01:明日また会えるのに



アラバスタの夜
クロコダイルを倒したルフィは、ビビちゃんの王宮で眠り続けている。

俺はそこそこ回復し、外の空気でも吸うか
と中庭を目指していた。

雨も止んで、空気は少し湿気っている。
さすがに草の上はズボンが濡れちまう、か。

どこかにいい場所はないかと周りを見渡すと
中庭の隅、少し段差になったあたりにユイちゃんが腰かけているのが見えた。

「お隣よろしいですか?」
これはチャンス、とばかりに声をかける。

ユイちゃんはこちらに顔を向けると
「どうぞ。」
とほほ笑みうなづいた。

「何を見てたの?」
「街の明かりが、きれいだなって」

ユイちゃんが見つめる遠く向こうには
ぽつぽつと見える街の明かり。

「あの一つ一つにビビの守りたかったものがあるんだな、って思うと・・・
 うん、なんだろ
 うまく言葉にできないや。」
「なんとなく、わかるよ。」
「ほんと?」
「ほんと」

俺の言葉にユイちゃんがまた、ほほ笑む。

ユイちゃんが俺にほほ笑んでくれる度
俺の胸の奥はぎゅっと苦しくて

いつの間にこんなに好きになっちまったのか。

ナミさんやビビちゃんへの気持ちとは
明らかに違うそれ。

最初こそ
今日も素敵だー、君は俺の天使だー
なんて
いつものフレーズを並べていたのだけれど
いつの間にやらそんなことすら言えなくなって。

ナミさんだけはそんな俺に気づいていて
(さすがナミさん)
「きっとユイもあんたのこと好きよ。
 さっさと告白したら」
なんて軽く言われてしまった。

そうだよなァ
やっぱユイちゃんも俺のこと好きだよなァ

ナミさんのお墨付きをもらったのだから
間違いない。

今だって
暗がりでよく見えないけれど
隣のユイちゃんはほんのり赤い顔をしている
ような気がする。

「・・・!なに・・?」

おろされた髪に触れると
ユイちゃんは肩を震わせた。

「綺麗だなー、と思って。」

そのまま髪を梳く。

ユイちゃんは今度こそ暗がりでもわかるくらい
赤い顔をして
ちらちらとこちらを伺っている。

可愛い。

「さ、サンジくんは
 もう身体平気なのっ?」
「うん、大丈夫。」

答えながら手を離すと
ユイちゃんはほっと一息吐いた。

そのほっと吐かれた一息は
俺が大丈夫とわかったからなのか
それとも、手を離したからなのか。

どっちにしたって可愛いんだけど。

「グランドラインに入ったあたりから
 ずっと、ばたばただったね。」
「ルフィが船長である以上
 これからもずっとそうだぜ。」
「確かに」

ユイちゃんが、笑う。

「こうやってゆっくりユイちゃんと話せるのも
 だいぶ久しぶりな気がするなァ」

日数的にはそんな大したことはないのだろうけれど
いろんなことがあっという間に通り過ぎていって

特にアラバスタに入ってからは文字通りばったばた。

それぞれの生死がわからない状況の中
お互いを信じて、手にした勝利。

「チョッパーがね
 ルフィもそろそろ目を覚ますんじゃないかって。」
「ということは、そろそろ出発だな。」
「うん。」

出発、となったら
まーたばたばたしだすのが目に見えている。

次にユイちゃんとまたこうやってゆっくり話せるのは
いつになるんだろう。

そう考えると
特に何をするわけでもない
この時間も、愛おしい。

でも
「そろそろ戻るか。」
後ろ髪をひかれる気持ちで、重い腰を上げる。

明日にでもルフィが目を覚ますかもしれねェんだったら
さっさと寝て体力たくわえとかねェと。

特に、俺より、ユイちゃん。

「・・・あとちょっとだけ。」
「え?」

ユイちゃんが、俺の上着の裾を引いた。

「あとちょっとだけサンジくんと話し、したい。」

赤い顔でこっちを見上げたユイちゃんに
俺は完全にノックアウト。

俺もだよ、ユイちゃん。
俺もまだここにいてェ。

そう思いながらも

好きな子はいじめたくなる
っていうガキみてェな気持ちが沸き上がって


「明日またえるのに」


そんなセリフとは裏腹に、再度隣に腰かける俺。

ほんとの気持ちを伝えられるのは
もうちょっと先のお話。







***あとがき***

現パロの高校生で書こうと思ってたんですが
ガチで子供のサンジは私の中ではサンジではなく・・
書けませんでした。笑

それじゃ、大学生で!とも思ったんですが・・・
大学行かなさそうな気がして・・・笑

なので、急遽変更。
このように仕上がりました。
楽しんでいただけていれば幸い。


2019.04.27





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