を見て、何も出来ない自分に胸が痛くなった。
「すごいね」
「さくらちゃんはホントにすごい子だよ」
遊威のことも、なんだけどな。
日曜日の午後。
知世ちゃんから借りたビデオを遊威と二人で鑑賞する。
高校の同級生の遊威とは知り合ってもう2年以上が経つけれど、好きだと自覚したのはつい最近のこと。
遊威への気持ちに気づいたときには、もう僕は自分が人間じゃないことを知っていて。
だから、好きだなんて言い出せなかった。
人間じゃない僕が、ずっとそばにいて欲しいだなんて
そんなこと
言えない
それでも遊威のことをもっと知りたくて
『遊威が魔法を使ってるところが見てみたい。もう一人の自分の姿も。』
そう伝えたら、遊威は知世ちゃんからビデオを借りてきてくれた。
なんでも知世ちゃんはカードを捕まえる時はいつもビデオ撮影をしていて、貸してくれたのは『無』というカードを捕まえたときのものだそうだ。
「これが本当に本当に最後のカード」
今までのカードを捕まえたときを思い返しているのか、遊威の瞳が懐かしむように細められる。
カードを捕まえる手伝いをちょこっとしただけだ、と遊威はそういうけれど、録画内容を見る限り、ちょこっとの手伝いとは思えない。
『さくらちゃん!!!』
遊園地で、不思議な格好をした女の子がさくらちゃんに向かって攻撃を繰り出す。
この女の子が『無』のカードなのだろう。
攻撃された部分が、欠けていく。
無くなっていく。
もしこれが遊威に当たっていたら
浮かんだ想像にゾッと背筋が冷える。
「雪兎?」
無意識に床に置かれていた遊威の手を握る。
左に座る遊威が僕を見上げた。
「無事で、よかった。」
「うん。」
僕の気持ちを察すと、遊威は僕の手を握り返した。
「雪兎、あれがユエ。」
遊威が空いた左手で画面を指さす。
そこには銀髪で羽の生えた、綺麗な人が映っていた。
これが・・・
初めて見るもう一人の自分。
『遊威!!!』
『遊威さん!!!!』
ケルベロスと、さくらちゃんの声とともに、カメラが遊威の方を向く。
「・・・っ!」
「大丈夫だよ。」
ジェットコースターのレールが欠けて、遊威が落ちていく。
手に力がこもったのを感じた遊威が、こちらを向いて優しく微笑んだ。
「ほら」
もう一度画面に目を戻す。
落ちていく遊威を、もう一人の僕が抱き留めた。
もう一人の僕が、腕の中の遊威を確認し、ホッとした顔を見せる。
ザワり、と
胸の内が騒いだ。
もう一人の自分に
こんな気持ちになるなんて。
画面の中では遊威が申し訳なさそうな顔で、もう一人の僕に何かを伝え、もう一人の僕もそれに応えるかのように遊威の頬に手をあて、何かを伝えた。
その音はビデオでは拾えない。
画面は再びさくらちゃんに向く。
でも、もう内容は頭に入ってこなかった。
他の男に抱きしめられて、頬に手を添えられたまま、赤い顔をした遊威の姿が、頭から離れない。
チラリと隣の遊威を盗み見ると、画面の中と同じように、頬を赤く染めている。
ずっと
考えないようにしていた。
遊威が他の誰かのものになってしまうこと。
なんとなく、今のままでいられる気がして。
でもそんな保証は全然なくて。
いつ他のところに行ってしまってもおかしくない。
いやだ、そんなのは。
「遊威、」
繋いだ手は解かれないまま、赤い顔の遊威がこちらを向く。
「遊威は、もう一人の僕が・・・好き?」
遊威が目を見開く。
ざわり、ざわりと
今まで感じたことのない感情が
「人間じゃない、とかそういうの、気にならないの?」
遊威の指に、ぎゅっと力がこもった。
「人間だから、好きになるわけじゃないもの。」
「そ・・・う」
もう一人の僕でもいいなら、今まで気持ちを伝えなかった僕は一体なんだったのだろう。
遊威には幸せになってほしい、と
気持ちを伝えないことを選んだ僕は。
「雪兎」
遊威の掌が、離れていく。
その手を追いかけることもできず、僕は床へと視線を落とした。
「・・・!?」
俯いた顔が遊威の両手に掴まれて、ぐいっと強制的に前を向かされる。
真剣な、顔。
僕と真っ直ぐ向き合う、目。
「好きだよ。人間じゃないとか、そんなのどうだっていい。私は雪兎が好き。」
”雪兎が好き”
予想外過ぎて飲み込めなかった遊威の言葉が、想いが
時間をかけて胸の中に広がる。
でも、
「僕は人間じゃないから・・・ぐ・・っ」
「だーかーら!」
遊威が右手で僕の口をふさいだ。
僕の後ろ向きな言葉は、最後までは言わせてもらえないらしい。
「私の幸せは私が決めるの!雪兎が雪兎ならなんだっていいんだよ!私はこれから先も、ずっと雪兎といたいの!!」
そういう遊威の顔が赤くて。
僕の胸の内は熱くて
目頭も熱くて
「ありがとう」
遊威の手を引いて、小さな身体を腕の中におさめる。
ずっと抱きしめたかった。
「好きだよ、遊威」
ずっと伝えたかった。
「僕のそばに、ずっといてほしい。」
「だから、さっきからそういってるじゃん。」
「伝えるつもり、なかったのに。」
「言わなくても、知ってたよ。」
ふふ、と腕の中で遊威が笑う。
遊威の腕が、優しく僕の背中をなでた。
ひどいねって笑って、
もう一度だけ囁いて
『ユエ!ごめんね!ありがとう!ユエは怪我してない!?』
『私は平気だ。それに、お前に怪我をさせたとばれたら、雪兎に怒られる。なぜかは・・・わかるだろう?』
***あとがき***
るな様に捧げます。
リク内容:ユエ・雪兎が嫉妬する切甘夢
もう一ついただいていたリクエストを雪兎で書く予定だったので、こちらは当初ユエになるはずでしたが、もう一方をユエで書くことにしましたので、結果、今回雪兎になりました!笑
嫉妬の度合い、足りなかったですかね・・・?汗
最後のユエとの会話は、ユエがヒロインちゃんをキャッチしたときの会話です。
ユエから、雪兎はおまえが好きだろう?的なことを言われそれを思い出して、ヒロインちゃんは赤面していたわけです。
という解説がなくても伝わっているといいな・・なんて・・・・。
気に入っていただけていれば幸いです^^
2019.07.13
title:花洩
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