移り香に酔えば



麦わらの海賊団に入って半年。
最近気づいたことがある。

何かあるといつも最初はナミのところから。

ナミがいないときはロビンが最初で、いつだって私は誰かの次。

サンジくんがナミに走り寄る姿は、私が船に乗ったときには、もう日常茶飯事で。

それでも、なんともなかったその景色が、目につくくせに見たくないものになってしまったのはいつからだろう。

二人の姿を見るとずきり、と胸が痛んで

その痛みが恋だと知った時には手遅れだった。

もう、戻れない。





「サンジくーん!何かさっぱりしたものが飲みたいな。」
「喜んで〜」

今日も視界の端で、ナミのリクエストに応えるサンジくんを捕らえる。

本気で見たくないのなら、この空間から立ち去ればいいのに。

近くにいたくて、それすらできない自分に嫌気がさす。

「ユイちゃんはいつもと同じアイスコーヒーでいいかな?」
「うん、ありがと」

サンジくんは頷くと、キッチンへと消えて行った。
閉じた扉の向こうに、私も入ることができたらよかったのに。

ナミみたいに上手に甘えられれば、私もサンジくんの心の中に住めただろうか。

「?」

じっと見つめる私の視線に気づき、ナミが首をかしげる。

美人で、スタイルもよくて

優しくて、かっこよくて

ナミはいつだって私の憧れ。

「どうやったらナミになれるかな」
「はぁ?そんなの無理にきまってんじゃない。」

そうだよね、と一人ため息をつく。

大好きなナミだから
憧れのナミだから

そんなナミを好きなサンジくんは見る目がある、だなんて

それがさらにサンジくんのポイントをあげてしまうのだから仕様がない。

「私は私。あんたはあんた。」

比べても仕方ないじゃない、とそれだけ言うと、ナミはまた海図へと視線を戻した。




私は私・・か。

ナミとは違う、平たんな自分の身体を見下ろしていると、キッチンの扉が開いた。

「ナミすわァァァァァん!!!」

誰よりも最初にナミの名前を呼びながら、サンジくんが甲板へと戻ってくる。

ナミの為に用意されたドリンクを持って
ナミの為に用意されたスイーツを添えて。

「ありがと、サンジくん」
「ナミさんの為ならお安い御用さ」

サンジくん、楽しそう。

ナミと楽しそうに話す姿をちょこっとだけ確認して

でもやっぱり見ているのはつらくて、視線をそらす。

何を話しているのだろう。
気になって仕方がない。

唯一の救いは、ナミがサンジくんに全く興味がなさそう、っていうこと。

玉砕する勇気がないなら、せめてサンジくんの恋の応援が出来ればいいのに。
それもできない自分。



「ユイちゃんも召し上がれ。」
「ありがとう」
最後に、サンジくんは私のところにやってくる。

私のところにくるサンジくんが目をハートにしていることはない。

「いいな・・・ナミ」
「ナミさんと同じものの方がよかったかい?」

心配そうに尋ねるサンジくんに、慌てて首を横に振る。

「違うの違うの!飲み物の話じゃなくて。」
「?」

サンジくんは頭に?を浮かべたまま私とナミを交互に見比べた。

「・・・ナミになりたいな、ってそう思っただけ。」
「ナミさんに?」

このままだと泣いてしまいそう。
小さくうなづき、ストローを口にくわえた。

コーヒーが、いつもより苦い。
苦くて・・・苦しい。

「ユイちゃんがユイちゃんじゃなくなったら、俺はいやだなァ」

ぽんぽん、と頭に手が乗せられた。
じんわりと広がる、サンジくんの手の温かさ。

あぁ、もうやめてほしい。

私のことを好きにならないのなら、優しくしないで。
期待、させないで。
ナミのことを想ってるくせに。


・・・嘘。
もっと優しくしてほしい。
私だけに。
一番に私のところに来てほしい。
私を一番にしてほしい。

「ユイちゃん今、ちょっといいかな?」

コーヒー持ったままでいいからさ、とサンジくんがキッチンを指さす。

「?・・・うん。」

なんだろう。
アイスコーヒーを片手にサンジくんの後に続く。

「ルフィたちに見つかったら全部食われちまうから。」

何か食べ物、ということだ。
急にどうして?

