君とは結ばれなかった糸の色



おまえはほんとサンジが好きだな
とオーナーゼフに言われた日から、そうか私はサンジが好きなのだと

そう思って生きてきた。

「おまえはまだ付き合っているのか。あいつと。」

全てが終わったパンクハザードで

宴会を横目にローが私の隣に腰かけた。

「もちろん。」

膝の上で頬杖をついたまま、視線をローへと向ける。

「そろそろあいつと別れて俺のところにこい。」

この男と初めて出会ったのはシャボンティ諸島だった。
なんでも一目見て私を気に入ったらしく、今回再会したこのパンクハザードでも、気が付けばこの調子だ。

ヴェルゴと戦っている最中に身を挺して守ってくれたのには感謝してる。
でも
「あのね、私はサンジが大好きなの。ずっと、昔から。」

物心ついたときには、パパが船長の船にサンジはいた。

当時海賊だったゼフに襲われてパパの船が沈んだ後も、一緒にゼフに助けられて、一緒にバラティエで働いて・・・・。

つらいときも、楽しいときも

いつだって一緒だった。

いつだって、サンジが大好きだった。
だから、その気持ちをサンジに伝えて。

サンジも、優しく頭をなでながら、俺も好きだ、とそう言ってくれて。

二人の時間を積み重ねてきたのだ。

ルフィの船に乗ると決めたときもサンジは私の手を離さなかった。

「過去のことはどうでもいい。俺を選べ、ユイ屋」
「選びませんー。」

ローにべーっ、と舌を出す。
サンジと過ごした日々は、誰にも超えられない。
今迄も、これからも。

「人の女くどいてんじゃねェよ。」
「サンジ!」

にゅっと私とローの間に黒い足が伸びる。
サンジはローを押しのけながら、私の隣へと腰を下ろした。

「海賊だからな、俺は。欲しいもんは奪う。それだけだ。」
「奪えるもんなら奪ってみろ、ぜってェ渡さねェ。」

ローは口元だけ笑うと、クルーたちのいる方へと戻っていった。

その背中を睨んでいたサンジが、私の視線に気づき、表情を緩める。

「何々、サンジ妬いてくれたの?」
「ん?そうだなァ。」

大きな掌が私の頭に乗せられる。

「今迄おまえのこと口説くヤローなんかいなかったのに。」
「それ、何気にひどいこと言ってない?」
「ハハ。事実だろ?」

いたずらをした子供のような顔でサンジが笑う。
昔からずっと見てきた、私を安心させる笑顔。

「でも、まァ・・・」

サンジの手が、頭から頬へと移動した。

「会えなかった2年で、綺麗になった。」
「サンジも、かっこよくなったよ。」
「俺は元からだろ。」
「はいはい。」

サンジの唇がおでこに触れ、ちゅっ、と軽いリップ音を立てた。

「なんだか眠たくなってきちゃった。」
「じゃァ眠っとけ。」

サンジの膝の上へと、頭を乗せる。
サンジの手が優しく髪をなでた。

安心する。
サンジの手。

いつだって、この手に守られてきた。

サンジを好きな気持ちは、ずっと私の中で変わらなくて。

サンジは変わらずずっと私の隣にいて。

だからこれからも、ずっと変わらないのだと

そう信じて疑わなかった

大好きで

大好きで

これが恋なのだと



そう



信じていた。











「ロー!!!!」

鳥籠に追いつめられるドレスローザの街中で、ローは突然怪我だらけで姿を現した。

今にも死にそうなその姿に、自分の怪我も忘れて、慌てて駆け寄る。

「ユイ屋・・・」
「ローっ」
うっすらと目を開けたローの手を強く握る。

「麦わら屋は・・無事だ、だからそんな顔を・・するな。おまえの怪我は・・?」
「私は、全然・・っ大丈夫だから・・!」

ドレスローザに着くまでの夜、甲板で軽く酔ったローが過去の話をしてくれたことを思い出す。

ねぇ、大事な人があいつに殺されたんでしょう?
敵を討つために、頑張ってきたんでしょう?

それなのに

ぽろぽろと、涙がこぼれる。
なんでこの人は、こんな状態で、私なんかよりよっぽどつらいだろうに。
ルフィを心配する気持ちだとか、私の怪我だとか。
そんな心配をしてるんだろう。

