変わらずそばにあるもの



「おめでとう」
「お幸せに!!」

祝福の声がチャペルに響く。

フラワーシャワーを浴びながら、高校時代の部活のマネージャー、ビビちゃんが幸せそうな笑みを浮かべている。

「花嫁さんはやっぱり世界で一番綺麗だと思うの!」
「そうだな。」

拍手を送りながら、目をキラキラと輝かせる幼馴染の言葉に同意する。

まさか高校時代の先輩として呼ばれた結婚式で、こいつに会うとは思わなかった。

なんでも大学のサークル仲間だそうだ。

世の中狭いもんだな。

「ブーケトス、取りに行かなきゃ!」

この後行われるであろうお約束のブーケトスを、どうやらこの幼馴染は本気で楽しみにしているらしい。

「俺たちももうそれなりの年齢だしな。」
「サンジよりは2歳若いけどねー」
「たいして違わねェよ。」

軽く頬を膨らませる幼馴染に笑いが漏れる。

聞いた話、大学時代に付き合っていた彼氏もいたようだ。
ただ、結婚には至らなくて「何がだめなのかしらねー」とユイのお母さんから泣き言を聞かされたのはつい先日のこと。

まさかその話を聞いた数日後にこんなところで会うとは思ってもみなかったけれど。

「サンジはなんで結婚できないの?」
「できないんじゃなくてしてねェだけだ。」
「はいはい。」

バカにした顔で笑うユイの頭を軽く小突く。

「付き合った彼女だっていたじゃん。」
「仕方ねェだろ、フラれるんだから。」
「毎回?」
「毎回」

いつだって理由は同じ。

”あなたが好きなのは私じゃない”

そんなことねェはずなんだけどな。

「ふーん」

ユイはそれだけ言うと、ブーケトスの輪の中へと向かっていった。

ビビちゃんがユリのブーケを投げる。

全員の視線が、ブーケの行方を見守った。

「ビビ!飛ばしすぎ!」

皆の笑い声とともに、ブーケが高く、高く弧を描き

「お・・っと。」

真っすぐに俺の腕の中へ。

「ちょ・・っ!!サンジ!!」
「とっちまった・・・はは」

ユイ以外の参列者が爆笑する。

いや、そんなむくれた顔されても。
これは不可抗力だろ。

「そんなに欲しかったか?これ。」
「・・・うん。」

花嫁のブーケねェ・・・。

「そんなに欲しいならこれ」
やるよ、と差し出しかけた手が、止まる。

キャッチした人は、次に結婚できるんだったっけか?

誰と結婚すんだよ、こいつ。


ユイの隣に立つ誰かを想像する。

ユイの話によれば、過去の彼氏はわりとイケメンで
背も高くて、すらっとしてるらしい。

顔も知らない、元カレたち。

「何、くれるの?くれないの?」
「・・やらねェ。」

えー、とユイがぶーたれる。
うるせェと、いつもよりさらされた額にデコピンをかましてやった。


「え、何々、ユイ知り合いなの?」
「レベッカ!」

ピンクの髪のレディが、ユイに近づいてくる。
まァた、ユイのくせに可愛い子と友達で。

「サンジです。君はレベッカちゃん?」
「はい、ユイとビビの大学時代の友人で。それよりサンジさん、そのブーケ、この子にあげてよ。ユイってば誰と付き合ってもうまくいかなくて!」
「ちょっと!」

余計なことを言うな、とユイが止めに入るが、レベッカちゃんはユイを抑え言葉を続ける。

「タバコ吸ってる方がカッコいい、だとか、やっぱりこのタバコの匂いじゃ安心できない、とか。」
「タバコ・・・」
「レベッカ!!!!」
「せっかく彼氏が料理作ってくれても、なんかこれじゃない、とか。」
「へー。」
「まったく誰と比べてんの、って話で。」

急に大人しくなるユイ。
俺に背中を向けたまま、レベッカちゃんの両肩に手を置き、下を向いている。

顔は見えねェけど、耳が赤いのは一目瞭然。

「誰と比べてんだろうなァ。」

タバコに料理、って・・俺じゃねェか。

わかり切った答えに、自分の口元が意地悪くにやついているのがわかる。

「あ、サンジさんって誰かと似てると思ったら、ユイの歴代の彼氏に似てる・・ってちょっとユイ!」
ずるずると、ユイがその場に崩れ落ちていく。

「レベッカのばかレベッカのばかレベッカのばか」

膝を抱えて顔を伏せていやがるが、顔から湯気でも上がってんじゃねェだろうか。

レベッカちゃんはそこでやっと、自分の失言に気が付いたらしい。

「あー・・えっと、私、そろそろ行くね?」

じゃ、また、とレベッカちゃんが披露宴会場へと向かっていく。
周りの参列者たちも、移動を始めている。

「ユイ、いくぞ。」

座り込んだユイの腕を引く。

ちくしょ、びくともしねェ。

「ユイちゃーん。」
「・・・・」

無視かよ。

埒が明かねェ。


どさっ、と大げさに音を立て、俺もしゃがみ込んで視線の高さを合わせた。
「な、なに・・っ」
驚いたユイが顔をあげる。

「・・っおまえ・・顔真っ赤。」
「だ・・だって・・」

赤い顔をしたユイの瞳に、涙がにじむ。

ん?

なんだこれ。

今、きゅん、てした。

俺が?

ユイ相手に?

「サンジ・・・?」

ユイの手が、そっと俺の頬にふれる。

「顔、赤い・・よ?」
「は!?」

いや、確かに。

だんだんと顔に集まる熱を自覚する。

いたたまれなくなって、俺は立ち上がるとユイに背中を向けた。

落ち着け。落ち着け俺。

くそ、ここじゃタバコも吸えねェ。


”あなたが好きなのは私じゃない”

こんなときに、元カノたちの言葉が浮かぶ。

言われたのは、どんなときだったか。

そうだ、それはいつも
俺が近所に住む幼馴染の話をしたあとで

家の近くをお散歩デートしながら
ここで昔あいつが、とか

手料理をふるまいながら
あいつはいつも、とか

俺の話、ユイのことばっかかよ。



思い当たった答えに頭を巡らせる。



足元を見下ろすと、左手に握ったままのブーケが目に入った。

ユイもいつか、誰かと結婚すんのか?

誰かと?




いや、それは




俺じゃなきゃだめだ。

「やるよ、これ。」

振り返り、ユイに花束を差し出す。

「や、でも・・・私・・・」
「おまえの満足いく料理は、俺しか作れねェ。」
「サンジ・・・?」

俺の言葉を飲み込み切れていないまま、ユイが花束に手を伸ばす。

「ありがと」
「ほら、行くぞ。」

ユイの手を引いて、立ち上がらせる。
離れようとする手を、すかさず握りなおした。

「サ、サンジっ」
「いいから黙ってろ」

そのまま、手を引いて歩き出す。

小さい頃は、よくこうやって歩いてたっけな。

あの頃はそんなに変わらなかった身長も、手の大きさも
今じゃこんなに違う。

だけど

今迄も

これからも


わらずそばにあるもの


隣にいてほしいのはお前だけ








***あとがき***

結婚式に参列してきたので、結婚式ネタで。
似非レベッカですね・・すみません。

なんか、ちょっとお節介しながら、ぽろっと言っちゃう系のキャラ誰だろ、って思ったら
レベッカしかでてこなくて・・笑

でもしゃべり方わからず、こんなかんじに。

気に入っていただけたら幸いです。


2019.06.03




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