やさしいやさしい雨が降る午後


島についたのに今日は留守番だなんてついてねェ。
いや、順番に回ってくるもんだから
ついてねェもクソもねェか・・・。

夕飯の仕込みを終え、傘を持って甲板に出る。
いつの間にか降り出した雨は、いつしか打ち付けるような強い雨へと変わっていた。

朝は晴れてたんだけどな。
うちのクルーたちは全員傘を持ってでかけたはずだから、なんの心配もいらねェか。
ナミさんの読みはいつだって正しい。
さすがナミさん。


しっかし・・・

「今日は暇だな。」

島の方を眺めながら、タバコに火をつけ、思いを馳せる。

あの子は今何してんだろうか。

サンジくんの代わりにお買い物、ちゃんとしてくるから!
と笑顔を見せたユイちゃんは。

レディに買い出しなんて、と断ったのだが、あのキラキラした目に根負けして

それなら俺のタバコを、
と軽めのものをお願いした。

俺が言い終えるや否や、こちらから銘柄を伝える前に、ユイちゃんの買い物メモにはもうその名前が書かれていて、覚えてくれている事実が、俺の胸を打った。



「ん・・・?」

島の方から、誰かがこちらに向かって走ってくる。

見慣れない青色のワンピース。

あんな色のワンピースうちのレディたちは持ってなかったはず・・

と、記憶を辿ってふと気づく。

あれは今日ユイちゃんが着ていた水色のワンピースだ。

目をこらすと確かにあれはユイちゃんで。

でも持っていったはずの傘が見当たらない。

ワンピースの色が青く変わっているのは、どうやら雨に打たれたかららしい。

「ユイちゃんっ!!」

慌てて甲板から飛び降りると、俺は地面を蹴り、ユイちゃんの元へ急いだ。



持ってる荷物を傘替わりにすれば、こんなに濡れなかっただろうに。

「傘はどこに置いてきたんだい?」

ユイちゃんの上に、傘を差し出す。

下を向いて荷物を抱えながら走っていたユイちゃんは、当たらなくなった雨に気づき顔をあげた。

「あ、サンジくん!」

迎えに来てくれたの?、と顔をほころばせるユイちゃんに、俺の胸はきゅんと鳴く。

「船に戻ったら風呂場直行だな」
「そうだね。」

自分の服を見て、ユイちゃんが笑う。

何か事件にでも巻き込まれたかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

とりあえずほっと一息をつく。

「船、戻ろっか。」

肩を並べ、ユイちゃんとふたり、船に向かって歩き出した。
バチバチ、と言っても過言ではない、打ち付ける雨の音が傘の中に響く。
そのまま歩いていると、ユイちゃんが心配そうな顔でこちらを見た。

