わたしの王子様っぽいひと



こんなことなら、付き合ってることを内緒にしたい、なんてそんなこと言うんじゃなかった。
2か月前の、自分を呪う。

「ナミすわぁぁぁん。」

目の前でナミに鼻の下を伸ばしたでれっでれの顔を向けるサンジ。
その姿を見たくなくて、私は背中を向けた。

「嬢ちゃんどうした。なんか元気ねェな。」
フランキーの手が私の頭をポンポンと叩く。
意外と人のことを見てるんだよね、この最年長者。
(ブルックを入れていいなら最年長者はブルックだけど)

絶賛ヤキモチ中です、なんてそんなこと言えないから、ばれないようにパッと表情を作る。

「そんなことないよ!おなかすいちゃっただけ!」
「そうか、じゃぁ早く買い出し済ませちまおう」
「うん!」

昨日到着したこの島は、いわゆるリゾート地で。
海軍もいない、海賊も滅多にこない、平和な島だった。

じゃぁ折角だから、海辺のバーベキュー場で楽しんじゃおう、とそんな提案が上がったのが今日の朝。

久しぶりの島だから、サンジとデートに行きたいな、なんて思っていた私の思惑は、誰にも知られることなく消えていった。

でも、仕方ない。
2か月前、サンジに付き合おうと言われたとき、皆には内緒にしたい、とお願いしたのは私だ。
だって、なんだか恥ずかしくて。

それに、船内恋愛なんて、ナミが嫌がりそうな、そんな気がして。

みんなに変な気を使わせるのも嫌だったし。

それにしても
「ロビンちゃん、俺が持つよ」
さっきから、サンジはナミの買い物に付き合い、ロビンの荷物を持ち、一体誰の彼氏だよ、とツッコミたい要素満載だ。

皆の見てる前で、そんなこと言えないんだけど。

「ユイ!!あれなんだ!?」
はしゃぐチョッパーが、私の手を引き走る。

連れていかれた火薬の匂いがするその店には、棒状のものや、紐状のもの、さらには筒状の何かが売られていた。
「なんだろう・・・?」

火薬の匂いがするし、ウソップならわかるだろうか。
「ウソップー」
「ウソップならあっち行っちまったぞ。」

あちこちに視線を向けても、ゾロの言う通りウソップの姿はない。
「ウソップなら知ってるかと思ったんだけど。」
「花火のことか?」
「花火?」

ゾロの言葉に首をかしげる。
「この店に売ってるもんだろ?なら花火だ。」
「ゾロ詳しいんだな!」
店に並んだ“花火”を手に取りながら、チョッパーがこちらを向く。

「昔やったことがあってな。」
「花火ってどうなるんだ!?」
「火ぃつけたら、そこの絵見たいに火花が散んだよ。」
「すげぇぇぇぇ!」

ゾロの言葉に、チョッパーがさらに目を輝かせる。
店頭に貼られた花火の絵は美しくて、実際に見てみたいな、って気持ちが沸き上がってくる。
絵の中では男女二人が寄り添って、楽しそうに花火を見つめていた。

その絵の二人に、自分とサンジを重ねる。
楽しいだろうな。
いいな。
私も、サンジとやりたい。

でも

財布を覗き込んでふぅ、とため息。

ナミに示された今日の予算では到底買えそうにない。

フランキーとゾロがもうちょっと飲み物を我慢してくれれば、買えたかもしれないのに・・・!
いや、それよりもルフィーの肉か!!

少し離れたところでフランキーの持っているビニール袋をにらみつける。

「どうしたんですが、ユイさん、そんなうらめしげな顔をして。」
「ブルックに言われたくなーい。」
「そんな、ひどい・・!!」

泣きまねをするブルックのアフロをわさわさしてから、バーベキュー場の受付へと足を進める。

「サンジくん、今日パエリアもあると嬉しいんだけど。」

後ろからかすかに届く、ナミの声。
サンジが返す言葉も、表情もなんとなく想像がついて、私は足を速めた。












「いい眺めですね」

水着になった美女二人を眺めるブルックの頭を叩き落す勢いで殴りつける。
塩対応を取ろうが、こうやって殴りつけようが、構わず私に絡んでくるブルックは、ドMに違いない。

「おまえほんと懲りねェな。」
火起こしを終えたウソップが隣に立つ。

「ユイさんのパンチには、愛がありますので」
「はいはい。」

もうほんと、ドMでしかないわ、この骨。
好きだけどね。ブルック。

「おまえはあっち行かなくていいのか?」

ウソップの指さす先には、食材が焼きあがったら呼ぶから、というサンジの言葉に甘え、海辺で好きな時間を過ごすみんなの姿。
ゾロはこんなときまで素振りをしているし、はしゃぎまくっているルフィは、そのまま海にでも飛び込みそうだ。
泳げないのに。
チョッパーとナミは買い忘れたものがあった、とかで、さっきまた市場の方へと戻っていった。