「なんで、そんな・・」
「惚れた女の無事確かめて・・何が悪い」

ローの力ない手が、頬に触れ、涙を拭った。

「でも・・私は、サンジが」
「惚れた女が誰に惚れてるかくらい見てりゃわかる。おまえが惚れてるのは俺だ。」

頬に添えられたまま、ローの手が止まった。

サンジとは違う

でも

暖かい、手。

「その自信は、どこからくるんだか・・」

自信満々の発言に、自然と涙は止まって。

それを見て安心したのか、ローは目元を緩めると、そっと私を引き寄せた。

「疲れた。しばらく、支えてろ。」
「・・・うん」

サンジだけを好きだったはずなのに

どうして私はこの腕を振り払えないのだろう。

どうしてローの腕の中は

こんなに心地いいのだろう。

今は別の場所で船を守っているサンジの顔が

浮かんで

消えた













『ユイごめん、私、サンジくんを引き留められなかった』
ゾウでやっと再会できたと思ったら、ナミが私の身体をぎゅっと抱きしめたまま、泣きじゃくっている。

サンジは、ビッグマムの娘と結婚するために、私たちを置いて、一人行ってしまったらしい。

チョッパーやウソップが、私を励まそうと躍起になり
フランキーはいつもサンジがそうするように、私の頭をなでてくれた。

なんとなく、みんなが気まずい空気を出す中で

私は一人、自分の気持ちと葛藤する。

寂しい。

寂しいよ、サンジ。

置いて行かれて、寂しい。

でも、この寂しいは

「ユイ屋、ちょっと顔貸せ。」
「ちょ、っちょっと、ロー!」

ローが急に私を横抱きにし、地面を蹴る。
落ちないようにと、ローの首にしがみつく私の心臓は、バクバクと音を立てた。

「ここらでいいか。」

樹の太い枝に足を乗せると、ローは隣へそっと私を下ろした。
ゆっくりと、左手で幹を、右手でローの手を握りながら、枝の上に腰を下ろす。

高い場所にあるそこからは、海の向こうの方までが見渡せた。

「なんなの、こんなときに。」
「こんなときだからだ。」

樹の幹に背中を預けローの方へ身体を向ける。
ローも片足は下に垂らしたまま、もう一方の膝を立てて、こちらを向いて座っていた。

向き合ったまま、ローの言葉を待つ。

「おまえは今どう思ってる。」
「え?」
「あいつは他の女と結婚するために、お前を捨てた。」

誰も言わなかったストレートな言葉に、ぐっと詰まる。

「・・・・寂しい、よ。」
「それは置いて行かれたからか?」
「もちろ「あいつが他の女と結婚するからか?」

応えきる前に被せられた言葉。

「おまえが惚れてるのは俺だ。認めろ、ユイ」
「何を言って・・・!」

あぁ、苦しい。

サンジがいなくなってしまったことも。

ローの言葉を否定できないことも。

「・・・泣かせたいわけじゃない。」

悪かった、とローの手が俯く私の頭をなでる。

さっきフランキーになでられた時とは、違う。

やっぱり、違う。

ローは、他の人と
違うのだ。

「どうせおまえたちは黒足屋を迎えに行くんだろ。」

ルフィがサンジを諦めるわけがない。
ローの問いかけに無言で頷く。

「おまえも行け。自分の気持ちは、自分で確かめろ。」

引き寄せられた頭が、ローの胸へと押し当てられる。

そこから聞こえてくるローの心臓の音はなんだか早くて。

妙に私を安心させた。



















「おい黒足屋。そろそろこいつを解放しろ。」
「帰ってきて早々、第一声がそれかよ。」

和ノ国で、ローがサンジと向き合う。
サンジは怒るわけでもなく、困った笑顔で私の方を見た。

「ユイ、おまえが決めればいい。」
「サンジ・・・・」

ホールケーキアイランドからここへ向かう途中、過ごした時間はこれまでと変わらなかった。

サンジに突き放されたときは、悲しくて
戻ってきたときは、嬉しくて

大切な、人。

「ユイ」
サンジの手が頬に添えられて、顔が近づく。

サンジの向こうに、ローの姿が見えた。

「ごめ・・」

キスを受け入れられず、顔を背ける。

「知ってた。ほんとは違ェ、って。おまえも、俺も」
サンジの手が、頬から離れる。

この手の温かさについていけば、私はただ幸せだったのだ。
いつでも安心していられた。

ずっと、ずっと

大切だった。

「ただ大事な妹を取られるのは癪だった。それだけだ。」
「サンジ・・っ」

そうだね、サンジ。
私たち、好きの意味を間違えていたね。

本当に大切だった。
その気持ちは、嘘じゃない。

「できたんだろ、ほんとに好きな男。」

言葉にできないまま、ただ、頷く。

「ロー、てめェ絶対泣かすんじゃねェぞ!」
「少なくとも他の女と結婚するために置いていくことはない。」
「うるせェ!!」

サンジが、笑ってる。
いつもと、同じ笑顔で。

「ユイ、幸せになれよ。」
「うん・・・っ」

サンジが私の背中を押した。
そのまま、ローのもとへと走る。

「ロー、私・・・」
「とりあえず泣き止め。」

ローの親指が、涙を拭う。

反対の手が、そっと腰に添えられた。

ふぅ・・・と大きく息をして、整える。

「私、ローのこと、好きみたいです。」
「だからずっとそう言ってるだろ。」

ローの口元が不敵に笑う。

「ユイ、おまえが好きだ。」

言い終わると同時に、ローと私の影が重なった。


君とはばれなかった

糸の色



(赤色ではなく、きっと藍色でした。愛色でした)







***あとがき***

さよ様に捧げます。

内容:サンジと付き合ってるのにローに口説かれるお話

オチはどちらでも、ということでしたので最初はローさんにはフラれてもらおうと思ったのです。
なぜなら管理人、リアルだと略奪愛が好きでないので。笑

ただ、サンジも夢主も
本当は本当の好きじゃなかったとしたら・・?という考えが浮かびまして。
じゃぁ本当にお互いが幸せになるために、別れを選ぶのも有なのかもしれない、と。
(絶対最近アマゾンプライムで見てるバ●ェラーの影響w)

原作の流れは崩したくなかったので、駆け足感は否めないですが、気に入っていただければ幸いです。


2019.07.20

title:moss


- 39 -

戻る / TOP