お兄ちゃんのところに入った新しいマネージャーさんは
とっても可愛くて、でもちょっと寂しそうな人でした。


Selene


もうそろそろかな?
と時計を確認するのはこれで何回目だろう。

目の前の大鍋では
ぐつぐつといい感じにカレーが出来ている。

「ただいまー」
「お邪魔しまーす」

きた!!!

火を止め急いで玄関へと向かう。

「さくらちゃん、お邪魔します。
 いいにおいだね。今日はカレーかな?」
「はい!!」

はにゃーん

雪兎さんの笑顔は今日も素敵だ。

「すぐに準備します!」
「ありがとう。」

キッチンに戻り、カレーをよそう準備を開始した。

雪兎さんはたくさん食べるから・・・
うん、このお皿にしよう。

きっとおかわりもするだろうけど
一番大きいお皿を準備する。

「うわー、おいしそうだねー」
「そ、そんなことないです!」
「カレーならだれが作ってもこうなる。」

ほんと、お兄ちゃんは余計なことを・・・!!

踏みつけてやろうと思った右足は
するりと避けられた。

くやしいーーー!!



お兄ちゃんへの怒りをこらえながらも
3人分のカレーをよそって、私も席に着く。

「いただきます」

自分の作ったカレーを雪兎さんが食べてくれてるなんて
幸せすぎる。

大盛りのカレーは
あっという間に雪兎さんのおなかへと消えていった。



「今日桃矢のとこにマネージャーさんが入ったんだって?
 かわいい子が来た、って噂になってたよ」
ごちそうさまでした、と雪兎さんがスプーンを置く。

「あぁ、黒羽遊威な。」
「遊威・・・」

雪兎さんの耳にも入ってたんだ。
確かに、黒羽さんはとってもとっても可愛い人だった。

「ゆき?どうかしたか?」
「え、あ、ううん。なんでもない。
 ちょっと聞き覚えがあるような気がしただけ。」

一瞬ぼんやりした雪兎さん。
どこかで会ったことあるのかな?


あ、そういえば
「今日ね、スーパーに行った帰りに黒羽さんに会ったよ。」
「ってことはこのへんに住んでるのかな?」
「そうみたいです。」

ちょうど黒羽さんも買い物が終わったところだったらしい。
途中まで一緒に帰ってきたのだ。

「黒羽さん、一人暮らしなんだって。」
「高校生でか?」

お兄ちゃんの言葉にうなづく。

「施設で育って、高校生になったから施設を出たんだ、って。
 会ったことはないけど外国にお金を援助してくれる人がいる
 って言ってたよ。」
「あしながおじさん、みたいなかんじなのかな?」
「たぶん、そうだと思います。」

どこまで聞いていいのかわからなくて
あまり踏み込んだことは聞けなかったけれど。

「だからね、お兄ちゃん・・・今度黒羽さんも・・・」
「誘ってやるか、晩飯。」
「・・・うん!!」
一人でご飯
きっと寂しいと思うから。

「黒羽さんか・・・。
 僕も会ってみたいな。」
「じゃぁ今度黒羽さん呼ぶとき、雪兎さんも来てください!」

これでまた雪兎さんがおうちに来てくれる!
一石二鳥作戦だ!

「わざわざうちにこなくても、学校で会わせてやれるけどな。」
「・・・っ!!!」

余計なことは言わなくていいの!!

机の下で振り上げた足は
今度こそお兄ちゃんの脛にヒットした。













その日の晩、夢を見た。

顔は見えなかったけど
綺麗な長い銀髪の人が
泣いている夢。

また、会いに行くから

聞こえた声は
なんだか黒羽さんに似ていた気がした。


2019.04.30



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