一方で、私はさっきからずっと調理場の近くにしゃがんで海を眺めているだけだ。

「ここでちょっとゆっくりしようかと思って。」

っていうのは嘘。
本当はずっと、サンジと二人になれる時間を待ってる。

「そうか。じゃぁ俺火起こしも完了したし、海入ってくる。」
「じゃぁ私も一緒に行ってきます。」
「うん、行ってらっしゃい。」

ウソップとブルックを見送る。
振り返ってサンジの方を見れば、ちょうどサンジも顔をあげたところだった。

待ちに待ったこのタイミング。
立ち上がって水着の上から腰に巻いた布についた砂を払う。

私が近づくと、サンジは嬉しそうに目を細めた。

「わざと残ってくれたの?」
「もちろん。」

だってこうでもしないと、今日一日、ずっと二人にはなれそうにないから。
皆と一緒にいるときのサンジだって好きだけれど、やっぱり二人の時間は特別。
たまには、そんな時間だって欲しい。

食べやすい大きさに野菜を切るサンジの隣に立つ。

「何か、手伝わせて。」
「だーめ。」

野菜を洗おうかとピーマンを握った手にサンジの手が重なる。

「どうせレディにそんなことさせられない、とかいうんでしょ?」

私の言葉に、サンジは小さく笑った。

「それもあるけど、ちょっと違うな。」
「違うの?」

頷いたサンジが、私の手の中からピーマンを奪った。
そのまま設置された流し台へと残された野菜たちを運んでいく。

特に何をするわけでもないけれど、私もその後を追った。

きっとみんなのいる向こう側からは、私は手伝っているように見えるんだろうな。
ちょっとした罪悪感。

野菜を洗うサンジの手元を、ただじっと見つめる。
そのまま待っていると、サンジの手が止まった。

「早く準備できちまったら、二人の時間がその分早く終わっちまうだろ?だから、手伝いはいらねェ」
「な・・・っ!」

ほんと、この人は私を喜ばせることを平気でサラッと言ってのける。
思わず力が抜けて、口元を抑えたままその場にずるずるとしゃがみ込んだ。

そんなこと言われたら、もう罪悪感とか言ってられない。
手伝いなんか、できるはずもない。
私だって、もっと二人でいたいんだから。

「ユイちゃん、その顔可愛すぎ。」

隣にしゃがんだサンジの手が私の頬に触れた。

「ははっ、すげェ真っ赤。」
「・・うるさい。」

なんだかもういろいろと悔しくて、咥えていたタバコを奪う。

「ユイちゃん?」
「もう、黙ってて。」

そのまま私から、サンジの唇に自分のそれを押し当てた。

恥ずかしいから、一瞬だけれど。

「はい、これ返す!」
「ぐ・・っ」

呆けた顔のサンジの口に奪ったタバコを再び差し込んだ。
こんな顔してるのゾロが見たら、なんて言われるか。

「・・味見してこようっと!」

恥ずかしさを誤魔化したくて、私は立ち上がり、火の方へと歩いた。
作りかけのパエリアに近づく。
海鮮のいい香り。

「まだ、ちょっと早ェよ。」
「いーの。」

蓋を開けると、サフランの香りがフワッと広がった。
あまりにも美味しそうすぎて、グー、とお腹の虫がなく。

「待てねェなら、こっちの方がいい。」

隅っこを取ろうとしたわたしを遮って、サンジが笑いながらスプーンをど真ん中に入れる。
そのまま目の前に差し出されたスプーンに口を付けた。

「どう?」
「美味しい」

サンジの料理は本当に何でも美味しい。
いくらでも食べられそうな気がする。
いつまでも、飽きることなんてない。

それはサンジが料理上手だから、てだけじゃなくて、きっと、好きな人の作ったものだから、なんだろうな。
サンジの料理を毎日食べられる私たちは、本当に幸せ者だ。
サンジを連れてきてくれたルフィに感謝しないと。