「サンジくん、濡れてない?」
「大丈夫だよ。気になるならもうちょっとこっちに寄ってくれれば・・」

言い終わる前にユイちゃんがこちらに距離をつめる。

一気に近くなった距離にゴクリと唾を飲み込んで
恐る恐るユイちゃんの肩に腕を回す。

「冷てェ・・」
「サンジくんの手は暖かいね」

あまりの冷たさに、下心は一気に消えた。

これはマジで早く風呂入ってもらわねェと。

「ユイちゃん、ちょっとごめん」
「うん?」

ユイちゃんに傘を持たせる。

「え、ちょっと!サンジくん、重いから!それにサンジくんが濡れちゃう」
「大丈夫だよ。それにこっちの方が早ェ」

ユイちゃんの膝下に手を入れてひょいと横抱きに。

「ちゃんと、捕まってて。あと傘、よろしくね」
「は、はいっ」

ユイちゃんの腕が俺の首にまわる。

また伸びそうになる鼻の下をぐっとこらえ、俺は地面を蹴った。





「着いたよ。濡れてない?・・・って元から濡れてたか」
「ふふっ。ありがと。」

キッチンまで入り、ユイちゃんを降ろす。
こんな冷えた身体でユイちゃんが帰ってくるなら、キッチンを温めとくべきだったな。

「あっ!」

思い出したかのようにユイちゃんは荷物をゴソゴソと漁った。

「よかった!タバコは大丈夫!濡れてないよ!」

ユイちゃんが袋からタバコを取り出す。

さっきまで、ユイちゃんが大事そうに抱えながら走っていたのは俺のタバコだったのか。

タバコがだめになったって、傘替わりにしてくれればよかったのに。
健気な姿に、胸が熱くなる。

「・・・っ」

あっっっっぶねェ

思わず抱きしめたくなって伸ばした手を、なんとかユイちゃんの肩に置くまでで留める。

「サンジくん・・・?」

いや、だって可愛すぎるだろ。

顔を見られなくて、下を向いたまま、ふぅーっと息を吐く。
気持ちが落ち着いたところで、顔を上げ、ユイちゃんの手からタバコを受け取った。

「ありがとう。とりあえず、風呂で温まっておいで」
「はーい」

ユイちゃんの背中を見送り、タバコを吸おうとして、ストックはさっき吸ったのが最後の一本だった事に気づく。

ユイちゃんが大事に持って帰ってきてくれたタバコのカートンの箱。
有難く、それに手をつけた。

ユイちゃんが自分が濡れても守ってくれたもの。

そう思うと、吸い込んだ煙は心なしかいつもより甘く感じられた。




キッチンも程よく温まり、ホットミルクが出来上がる頃、雨はやっと勢いを弱めた。

そろそろ戻ってくるだろう、とマグカップにホットミルクを注ぐと同時に、ユイちゃんがキッチンへと入ってくる。

「温まってきました!」
そういうユイちゃんの髪からは、まだ水が滴っている。

「乾かしてあげるよ」
ホットミルクを手渡し、俺は向かい合う形でユイちゃんをイスに座らせた。

ホットミルクを一口飲んだのを確認し、そっと頭にタオルをかぶせる。

「子供に戻ったみたい」
俺が手を動かすと、ユイちゃんは嬉しそうに笑った。

喜んでくれるなら、本当は毎日してあげるんだけどな

「傘どこに置いてきたの?」
髪を傷めないよう、慎重に手を動かす。

「島についた時にね、お店の場所がわかんなくて」
「うん」
「迷ってたら、可愛い兄妹が道案内してくれたの」

女の子の背がこのくらいで、とユイちゃんは手で身長を示す。
そのくらいだと、妹の方は5歳とか、そんくらいだろうか。

「買い物が終わったくらいで雨がふってきて。1人だけだったら、一緒に傘に入って送ればよかったんだけど、さすがに2人を入れては難しいでしょ?だから」
「二人に渡してきちゃったんだ」

優しいユイちゃんらしい、とこちらも自然と表情が和らぐのがわかる。

「本当に可愛い子でね」
と話すユイちゃんの頬も緩んでいる。

その表情があまりにも可愛くて

「可愛いのはユイちゃんの方だ。」
「そんなことないよ。」

小せェ子どもに優しいところも、自分が濡れてでも俺のタバコを守ってくれたところも、それだけじゃなくて、今までのユイちゃんの可愛いところが全部全部浮かんできて

見えていた顔を、見えないようにバスタオルで覆う。

「サンジくん?」

髪をふく手をほんの一瞬だけ止め、そっとタオルの上からユイちゃんの頭のてっぺんに口付けた。

「今・・・」

手でタオルをどけながら、ユイちゃんが顔をあげる。

「どうかした?」

なんでもない顔を向けながら

「明日は留守番じゃないから、一緒に傘、買いに行こうか」

ほんのり赤く染まった頬を愛しく思う。


やさしいやさしい

が降る午後


(あーーー、好きだ)








***あとがき***

リク:傘を子供にあげてしまってびしょ濡れで船に帰ってきた夢主を心配するサンジ

タオルの上からこっそりちゅ、ってさせたくなり、この展開になりました!
ヒロインちゃんも、おそらくサンジくんが好きと思われます・・・!

気に入っていただけましたら幸いです。
リクエストありがとうございました。


2019.06.23

title:星が水没



- 27 -

戻る / TOP