06:今日も『好き』を言いそびれた




「サンジくん」

君が呼ぶときだけは
聞きなれたはずの自分の名前ですら特別に聞こえるのはなぜだろう。

「こんな時間にどうしたの。」

いつも早くベッドに入るはずのユイちゃんが
恐らくいつもなら寝てるであろう時間

ひょこっとキッチンに顔をだした。

「うん、ちょっと眠れなくて」
「珍しいね。じゃぁホットミルクでも入れようか。
 それともハーブティがいい?」

ちょうど自分用にと
お湯を沸かし始めたところだ。

この間ユイちゃんが気に入っていたハーブティも
まだストックがあったはず。

「じゃぁハーブティで。」

ユイちゃんは答えると
ハーブティを探す俺の隣へと歩み寄った。


ふわっと


シャンプーのにおいが香る。


「すぐ淹れるから、座って待ってて。」

その香りにくらりとしながらも
なんとか平静を保つ。


そうやって、俺が紳士でいようとがんばってるのに
「ううん、淹れるところ、近くで見てたいから。」

あぁもう、ほんと。

君はなんでそんなに可愛いの。



「ふぅ・・・・・」



ゆっくりと
タバコの煙を吐き出す。

その煙を
ただ目で追った。



「あ、お湯沸いたね。」

コンロ側にいたユイちゃんの伸ばした指が
ヤカンの隅を掠めた。

「熱っ・・!」
「ユイちゃん!!」

慌ててユイちゃんの手をつかむと
そのまま流し台へと連れていき
指に冷水をかける。

「サ、サンジくん!ちょっと掠めただけだからっ
 全然、大丈夫だから・・っ」
「そんなこと言って、ユイちゃんのきれいな指に
 火傷の痕が残ったら大変だ。」

だから、大人しく言うこと聞いて

そういうと、
ユイちゃんはすっと顔を伏せた。

「ユイちゃん?」
「・・っなんでもない。」

そういうユイちゃんは
耳まで赤くなっていて

よくよく状況を客観的に見てみれば
冷やすためとはいえ
俺はユイちゃんを後ろから包み込む形。

無意識だったとはいえ
今、自分の腕の中に
ユイちゃんがいる。

「・・・っ!」

今更ながら
心臓の鼓動が早くなっていく。

「あ、ありがとう!
 ほんとにもう大丈夫だから!」

そういうと
するり、と
ユイちゃんは腕の中から消えた。

「明日、ちゃんとチョッパーに見てもらうんだよ。」
「うん、そうする。」

名残おしさを感じながらも
ユイちゃんのハーブティづくりを再開する。

「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」

ゆっくりとカップを口に運ぶユイちゃん。


他愛のない話をしながら
ゆっくり、ゆっくりと
カップから、ハーブティが消えていく。




やっぱり、サンジくんが淹れてくれると
自分で淹れるよりも何倍もおいしいね

そう言って、ユイちゃんは笑った。



触れたい
少し赤くなったその頬に

その髪に

唇に


「サンジくんは・・さ。」
「ん?」
「次の島ですること、もう決めてる?」

そういえば、もうすぐで次の島に着くって
ナミさんが晩飯のときに言ってたっけ。

「食料の買い出しくらいしか考えてねぇな。」

ほんとは
今みたいにユイちゃんと二人きりで出かける時間があれば
なんて思っているけれど

いつだって騒がしいこの船じゃ
二人きりになれるタイミングなんて滅多になくて

好きだと伝えようとこれまでもチャンスを伺ってはいたものの
なんとなく言い出せないまま

今日も本来なら伝えられるチャンスであることはわかってはいるけれど

今のこの片思い特有のドキドキだとか
ユイちゃんの反応を見てたいだとか
そんな気持ちが邪魔をして
言い出すことができない。


「あ・・あのね、サンジ君」
ユイちゃんは一度言葉を切ると
残っていたハーブティを一気に飲み干した。

「次の島、蛍の見れるところがあるらしくて・・・!」

それで・・・えっと・・・
とユイちゃんは右へ、左へと
視線を泳がせた。

「いっしょに、行こうか。」
「・・・うんっ!!」

ぱっと、ユイちゃんの顔があがる。

「約束ね!
 じゃ、じゃぁそろそろ眠たくなってきたし
 部屋に戻ろうかな。
 ハーブティありがとう!おやすみなさい。」

言い終わると同時に
ユイちゃんは逃げるようにキッチンから出て行った。




もしかして
眠れない、ってのは口実で

約束を取り付けるために来てくれたんじゃないか

なんて期待して。

「約束ね・・って・・・ほんと」

笑顔いっぱいでそう言ったユイちゃんが
あまりにも可愛すぎるから


「おやすみ、ユイちゃん」


今日も『好き』

を言いそびれた



次の島で、今度こそ君に『好き』を伝えよう




2019.04.08

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