キッチンの中心に、すぐに答えは見つかった。

「・・・ケーキ?」
「うん。ナミさんから聞いた。先週誕生日だったんだろ?遅くなってごめん。知らなくてさ。」

あぁ、またナミだ。

「ありが、とう。」

嬉しい。
とても嬉しい。

でも・・・・苦しい。

「ごめん、ちょっと・・・」

気持ちを落ち着けるために、下を向く。

涙、こぼれるな。

折角サンジくんが私のために作ってくれたんだから。
嬉しい気持ちだけでも、伝えたいのに。

「気に入らなかった・・・?」

ほら、優しい彼を傷つけてしまう。

「そんなことないよ。すごく、嬉しい。」

言い終えると同時に唇をかむ。
だめだ、だめだ。

このままじゃ。

「ユイちゃん、顔あげて」

サンジくんが、距離をつめるのを感じて、私も一歩後ろに下がる。

「・・・俺嫌われてるかな。」
「ちがう、そうじゃなくて。」

一歩、一歩と
サンジくんが近づき、私は後ずさる。

続けているうちに、とん、と腰がテーブルへとあたった。

「じゃァなんで泣きそうな顔してるのか、教えてほしい。」

サンジくんの指が顎に触れて、優しく上を向かされる。

重力に従って、涙が頬をつたった。

あぁ、折角我慢してたのに。

「ユイちゃん。俺、ユイちゃんが好きだ。」
「え?」

突然告げられた言葉に、思考が追いつかない。

「そんな、わけない。だってサンジくんはナミが・・・」
「なんでそう思うの?」
「なんで・・って・・・」

脳裏に浮かぶ、二人の姿。

「いつだって、サンジくんが一番に行くのはナミのところじゃない・・。」
「え?」
「いつだって・・・二人は楽しそうで。サンジくんが幸せそうだから・・・だから私っ・・、諦めようっ・・て」
「あぁ・・そういうことか」

サンジくんは眉を下げながら、口元を緩ませた。

「まさか、ユイちゃんが俺のこと想ってくれてるなんて、思ってなかったな。」

サンジくんの言葉にハッとする。
私、さっき勢いに任せて・・・

あれじゃ好きだって、言ったようなもんだ。

「ユイちゃんのことになるとどうもいつもの調子がわかんねェんだ。だから、ユイちゃんに話しかける前に、ナミさんとか、ロビンちゃんに話しかけて、調子整えてた。」
「う・・そ」
「ほんと。それがユイちゃん傷つけてるなんて、思ってもなかったんだ。」

ごめん

その言葉とともに、身体ごと引き寄せられる。
私の耳が、サンジくんの胸に押し当てられた。

「これでも、信じられない?」

耳を押し当てられたサンジくんの胸から、ドキドキと、早い鼓動が聞こえる。

「すごく、早い・・ね」
「だろ?」

ドキドキと早い鼓動が、不思議と私の心を落ち着けていく。
その音を聴き洩らさないように、と私はそっと目を閉じた。


しばらくの後、離れていく身体。
顔をあげるとサンジくんの目がじっと私を見つめていた。

鼻腔を掠めるサンジくんの香り。
目の前のサンジくんからなのか、抱きしめられた自分の身体に移ったのかは、わからない。

「ナミさんには、しないよ。こんなこと。」

その顔は、いつもより少しだけ余裕がないように見えて


移りに酔えば


苦しかった時間も、溶けて消えていく。











***あとがき***

あお様に捧げます。

リク内容:サンジの一番はナミだと諦めている夢主

他の人を好きだと思っているときの片思いの気持ちを思い返しながら書きました!

気に入っていただけていれば幸いです。

もうお一人から
「サンジがナミを好きだと勘違い」というリクエストいただいているので
今回の分とはまた違ったテイストでかければいいな、と思っております♪


2019.07.14
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