あおいろくれないみどりととけて



気づきたくなかった想いがある。

「サンジ」
「ん?どうした?」

サンジが立ち止まり、振り返る。

「なんでもない。」
「んだよ、それ。」

追い越した私をサンジが後ろで笑った。

気づきたくない。
まだ、気づかない。

私だけが感じている、この気持ちには。



ずっと傍にいたサンジに対する想いに違和感を感じたのは、何がきっかけだったか。

あぁ、そうだ。

この間敵の攻撃に仕込まれた毒で、熱を出したとき。

なんで体調が悪い時は、あんなにも心まで弱ってしまうのか。

うわ言のようにサンジの名前を呼んで、来てくれたことに安心して。
大丈夫、大丈夫だ、と
寝かしつけるように布団をたたくサンジの優しさが、どうにも染みた。

『そんな付きっ切りだとサンジくんまで倒れちゃうわよ。』

目を閉じたまま、自分でも眠っているのか起きているのかわからないくらいぼんやりした意識の向こうから、聞こえてくる、ナミの声。

『俺は大丈夫だよ。昔からそうだ。こいつが熱出したときは、俺がいてやらねェと。』

うん、そうだね。バラティエにいた頃からずっと。
何かあると、ずっとサンジは傍にいてくれた。

『前から聞きたかったんだけど、あんたたち、どう思ってんのよ。お互いのこと。』
『どうって?』
『サンジくんがユイに向ける気持ちは、”仲間”としてなのか、ってこと。』
『そうだなァ・・・・』

サンジの手が、頭を往復する。
その手の心地よさに、だんだんと本当に意識が落ちていく。

『こいつは、誰よりも大切な妹だな。』
『本当の本当に?』

ナミの言葉に、サンジが笑っているのがわかる。

『あァ。俺が唯一これから先、女に見ることができねェくらい、本当に大事な妹だ。』
『ふーん』

”唯一これから先、女に見ることができない”

痛い、痛いよ。サンジ。

『どうかしたか?・・つか起きてんのか?』

サンジの指が、頬に流れた涙を拭う。

何がつらいのかもそのときはわからなくて。

私はただ、眠ったふりを続けることしか出来なかった。





「おはよう、ユイ」

ソファに座り、新聞を見ていたサンジが、顔も見ずにそう口にする。

以前見聞色の覇気をこんなところで使わないでよ、とそう伝えたら『使ってねェ。おまえだからわかるんだ』とかわけのわからない回答をされた。

バラティエにいた頃からずっと、おまえの気配はすぐわかる
だなんて、どんな殺し文句だ。

妹にしか、見れないくせに。

「・・おはよ」
「なんかあったか?」

いつもより元気ねェぞ、なんて
誰よりも早く気づくあなたの残酷な優しさが

今日も

痛い

「別に何もないよ。おなかすいてるのかも、朝ごはん早く!」
「おまえだんだんルフィに似てきたか?」
「あそこまで食いしん坊じゃないよ。」

へーへー、と軽く流しながら、立ち上がり、流し台へと向かう後姿を見つめる。

料理を作る後ろ姿も、排気口に吸い込まれていくタバコの煙も、ずっと見慣れた景色だったはずなのに。

サンジのいなくなったソファに、今度は私が腰を下ろす。
サンジの座っていた全く同じ位置に自分も座り込んで。

「たまにはおまえも手伝えよ。」
「給仕係の出番はみんなが起きてからです。」
「・・・そうだな。」

バラティエで給仕係をしてた頃から、何も変わっていないはずなのに。

さっきまでサンジがいたってだけなのに。

ソファに残った温かさが、背中をそっと包み込んで
なんだかサンジに守られているような、そんな気がするのはなぜだろう。

「親父、元気かなァ・・・」
「ピンピンしてるだろうよ。」

ソファの背に頭を乗せて、天井を眺める。

親父、大変です。

私、もう気づかざるを得ません。

「はいよ、あいつらには内緒だぞ。後でうるせェから」
「ん、ありがと。」

皆よりちょっとだけ早い朝ごはんが、そっと目の前のテーブルに置かれる。

「冷める前に早く食え」
「いただきまーす」

可愛く切られたタコさんウインナーと、リンゴのウサギ。

「好きだろ、それ。」
「うん。」

小さい頃に両親を亡くして、寂しがる私の為に、何度も作ってくれたよね。

「好きだよ、ずっと。」

満足そうに笑ったサンジが私の頭をガシガシとなでる。
知ってる。そんななで方、他の女の子には絶対にしないこと。

私は誰よりも特別で。

だからこそ特別になれないこと。


「サンジー!!!腹減ったーーー!!あ!!!ユイだけずりぃぞ!!」
「うるせェのが起きてきやがった。」

苦笑しながら、サンジがまたコンロの方へと向かう。

「おはよ、ユイ」
「おはよ、ナミ」
「おはよう。」
「うん、おはよ、ロビン」

続々とみんながキッチンへと入ってくる。

「サンジくーん、今日は甘めの朝ごはんが食べたいな」
「甘め朝ごはん了解しました〜〜〜〜」

いつかあんな風に、誰か本当の特別な人が、サンジの隣に立つのだろう。

そして私は、決してその相手にはなれない。





「ごちそうさま。」

自分のお皿を流し台へと運んで、その帰りにサンジの作ったご飯を食卓へと運ぶ。

「あれ、おまえ今日もう食わねェの?」
「うん、今日はもういいや。」

なんだか、胸がいっぱいで。

全てを運び終えて、キッチンの外へ出る。

船の縁に腕を乗せて、その上に頭を乗せた。

「ほんと、今日どうした?っつか最近ちょっと元気ねェのは俺の気のせいか?」

追いかけてきたサンジの声。

親父、だめです、もう。

「元気、なくはない、こともない。」
「ほら、やっぱ元気ねェじゃねェか。」

サンジの手が伏せたままの頭に乗せられる。

「おまえが俺に隠しごとするなんざ100年早ェ」

それでも、隠し通さなきゃいけないこともある。

優しいサンジを困らせないために。

いつまでも、特別でいるために。

「理由はいいたくねェなら聞かねェけど、なんかあったら言えよ。いつだって俺はおまえの味方だ」
「ん、ありがと。」

大丈夫だからサンジも朝ごはん食べてきて、と伏せていた顔を上げる。

大丈夫。
そう、大丈夫。

同じ気持ちになってくれることなんて、望まないから。

ただ、ずっと傍にいさせて。

「落ち着いたら戻って来いよ。」
「うん。」
「片付けも手伝ってほしいし。」
「はいはい。」

ひらひら、とサンジは手をふると私に背を向けた。


ねぇ、好きだよ。

音にできない言葉を背中へ投げかける。


あおいろくれない

みどりととけて

とけて

とけて

消えればいいのに




どこまでも果てしなく続く海の青さに、視界が揺れた。







***あとがき***

リク内容:悲恋でサンジへの思いを胸のなかに閉じ込める夢主

当サイト初の悲恋ですが、いかがでしたでしょうか?
前のサイトでは悲恋とかも書いていたのですが・・久々の短編悲恋!

もう一つ現パロ、イチジの婚約者バージョンのお話も書いていたのですが
ちょっと細かく書きたくなってしまったので
こっちは機会があればまた別のところで・・・!
(浮気話になってしまうので今回はやめました)



2019.08.03

title:星が水没


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