いつだってそうして生きてきたから。

私の人生はこんなものなのだと

変えようと思ったことはない。

変えられる日がくるとも、思っていなかった。


ある姫の話


音楽演奏付きのディナーが食べられるレストラン。
久々に島に降りた麦わらの一行は、船番のフランキー、チョッパーを残し、久々の外食としてこの店を訪れていた。

「おまえたちとくるとムードのいい店も台無しだな。」
料理にがっつくルフィと浴びるように酒を飲み続けるゾロの姿に、サンジはナミと顔を見合わせため息をついた。

音楽家のブルックは、食事よりも演奏が気になるらしく、先ほどから今日のディナーショースケジュールを眺めている。

「今日のメインは歌姫”ユイ”さんだそうですよ。」

「歌姫だと!?」

なんて素敵な響きだ、とサンジが身体をくねらせる。

「歌姫ユイ・・・聞いたことがあるわね。」
ロビンがブルックからスケジュール表を奪う。

スケジュール表に書かれた簡単な説明部分には
”歌姫ユイの緊急参加。いつまでこの島に留まるかはわからない!お見逃しなく”
と書かれている。

「やっぱり。歌姫ユイといえば、神出鬼没で、どこに現れるかわからない人よ。
 気の向くままに出会った人たちの船に乗って、別の島に移動してるとか・・・」
「ヨホホホー!じゃぁ私たちはスペシャルラッキーですね!!」

そうね、とロビンが笑う。

「船に乗って移動するのかそいつ!よし、じゃぁ仲間にしよう!」

どこから聞いていたのか、ルフィが口を挟んだ。
いいですね、とブルックも賛同する。

歌姫の乗った海賊団、か。
それも面白い、とサンジは一人想像を巡らせる。

歌姫というからには、きっと華憐な女性なんだろう
と妄想は膨らむばかりだ。


「そろそろ始まるみたいだぞ。」

ウソップの声に意識を現実に戻すと
なるほど、確かに先ほどより照明が落とされていく。

だんだんと、周りの話声も小さくなっていく中、コツコツとヒールの音が響いた。






ぽとり、と
落ちかけたタバコを慌てて拾う。

ステージに姿を現したのは、ブルーのドレスに身を包んだ女性。

スポットライトの下で注目を集める立ち姿は凛としていて

目を奪われた。


ポロン、ポロンと静かにピアノが鳴る。
レストランにいる、全ての目が、ステージに注目していた。


静かに、ピアノに乗せられた歌姫の声が

会場に響いていく。

音響なんて考えて設計されていないであろう、レストランで
彼女の声は不思議なほどよく響いた。

これが、歌姫たる所以か、と
音楽に詳しいとはいいがたい自分でもわかる。

普段は船のコックとして、レストランの味一つ一つを丁寧に味わっているのだけれど

今日だけは、それがどうしてもできなかった。

歌が終わるまでの30分間、食事には手が伸びなくて。

気が付いたときには、ルフィに料理を食われた皿だけが、テーブルに残されていた。






***あとがき***
また、急に思い立って初めてしまった長編。
勢いです。勢いだけで書き始めてしまったので
書き上げられるか、自信がない!笑
頑張ります・・・。笑



2019.05.11


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