絶対的君の存在



今日だけは

今日だけは

「ごめんなさい・・・」

不寝番をしながら、一人膝を抱える。

うまく、笑えていただろうか。
みんなの前で
いつも通り。

いっそ泣けてしまえば楽なのに
なぜか今日は、それすら出来ない。



まだ不寝番に入るには早い時間だけれど
私はすでに見張り台にいた。

遠くで、みんなの笑ってる声が聞こえる。
ウソップがみんなを楽しませる嘘をついて
ルフィとチョッパーがそれを信じて
ロビンが微笑みながらそれを見守って

きっとサンジはナミとロビンのために飲み物をいれているのだろう。

見なくても浮かぶ
みんなの姿。

いつもなら大好きなその空間にも
今日はどうしてもいることが出来なかった。

いつも通りに笑えない自分がいやだった。

みんなに心配かけるのも、いやだった。

だから
「今日はゆっくり本が読みたいの。」
そんなくだらない理由をつけて
ナミとの会話を切り上げ、今ここにいる。


本当に、今日は自分がいやになる。
考えてたって仕方がないのだから
みんなに聞いてもらえればいいのに。
きっとみんな聞いてくれるのに。

話出すきっかけが、つかめなかった。


ぐるぐると同じことが頭をめぐるまま
ぼーっと夜空を見上げていたら

ギシギシ

と誰かが登ってくる音が響いた。

「ユイちゃん、」

どうやらそれはサンジだったらしい。

風に乗って、甘いココアの香りが漂った。

気を利かせて持ってきてくれたのだろうけど
今日はその優しさがつらい。

「隣、いいかな?」

咄嗟に、言葉が出ない。

誰かにそばにいてほしい気持ちと
今は放っておいてほしい気持ち
両方がせめぎ合う。

そのままサンジの目を見つめた。
綺麗だな、サンジの目。


答えないのをイエスと取ったらしい。
サンジは静かに隣に腰を下ろした。

「タバコ、吸っても大丈夫?」
「ん。」

我ながら、無愛想な返事だ。

あぁ、こうなりたくないから
一人ここに登ったのに。


「・・・飲んでもいい?」
「もちろん。」

せめてもの償いに
サンジの好意を受け取らせてもらう。

でも、いつもは心まで温めてくれるサンジのココアが
今日は、苦しい。

サンジは何をしにきたんだろう。

何も話しだそうとしないサンジをまたじっと見つめる。

「そんなに見つめられたら照れるなァ。」

サンジはそういって笑うと、私の頭をなでた。

「何しに・・きたの?」
「んー?」

サンジはゆっくりと私の頭をなで続ける。

「今日、島から帰ってきてから
 なんとなく元気ねェかなー、って」

気のせいならいいんだけど
とサンジは続けた。




そのまま、沈黙が流れた。
遠くで、相変わらず騒がしい
ルフィたちの声が聞こえる。

あぁ、きっとこの人には
私の強がりも全部、見抜かれているんだろうな。

ふと、そんな風に思った。

全部、全部見透かされてる。

「ちょっと・・・苦手な人に会っちゃって・・・」
「そっかァ。」

また、沈黙。

でもいやな沈黙じゃなかった。

話たくないなら、話さなくていい
そんな雰囲気をサンジから、感じた。

その雰囲気に
少し
がんじがらめの糸がほどけた気がして

「私の方が苦手、っていうか・・・
 相手が私を嫌ってる・・っていう・・・。」

サンジに届いたかもわからないくらい
小さな声が漏れる。



今日久々に出会ってしまった彼女は
昔から私のことが気に入らないらしい。

それならそれで放っておいてくれればいいのに
嫌悪を表現してくるもんだから
こちらとしてはその感情を受け取らざるをえない。

「それで、しんどくなっちゃったんだ。」
そんな声も
サンジには、ちゃんと届いていたらしい。

「・・・うん。」

そっか、とつぶやくと
サンジはタバコの火を消した。

「ユイちゃん知ってる?
 1割の人にはなァんにもしなくっても
 むしろどんなことをしても好かれることが出来て
 8割の人は努力次第
 残りの1割の人にはどんなに性格がよくっても
 どんなに努力しても
 好かれることはできない、っていう話。」

ううん、と首を横に振る。

「みんなに好かれてる人が嫌い
 って人もいるだろ?」

あぁ、確かに
とサンジの言葉に納得する。

「ほら、どうしようもねェ。
 だからね
 全員に好かれるなんて絶対に無理だから
 逆に言えば、その人たちに好かれなかったことを
 気に病む必要は全くないってこと。」

でもそうはいっても
割り切れない思いがあるのは
もしかすると、全員に好かれたいと
思っているからだろうか。

いや、そんな
全員に好かれたいとまでは思っていなくても
でもやっぱり

嫌われてる事実は
悲しい。

向けられた嫌悪感に
私のすべてを否定されたような
なんだかそんな気がして
よくわからないもやっとした不安が
胸の内にくすぶり続ける。


私のそんな気持ちが顔に出ていたのだろう。

「だけどもし」

サンジが続ける。

「気にしない、てことが出来ねェで
 どうしようもなく悲しくなったらそのときは」

サンジの手が
私の頭を引き寄せた。



「いつでも俺のところにおいで。」



耳元で囁かれた優しい声。

「俺はユイちゃんが何をしたって
 ユイちゃんのことが大好きだから。」

ルフィたちだってきっとそうだよ
と、サンジが笑顔を見せる。

あぁ、そうだった。
傍にいてほしい人たちがいて
幸せなことにその人たちが同じ気持ちでいてくれると
そんなことはとっくに知っていたはずだったのに

私は一体何が不安だったのだろう。

「ユイちゃんの悲しい気持ちがなくなるまで
 ずっと傍にいるよ。」

「ごめ…」

さっきまでは
泣きたくても泣けなかったのに
今度はポロポロと涙が止まらない。

「ユイちゃん。ごめん、は欲しくねェよ」

サンジの大きな手が頬を包んだ。

「・・・ありが、とう」

よくできました
の言葉と同時に
額にキスが落とされた。

そのままサンジの唇が
瞼、頬、唇のすぐ横に触れて
涙を拭っていく。

「大好きだよ、ユイちゃん。」

何に悩んでいたのかもうわからないくらい
私の頭の中は、サンジでいっぱいで


大好きなあなたがいてくれるのなら
もう私は大丈夫


絶対的の存在


「ユイー!元気出たかー?」
「そろそろ降りてこーい!」

ルフィとウソップの声が聞こえて
またこぼれてしまった涙。

「泣き虫なところも可愛い」

サンジの唇が
そっと私の唇に触れた。





******

相互記念 おち様へ捧げます!
とにかく甘やかされるお話
こ、こんなかんじでいかがでしょうか…!!

おち様の思っていた甘やかしと
きっと違うかったとは思うのですが・・・泣

私の書きたいサンジ要素を詰め込んでしまいました 汗

そして恋人設定なのか両思い設定なのか悩んだのですが
結果どっちとも取れる話になりました。笑
他のクルーにも愛されてるヒロインちゃんです。

こんなかんじになりましたが
よろしければお持ち帰りくださいませ。

今後ともよろしくお願いします!

2019.04.15


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