惚れたもん負け



毎月やってくるいわゆる女の子の日。

なんで毎月毎月こんな不愉快なものがやってくるのか。

毎回ではないが、たまにくる重い日。
今回はそれにあたってしまった。
最悪だ。

「ユイ、大丈夫か?」
昼食後、もう限界だ、と医務室に直行。
ベッドに横になる私にチョッパーが問いかける。
船医とはいえ、正直に「生理痛です」と伝えるのも恥ずかしくて
ただただ心配だけをかけている状態だ。

「うん、寝てれば楽だから。」
これは、ほんと。
薬があれば一番楽なのだけれど
あいにくロビン、ナミも薬を切らせてしまっているらしい。
となれば、横になってやり過ごすしかない。

どうせつらいのは今日一日だけ。
今日敵襲がないことを願うばかりだ。

『コンコン』

開けっ放しの医務室のドアがノックされる。
視線を向けるとサンジの姿があった。

「ホット豆乳持ってきたんだ。
 飲めるかい?」

ベット脇へと、マグカップが置かれる。

「チョッパー、サンジも来てくれたしもう大丈夫だよ。」
「何かあったら、すぐに呼ぶんだぞ。」
「うん、ありがとう。」

こちらを気にしながらも、チョッパーは医務室を出て行く。
ぱたん、と静かに扉が閉められ、医務室に私とサンジだけが残された。

「おなか、あっためた方がいいだろ。」
「うん。」

サンジの手を借り、身体を起こす。
手渡されたマグカップからは湯気が立ち上っていて、このままだと火傷必須だ。
ふぅふぅと軽く冷まして、マグカップを口に運ぶ。

じんわりと、豆乳の温かさが広がった。

生理痛にホット豆乳が効くと聞いたことがあるが、本当だろうか。
いや、こういうのは信じたもん勝ちだ。

効くと信じ、ごくりごくり、とホット豆乳を流し込む。

「よくわかったね。」
「ん?あぁ、そろそろかなーって。」

半分ほど飲んだマグカップを、サンジに手渡す。
サンジはマグカップを脇に置くと
私がまた横になるのに手を貸した。

そっと、布団がかけられる。
なんだか子供に戻った気分。

ふふ、と笑うと
サンジの手が頭に触れた。

そのままゆっくりと髪が梳かれる。

「こないだ、無理させちまったかな。」

こないだ・・・
ふと、つい先日の情事を思いだして、顔が熱くなる。

「そ、それは関係ないよ。
 サンジのせいじゃない。」

「そんな可愛い顔されると、またしたくなっちまうな。」

サンジはそう言って笑うと髪を梳いていた手を止め、そのまま頬に手を添えた。

「ばか。」

きっとお昼ご飯の食器でも洗っていたんだろう。
火照った頬に、サンジの冷えた手が気持ちいい。

無意識にサンジの手に、頬を摺り寄せた。

「悪い子だなァ、ユイちゃんは。」

サンジが、困った顔で笑う。

「悪い子?」

サンジは何も答えず、そっと重ねるだけのキスをした。

「そんな風にされると、またほしくなっちまう。
 今できないのに。」
「また・・・そういうことを・・・!!」

カッとまた頬に熱が集まる。

付き合ってもう何か月も経つし
そういうことだって何度もしてきたけれど
今だに慣れることはない。

サンジは私があたふたするのを見て
楽しんでいるきらいさえある。

「なんで不満そうな顔してるんだい?」
「いつまでもサンジには勝てないなー、って思って。」

いつまで経っても、サンジの一言に揺さぶられっぱなしだ。

照れるのも、あたふたするのも
いっつも私ばかり。

「そんな風に思ってたんだ。」
ふーん、とサンジがまたにやにやと笑う。

私は悔しくてふい、っと背中を向けた。

壁の方を向いた拍子に背中が外気にさらされる。
「冷やさねェようにしねェと。」

サンジは布団をかけなおす素振りを見せたが、そのまま一瞬停止した。

「ちょ・・・っ!何して!」
「人間湯たんぽ。」

そのまま狭いベッドに、サンジが潜り込む。

「あったけェだろ?」
布団の中にサンジのタバコの香りが広がり、ぎゅっと、後ろから包み込まれた。

身体の上を通過した左手は、そっとおなかの上に添えられている。

密着した身体に、ドキドキと心臓が音を立てるのと同時に
背中も、おなかも温かくて、だんだんと痛みが引いていくのがわかる。

「・・薬より、効くかも。」
またドキドキしてるのは私だけらしい。
サンジはいつでも余裕だ。

「愛情が一番の薬、ってね。」
ちゅ、とリップ音がして後頭部にサンジの唇が触れたのを感じた。

「ユイちゃん、さっき俺に勝てねェ、っつったけど」
「うん。」


「先に惚れたもんけだから

 俺は一生ユイちゃんには

 
てねェよ」


密着した背中越しに、サンジの鼓動を感じる。
ドキドキ、といつもより早い鼓動。

なんだ、私と同じだ。




痛みが引くと同時に、だんだんと重くなっていく瞼。

背中越しに、サンジも寝息を立て始めているのを感じた。







***あとがき***
何かお題じゃない短編書かなきゃ、と突発的に書き始めたのが生理ネタ。笑
すみません。笑



2019.05.01


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