13:謝るから無視しないで



男なら惚れたレディに一番頼られたいと思うもんだろ

少なくとも、俺はそうだ




乱闘の中、視界の端でユイちゃんの姿を捉える。

海の真ん中で、突然攻撃をしかけてきた海賊たち。

今回の敵は負けるほどではねェけど、それなりにつよいやつらで、それなりの対応を強いられた。

「ユイ!そっち行ったぞー!」

うちの船長は船長で楽しそうにしてやがるが、俺はユイちゃんが気になって仕方がない。

麦わらの一味にいるくらいだから、このレベルの敵なんか問題ねェってのはわかってる。

でも、惚れたレディのことはいつだって心配だし、守りてェ。



こちらに向かってくる敵を倒しながら、ずっとユイちゃんを目で追っていると、ユイちゃんの死角から近寄る野郎が見えた。

「ユイちゃん!!」
「よそ見してんじゃねェよ」

俺のユイちゃんを呼ぶ声が、マリモにかき消される。

「ゾロ!ありがと。」
「礼はいいから、さっさと片付けろ。」

マリモはそういうと、グシャグシャとユイちゃんの頭をなでた。

「ちっ・・」

マリモに対する苛立ちを、目の前の敵に向けていく。


向こうでは、マリモと背中合わせで戦うユイちゃん。

二人のお互いを信頼して戦う姿を
俺はもう見ていることができなかった。















「みんな怪我してないか?」

チョッパーが、一人一人の怪我の様子を確認してまわる。
ナミさんとウソップがかすり傷を負ったが、他の連中は特別怪我もしていないようだ。

もちろん、ユイちゃんも。

疲れているであろうレディたちのために、飲み物を注いでいく。
タイミングよくキッチンに顔を出したナミさん、ロビンちゃんは、グラスを受け取ると、また甲板へと出て行った。

「ユイちゃん、お疲れ。」
「サンジくんも」

一人残ったユイちゃんに冷えたグラスを差し出す。
ユイちゃんはグラスを受け取ると、ぐいっと一気に半分ほどを飲み干した。

「あー、生き返るーっ」
「いい飲みっぷりだな。」

幸せそうに飲んでくれる姿に頬が緩む。

一緒に船に乗って随分と経つが、この幸せそうに飲み食いする姿は何度見ても可愛くて、いつまで経っても見飽きることはねェ。

「汚れとか、ついてる?」

俺の視線に気づいたユイちゃんが、服の裾で顔をこすった。
「可愛いなー、と思って。」
「またまたー。」

何度伝えても、本気に受け取ってくれねェのは、自業自得。
ナミさんやロビンちゃんにも同じように伝えてる姿を見られちまってるから、仕方ねェ。

あの二人に伝えている気持ちは嘘じゃねェけど、ユイちゃんに向けた言葉とは、やっぱり違う。

ユイちゃんだけが俺の特別。


「おい、クソコック。俺にも酒。」
「ああ゛?」

折角ユイちゃんとの時間を楽しんでるのに、幸せな空気をマリモがぶち壊しやがる。
なんで俺がお前に酒を用意しなきゃいけねェんだ。

「サンジくん、ゾロの分もお願い。」

でもユイちゃんにそう言われちまったら断れねェ。
くそっ。

熱燗でも出してやろうか。

「ありがたく飲めよ。」
「へーへー。」

ユイちゃんの見てる前でさすがに熱燗は出せず

代わりに冷えた発泡酒を勢いよくカウンターの上へ置く。
蓋を開けた時、炭酸で溢れればいいのに、と思ったが、そう上手くはいかないらしい。

プシュッ、と心地よい音だけが、キッチンに響いた。

うまそうに飲みやがって。

「ゾロ。さっきはありがとね。」

ユイちゃんが、マリモに笑いかける。
クソマリモにその笑顔はもったいねェよ。

「おまえが注意散漫すぎるだけだ。」
「そうだね。でもゾロが後ろにいると思ったら、安心して前に集中できたよ。」

だからありがとう、というユイちゃんの言葉に、また胸の内にドス黒い感情が渦巻いた。

悟られたくなくて、二人に背を向け、タバコに火をつける。




俺が傍にいたかった。

俺が守りたかった。

俺が、ユイちゃんの安心できる存在になりたかった。

あの笑顔が向けられるのは、俺でありたかった。


なのになんでクソマリモが。

「ちっ・・・」

自分の余裕の無さに舌打ちする。

「サンジ・・・くん?」

今迄、俺はどうしてたっけか。

振り返ってみても、答えがみつからねェ。





考えて

考えて

やっと気づく。

そうだ。

俺、嫉妬なんて、したことねェわ。



深く深く吸い込んだ煙を

天井に向かってゆっくりと吐き出す。


初めての嫉妬心が、煙と一緒にゆらゆらと天井へのぼっていく気がした。


「・・ンジくん!サンジくんってば!!

