まずはよく慈しんで温めてからお召し上がり下さい
視界の端で、ウソップに切りかかる二人の敵の姿が見えた。
「ウソップ!!!!!」
間に割って入り、ウソップを突き飛ばす。
「ユイ!!!!!」
「く・・っ」
敵一人の剣を自分の剣で受け流す。
もう一人の敵がこちらに向かってくるのを背中で感じる。
でも、崩した体制が、立て直せない。
「ぅぁ・・・っ」
背中に、感じたことのない痛みが走る。
身体の熱が、すべて背中に集まった気がした。
とどめを刺すため、また剣を振り上げる気配がわかる。
でも
だめだ、痛みで力が
瞑った瞼の裏に、大好きな人の笑顔が浮かんだ。
「サン、ジく・・っ」
まだ、しにたくない。
だってまだ、好きって伝えられてない。
「ユイ!!!」
倒れかけた私の身体を寸でのところでゾロが受け止める。
体制を立て直し切りかかってきた二人は、ゾロの手であっという間に一掃された。
「ユイす゛まねェ・・・っ俺・・・っ」
「大丈夫、大丈夫だから・・・」
駆け寄ってきたウソップが、今にも涙をこぼしそうな顔で私の顔を覗き込む。
「何が大丈夫だバカ。すぐ手当するぞ。チョッパー!!」
ゾロの声が、甲板に響く。
「チョッパーならあっちに・・・ユイちゃん!!!!」
痛みに歪む視界の中で、ゾロの声に反応した大好きな人の姿を捉えた。
あぁ、こんなときでも好きな人の姿はすぐに見つけられちゃうんだな。
そんな自分に苦笑する。
「俺がチョッパーのとこに連れてく。あとは任せていいか。」
「あァ。背中をやられてる。」
「わかった。」
ゾロが私の背中に触れないよう、駆け寄ったサンジくんの背中に私を乗せる。
暖かい、サンジくんの背中。
ずっと触れたくても触れられなかったこの背中に触れられたのだから、怪我をしたのも儲けものだったかもしれない。
そんなこと考えてるのがばれたら、皆に怒られそうだけど。
よかった。生きてて。
「ウソッ・・プ、本当に大丈夫だから。ね・・?」
「サンジぃぃ、ユイ頼んだぞぉぉぉ」
「大丈夫だ、任せとけ。」
つかまってて、というサンジくんの言葉に、私は首にまわした腕にぎゅっと力を込めた。
チョッパーを連れて医務室へと入る。
服を脱ぐことがわかるとサンジくんはタバコを吸ってくる、と医務室を出て行った。
イスに座り背もたれに顎を乗せ体重を預ける。
「薬、塗るからな。」
「ぅ・・・っ」
さすがに傷薬は染みて、痛みに下唇を噛む。
薬の塗られる箇所から、自分では見えない傷の大きさを知る。
上から下まで、結構ばっさりやられちゃったんだな・・・。
「傷は深いけど、致命傷じゃない。だから、大丈夫だ。」
「うん、ありがとう。」
「疲れただろ、寝転がっていいけど、まだ背中はつけちゃだめだからな。」
今日はずっとうつぶせか・・・。
チョッパーの言葉にうなづき返し、そのままバタンとベッドへとダイブ。
「しばらく眠ってろ。なんかあったら呼ぶんだぞ」
「うん・・・」
ぺたぺたと、チョッパーの可愛い足音が、部屋から出て行った。
重たい、瞼。
重力に従い、私は目を閉じた。
誰かが頭をなでてくれているような、そんな心地良さに、目を開く。
「おはよう。」
降ってきた声は大好きな人のもの。
あぁ、よかった。私、生きてる。
「痛・・・」
起こそうとした身体に痛みが走る。
「そのままでいいよ」
サンジくんの手が私の頭にそっと触れた。
あ、やっぱり。
さっき頭をなでてくれていたのは、サンジくんだ。
なんで、どうして
サンジくんはここにいてくれたんだろう。
聞けないままサンジくんの顔を見上げていると、サンジくんがためらいがちに口を開いた。
「傷・・見てもいいかな」
「う・・・ん」
そっと掛け布団がめくられる。
恥ずかしくて、顔を壁側に向けた。
「許せねェな。ユイちゃんにこんな傷つけやがった野郎も・・・守れなかった自分も。」
静かな部屋に、サンジくんの悔しそうな声が響く。
「せめて、クソマリモじゃなくて、俺が助けたかった」
好きな人のそんな言葉が嬉しい。
その言葉に、どれほどの意味が込められているかなんて、わからないけれど。
「背中の傷なんて、ゾロに呆れられちゃうね。」
一人で舞い上がっているのを悟られないよう、ごまかすようにそう口にする。
背中の傷は剣士の恥
前に、ゾロはそんな風に言っていたから。
同じ剣士なのに、なんで私はこんなに弱いんだろう。
ゾロなら、ウソップも守って、それで怪我もなく二人を倒せたはずだ。
「ウソップ守ってついた傷だろ。なら全然恥なんかじゃねェよ。クソマリモがそんなくだらねェこと言いやがったら俺が蹴り飛ばしてやる」
サンジくんの指が、傷口のすぐそばに触れた。
恥なんかじゃない、その言葉に視界が揺れる。
「喧嘩は、だめだよ。」
涙をこらえて紡いだ声は、自分が思っていた以上に頼りなくて、それを察したサンジくんの指が、背中の上でピクリと震えたのがわかった。
「痕、残るかな」
ごまかすように続けて口にする。
「ユイちゃん・・・」
不意に背中に感じた、柔らかな温かさ。
それがサンジくんの指ではなく、唇だと気付く。
「サンジ・・・くん?えっ・・何して」
サンジくんの唇が、傷跡の近くに触れていく。
上から、順に下へと。
冷えていた背中に、唇の温かさが広がる。
「早く治るように、おまじない」
さっきとは別の恥ずかしさで、今度は顔から火が出そう。
「ユイちゃんは・・マリモが好きなのかい?」
「え・・?」
急な問いに、思考が停止する。
なんで急に、そうなるの。
「マリモにどう思われるか、気にしてるみてェだから。」
あぁ・・そういうこと。
「さっきのは・・そういう意味じゃなくて・・・」
むしろサンジくんに言われた言葉が嬉しくて
それを誤魔化すためだったのだけれど。
「サンジくんが・・・・」
俺が助けたかった、って
そういってくれたから
「俺が、何?」
今迄の私なら、言えなかった。
でも、さっき死んでしまうかもとそう思ったとき、あのとき感じた後悔をもう引きずりたくない。
「好き」
小さすぎて、消えそうな声。
それでも確かに、サンジくんには届いているはず。
「このまま、食っちまいてェ」
小さくつぶやかれた言葉とともに、サンジくんの唇が私の頬に触れた。
まずはよく慈しんで
温めてから
お召し上がり下さい
声を出せないまま、重なった手をぎゅっと握って
心の中でそう応えた。
***あとがき***
あお様に捧げます。
リク内容:仲間を庇って大怪我した夢主
付き合っていない設定
庇う仲間はウソップにしちゃいました・・・!
からの、なんか微エロチックに・・・!!
すみません・・・!!
そしてやはり管理人のゾロ好きが捨てきれず・・・笑
気に入っていただけましたら幸いです。
2019.07.07
title:moss
- 33 -
戻る / TOP