しらばっくれに終止符



俺が想いを寄せるレディは、どうやら勘違いをしているらしい。

「ウソップ!作戦会議!」

今日もユイちゃんはウソップを引きずり、船の中へと消えていく。
向かう先は毎度ウソップファクトリー。

この作戦会議が始まった頃、ウソップと何を話しているのか気になって、悪いと思いながらもこっそり物陰で聞き耳を立てた。
そうしたら話題はまさかまさかの俺のこと。

『どうすればナミを好きなサンジくんを振り向かせられるか』

なんでそんな勘違いが始まったのかは知らねェ。

でも髪を伸ばしてみようか、とか
スタイルがよくなるように筋トレをしてみようか、とか

俺の為に頑張ろうとする姿が可愛くて

俺は何も知らないふりをすると決めた。





「さてさてユイくん。先日のマッサージ作戦はいかがだったかね!」

久々に作戦会議を覗く。
毎回ではないけれど、時々こうやって作戦会議を覗き見するのが、ちょっとした楽しみだったりする。
我ながら、ちょっと悪趣味だけれど。

「ウソップ隊長!サンジくんは鼻の下を伸ばしていたであります!」
「・・・そりゃいつも通りだな。」
「・・・はい・・・」

項垂れる二人に吹き出しそうになるのをこらえる。

そうか、あれは作戦だったのか。

一昨日の晩、洗い物中の会話を思い返す。

『サンジくん!このあいだ、肩こりひどいって言ってたでしょ?チョッパーにマッサージ教えてもらったの!』
『そりゃ嬉しいな。後でお願いしようかな』
『・・っうん!!任せて』

俺の何気ない一言をいつも覚えてくれているユイちゃん。
わざわざチョッパーにマッサージのやり方習ってきてくれたんだなー、なんて考えたら嬉しくて。

鼻の下が伸びていたのがいつも通り、なんて心外だ。

好きなレディが俺のためにマッサージしてくれりゃァ鼻の下だって伸びる。


「髪型はいいとして・・・体型には限界あるしなァ・・・。」
「ジロジロ見ないで」

ナミさんよりは凹凸の少ない身体を、ユイちゃんが隠す。

ウソップの野郎、マジでジロジロ見てんじゃねェ。
晩飯に毒でも盛ってやろうか、と一人画策する。

「これはもう最終手段だな・・・」
「最終手段?」

ウソップが神妙な面持ちで、声を潜める。
畜生。聞こえねェ。

「・・・そんなのでサンジくん落ちるかな?」
「それはお前次第だ。」

親指を立てるウソップに、ユイちゃんは不安気な顔を見せた。

「とりあえず酒は俺が用意しておいてやるから、今晩が勝負だ。」
「が、がんばる・・・。」

何かよく知らねェが、どうやら酒の力を借りるらしい。
ユイちゃんが酒飲んでるとこなんて、数回しか見たことねェけど・・・大丈夫か?

ユイちゃんの不安そうな顔に、俺まで不安な気持ちが沸き上がった。











「やっぱりな・・・」

目の前で机に突っ伏しているのは、俺の大好きなレディ。

「サンジ・・く・・」

むにゃむにゃと、寝言で俺の名前を呼ぶ姿にきゅんとする。

ウソップが美味しいお酒をくれたから一緒に飲もう!とユイちゃんがキッチンにやってきたのは1時間ほど前だったか。

少し緊張した表情で酒を飲みだしたユイちゃん。
俺にも同じペースで酒を進めていたが、途中からだんだんと目をトロンとさせだし、ついには『今日はお酒でサンジくんの本音を聞きだす作戦なの。それからお酒の力を使ったお色気作戦も兼ねてるの。』とネタばらしまでしてくれた。

