また、会いに行くから

一体誰との約束だっただろうか


Selene


星城高校に入学して2週間。
グラウンドの隅にサッカー部が集められる。

「黒羽遊威といいます!
 マネージャーとして精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」

ぱちぱちと、拍手が聞こえる。
どうやら、受け入れてはもらえているようだ、とほっと一息をつく。

中学時代は器械体操に明け暮れていたが
最後の大会で転倒。
その際の怪我の後遺症で、もう続けることはできなくなってしまった。

それでもやっぱりスポーツには関わっていたくて
部活見学の後、私はサッカー部のマネージャーになることを選んだ。

「3年のマネージャーが引退しちゃって困ってたんだ。助かるよ。
 木之本、いろいろ教えてやってくれ。」

顧問の先生が、木之本と呼ばれた2年生を呼ぶ。

「なんで俺が・・・」
「おまえが一番面倒見がいいからだ」
「間違いない、あきらめろ木之本。」
周りの部員たちが笑う。

「よ、よろしくお願いします!」

再び頭を下げると
「いいから、頭上げろ。」
と優しい声がふってきた。






「ここが俺たちの部室。
 基本的には自分たちで片付けてるから問題ない。
 たまに頼み事はあるかもしれないけど。」
「はい!お任せください!」

先生の一押しだけあって
木之本先輩は面倒見のいい人だった。

面倒見がいいだけでなくこの見た目。
さっきから周りの視線が痛いような気もする。

「ほんとなら先輩のマネージャーから教えてもらえるんだけどな。
 わりぃな。」
「いいえ!そんな!」

次は用具入れだ、と木之本先輩は足を進めた。

「わかんないことあったら、遠慮なく聞いてくれればいいから。
 別に俺以外のやつでもいいし。」

さっきの雰囲気から
サッカー部の方たちがいい人そうなのは間違いない。

初めての高校生活
中学の友達も周りにいなくて
ちょっと不安な気持ちもあったけれど

木之本先輩の言葉に少し不安な気持ちが晴れていく。

「木之本先輩は」
「あー・・・・なんかそれむず痒い。」
「むず痒い・・ですか?」

木之本先輩が言葉を遮る。

「桃矢。」
「はい?」
「桃矢でいい。」
「桃矢・・さん?」

木之本先輩・・桃矢さんは
首の後ろをかく。

「わかりました!桃矢さん!」
「わざわざ言い直すのもなんか違うが・・・」

照れたように再び歩きだす桃矢さんの背中を
小走りで追いかけた。






「あ、お兄ちゃん!」

隣の小学校から、可愛らしい声がする。
フェンスの向こうに目をやると
ショートカットの女の子がこちらに走ってくるのが見えた。

「今日の朝ごはんのヨーグルト!
 さくらの食べたかったいちご味食べたでしょ!!!」

むきーーっ
と怒っている姿が、とても愛らしい。

思わずくすり、と笑いが漏れた。

「あ・・・」

私がいることに気づき、その子は赤い顔をしてうつむく。

「あの、えっと・・・
 木之本さくらです。お兄ちゃんがお世話になってます。」

そのままペコリとお辞儀をする。
なんてできた小学生だろう。

「黒羽遊威です。
 今日からサッカー部のマネージャーになりました。」

私もさくらちゃんへ自己紹介を返す。

「黒羽さん。よろしくお願いします!」

にっこり笑うさくらちゃん。
可愛い・・・・。

「お兄ちゃん、黒羽さんにいじわるしちゃだめだからね!!!」
「しねぇよ。」

あ、桃矢さんがお兄ちゃんの顔してる。
さっきとはまた違う、一面だな。

「あ、さくら
 今日ゆきが晩飯食いにくるから。」
「・・・・・!!おいしいもの作って待ってる!!」

ゆき?
桃矢さんの彼女だろうか。

さくらちゃんの嬉しそうな顔から察するに
さくらちゃんもその”ゆき”さんのことが大好きなんだろう。

『さくらちゃーん!!』

向こうの方で、チアリーディング部の子たちが呼んでいるのが見えた。

「あ、私戻らなきゃ。
 黒羽さんも、よかったらうちに遊びにきてくださいね!
 それじゃ!」
「ありがとう。」

さくらちゃんが戻っていく。
桃矢さんはその後ろ姿を優しい顔で見守っていた。




2019.04.30





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