 るから無視しないでっ!


「へ?」

突如耳に飛び込んだユイちゃんの言葉に振り向くと、そこには必死な顔をしたユイちゃんがいた。

いつの間にかマリモは出て行ったらしく、キッチンには俺とユイちゃんしかいない。

「私、何かしたかな?」

今にも泣きだしそうな顔で、ユイちゃんがカウンターの向こうから、こちらにまわってくる。

「ユイちゃん落ち着いて・・!」

ユイちゃんの両肩に手を置き、なだめるが、状況が飲み込めない。

「舌打ちするし、背中向けたままタバコ吸ってるし、何回呼んでも振り向いてくれないし!」
「わ、悪かった・・!そんなつもりは全然なくて・・・!」

どうやら、俺はユイちゃんに呼ばれているのに、気づいていなかったらしい。

そこまで余裕がなかったか、と自分にため息が漏れる。

「ユイちゃんに怒ってるとか、全然そんなんじゃなくて・・・」
「違うの?」

ユイちゃんの肩から力が抜けた。
それを確認し、俺もユイちゃんの肩から手を下ろす。

「なんっつーか・・うーん・・・。」

伝えるべきか否か、葛藤する。

ユイちゃんはもしかしたらマリモが好きかもしれねェ、とか。

それなのに、俺の気持ちを伝えたら、困らせるだけなんじゃねェか、とか。


でも、伝えずに済むほど、もう気持ちは小さくなくて

だけど簡単に伝えられるほど、軽い気持ちでもなくて。


ただ、俺の態度がユイちゃんを悲しませた
それは事実だ。


「・・・悔しかった。」
「悔しい?」
「ユイちゃんを守るのも、安心させるのも・・・俺でありたかった。」

ユイちゃんの顔が見られず、視線を斜め下へと向ける。
ユイちゃんには、どこまで伝わっただろう。

「さっきゾロに言ったこと、気にしてるの?」

情けねェ、と思いながらも頷くと、突然ユイちゃんの笑い声が聞こえた。


笑うところ・・・なのか?

ちらりと視線を向けたユイちゃんから、嫌悪感は微塵も感じられなくて、とりあえず迷惑がられてはいねェ、とわかり安心する。

「自分でも情けねェのはわかってるよ。」
「違うの違うの!そうじゃなくて!」

ユイちゃんは笑いが治まると、先ほどよりも一歩、俺に近づいた。

「ちょっとだけ、耳貸して。」
「うん?」

ユイちゃんの背の高さに合わせて、耳を寄せる。

「あのね、さっきゾロのおかげで安心して戦えたのは、ほんとなの。」
「・・・うん。」
「でもね」

ユイちゃんが、ぐい、と俺の腕を引いた。

「いつも本当にピンチになったとき、頭に浮かぶのはサンジくん。」

驚いてユイちゃんの方に視線を向けると、予想以上の近さにユイちゃんの笑顔があった。

「死んでたまるか、って踏ん張れるのは、サンジくんのおかげです。」
「それってどういう」

リップ音とともに頬に柔らかなものが触れる。

「どういう意味でしょうね。」

いたずらな笑みを浮かべて、ユイちゃんはくるりと背中を向けた。

そのまま軽くスキップをしながら、キッチンを出て行く。

熱くなった頬。

固まったまま動かない足。

余裕はまだまだ戻りそうにない。










***あとがき***
どうしよう
甘くてせつない20題 のセリフなのに
せつなさ皆無 笑

自分に怒ってるのかも、って思い込んで
謝るから!
てなるヒロインちゃんでしたが、どうでしょうか?

私わりかし、このタイプです。笑


2019.05.21


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