頑張ってくれたところ申し訳ないが、そこまで俺は酒に弱くねェ。
案の定ユイちゃんが先につぶれてしまい、今に至る。

「サンジくーん・・・」
「はいはい?」

意識があるんだか、ないんだか。
机に突っ伏したままのユイちゃんへ、風邪を引かないように、と肩にブランケットをかける。

「・・・・きだよー・・」
「ん?」

小さくつぶやかれた声。
聞き取れなかった言葉を聞き取るため、ユイちゃんの口元へと耳を寄せる。

「ユイちゃん?今なんつった?」
「すきだよー・・て・・・」

素面のユイちゃんから聞くことの出来ない言葉が、耳に届く。
驚きはしないものの、急に発せられた告白の言葉に、頬が少し熱くなった。

「知ってるよ」

隣に腰かけ、ユイちゃんの頭をそっと撫でると、ユイちゃんがうっすらと目を開いた。
焦点はまだぼんやりしているから、きっとまだ酒がまわったままだろう。

「サンジくん、知ってるのー・・・?」
「うん、知ってる。」
「そっかぁ・・・・」

ゆっくりと、またユイちゃんの瞳が閉じる。
頭をなでているのがいいのか、ユイちゃんは気持ちよさそうに見える。

「俺も好きだよ」
「ほんと・・・?」
「うん、ほんと」
「うれしー・・・。」

またむにゃむにゃと言いながら、ユイちゃんは嬉しそうに口元を緩ませた。

可愛い。
可愛すぎる。

「素面のときに、また聞かせて。」
「う・・・ん」

いつになるか、わからないけれど。
明日の朝なら聞けるだろうか。

いっそ俺から言っちまうか?

この頑張ってくれてる可愛い姿を見られなくなるのは、ちょっと寂しい気もするけれど。

静かに寝息を立てるユイちゃんの寝顔を俺はいつまでも見つめていた。













翌朝、朝食の支度を開始する頃、キッチンのソファに寝かせたユイちゃんがもぞもぞと動きを見せた。

「あれ・・・・・?」

ここがどこだかわかっていないのだろう。
目をこすりながら、視線があちらこちらへと向いている。

さすがにもう酒は抜けてるだろうけど、コップに水を注ぎ、ユイちゃんのもとへと向かう。

「起こしちまった?」
「サ、サンジくん・・・!」

キッチンにいると気付いたのか、ユイちゃんが慌てて身体を起こした。

「はい、これ。」
「あ、ありがと」

水の入ったコップを受け取り、口に運ぶ。
ソファの脇にしゃがみ込んで見守っていると、ユイちゃんがそれに気づき、顔を赤くした。

どうやらじっと見られているのが恥ずかしかったらしい。

「あの・・えっと・・・私昨日・・」
「酔いつぶれちゃったから、しばらくしてからソファに運んだ。さすがに女部屋までは俺入れねェから。」
「そ・・っか」

ユイちゃんは何かを言いかけたが、そのまま口を閉ざすと手の中のコップへと視線を向けた。
コップを軽く回しながら、ユイちゃんが回る水をじっと見つめている。

時々何か言いたげなユイちゃんの視線がチラチラとこちらに向くのには気づいたけれど、俺はじっと言葉を待った。

「私、昨日何か・・変なこと言ったり、したり・・・してない?」
「変なことって?」
「・・!あ、えっと・・・!」

どこまで覚えているんだろう。
ユイちゃんは。

・・・どこまででもいい。

俺は素面の君から、好きの言葉が聞きたいんだ。

「えっと・・その・・・夢を見て・・・。」
「夢?」
「うん・・・。サンジくんが・・・その・・・」

あぁ、どうやら俺の言葉をなんとなく覚えているらしい。

「ユイちゃんを好きだって言った、夢?」
「・・!!夢、だよね・・・っ!ごめんね、変な夢・・っ」

真っ赤になったユイちゃんが、ぱたぱたと片手で顔を扇ぐ。
恥ずかしいのか、悲しいのか、今にも泣きそうだ。

「なんで夢だと思うの?」
「だって、そんなこと言うわけないから・・っ」
「なんで?」
「だって、サンジくんはナミが・・・っ」

あぁ、いじめすぎた。

ユイちゃんの瞳から、涙が一筋こぼれる。

頬に唇を寄せて涙を拭うと、ユイちゃんは目を見開いた。

「サンジく・・何して・・」
「俺、ナミさんのこと好きとか、一度も言った覚えはねェよ。」
「え?」

泣かせてごめん、もう知らないふりは終わりだ。
本当は君からの好きの言葉が聞きたかったけれど。

悲しませたかったわけじゃねェから。

「好きだよ、ユイちゃん」

目を見開いたまま微動だにしないユイちゃんを

優しく、壊さねェように抱き寄せる。

抱き寄せた身体は小さくて、でも熱くて

「好きだ。」

何が君を勘違いさせたかなんてわからねェけど


しらばっくれに止符


君が信じてくれるまで
俺は何度だって言うよ。











***あとがき***

リク内容:サンジがナミを好きだと勘違い
     ハッピーエンド

諦めてる主人公、というリクエストを他の方から頂いていたので、ひたすら諦めずに頑張ってる主人公にしてみました!

このあときっとウソップに報告にいくことでしょう。笑

「俺の作戦のおかげ」とか言ってサンジに蹴り飛ばされているかもしれません。笑

気に入っていただけていれば幸いです。


2019.08.11

title:まばたき



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