口の中に残った香りの余韻も楽しんでいると、ふとサンジの視線を感じた。

「何かついてる?」

お米でもついているのか、と慌てて口元を触る私の手を、サンジが止めた。

「いつまで見てても飽きねェな、と思って。」
「美人じゃないから?」

美人は3日で飽きる、て言うもんね。

「そうじゃなくて!」

俺にとってユイちゃんは、世界中の誰よりも可愛い、なんてそんな小っ恥ずかしい言葉が続く。

どうしてこの人はこんな恥ずかしいセリフをポンポン口に出せるのだろう。

まるでおとぎ話の王子様みたい。

ほんとの王子様は、お姫様以外に鼻の下伸ばしたりなんかしないだろうけど。

恥ずかしくなって黙り込む私の隣で、サンジは鼻歌を歌いながら食事の準備を進めていく。

「ユイちゃんは誰よりも美味そうに食ってくれる。」
「・・・美味しいもん」
「ありがとう」

ありがとうはこっちだよ。
いつも美味しいご飯ありがとう。

視線だけでそう伝える。
心の声でも聞こえてるのか、サンジはまた嬉しそうに笑った。














美味しいごはんと、ゾロの手配した美味しいお酒のせいで、おなかはパンパン。
いい感じに酔いもまわってきた。

「はー!食った食ったー!!」
「ルフィお腹すごいね」

いつもの何十倍にも膨らんだルフィのお腹をペちペちと叩く。

「針刺したら飛んでいくかな」
「あら楽しそうね。手伝うわ」
「ロビンが言うとリアルで怖ェよ」

青い顔をするウソップに、フランキーが笑う。

「あっという間に日が暮れましたね。」

ブルックが地平線に沈んでいく太陽を見つめる。
楽しい時間はあっという間で、今日もまた一日が終わっていく。
ちょっと切ない気持ちになったりして。

「じゃぁそろそろ始めるわよ!!」
「ナミ?」

始めるって何を??
みんなの顔を順々に眺めるけれど、どうやらわかっていないのは私だけらしい。

「ユイ、これ!」

チョッパーが私に手渡したのは、先ほどお店で見ていた”花火”。

「さっきナミと買いに行ってきたんだ。はい、ウソップも。」
「手持ち花火なんて久しぶりだぜ。」

チョッパーが、一人一人に花火を手渡していく。
みんなどことなく嬉しそうで、ちょっと子供に返ったような表情をしている。
意外にもロビンはいつも通りのクールな顔をしながらも、生やした腕でありったけの花火を握っていた。
好きなのか、それとも初めてなのか、それはわからないけれど。

「ウソップ!早く!火!」
「待てルフィ!危ねェから!!」

火を奪おうとするルフィ。
皆の配置を考慮しながら、火の準備をするウソップ。
わくわくした目で見つめるチョッパーに、ほほ笑んで見守るロビンとナミ。

興味ないのかと思えば、自分の1本は死守しているゾロ。
音楽を演奏しだすブルック。
合わせて歌う、フランキー。

離れたところから、皆を見守っている、大好きな人。

地平線の向こうに沈んだ夕日が、赤から紫の綺麗なグラデーションを作り出して、お酒の入った影響もあってか、だんだん目頭が熱くなってきた。

「ユイ、あんた何泣いてんのよ。」

ナミが私の頭を撫でながら笑う。

だって、なんだか
「幸せだなー、って」
「そう、ならいいけど。」

こんな大好きな人ばっかりの中にいて、毎日幸せでいいんだろうか。
ほろり、ほろりと涙がこぼれる。

だめだこりゃ。ただの酔っ払いだ。

「ちょっとサンジくん、なんとかユイ泣き止ませて。」
「だめよナミ。きっともっと泣いてしまうわ。」

ロビンの言う通りだ、とウソップまでもが頷く。

「サンジがユイ喜ばせたくてやったのに、なんでおまえ泣いてんだ?」
「サンジが?」
「ルフィ!おまえは黙ってろ!」

疑問符を浮かべるルフィをサンジが抑え込む。

「とりあえず、てめェの女の涙くらい、すぐに止めてやれ。」
「うるせぇクソマリモ。」

ばちばちと火花が飛ぶけれど、そんなことより、あれ?
どうして?

「なんでみんな、知って・・・」
「ばれてないと思ってる方が不思議だわ。」

ナミが呆れたようにため息をつく。

「付き合う前からみんな知ってたわよ。」

ロビンが可笑しそうに笑った。

「そうそう。今日だって、ほんとは二人の時間欲しかったでしょ。ほら!あんたたち!!」

高くつくわよ、とこちらにウインクしたナミがみんなの背中を押す。
私とサンジを残し、あっという間にみんなは砂浜の方へと駆けて行った。

外でエッチなことしちゃだめですよー、なんて骨の声が聞こえてきた気がするけど、それは無視することにする。

「あー・・・えっと・・・・」
「サンジはバレてること知ってた?」
「う・・ん、まぁ、なんとなく・・・」
「そう」

怒ってるとかじゃなくて

ただ、なんていうか

恥ずかしい。

バレてないと思っていた自分も。

バレバレなのに、サンジの前で平然としているフリをしていた自分も。

「みんなに、気を遣わせちゃったな」
「ユイちゃん・・・・」

間を詰めたサンジが、私の肩に手を回した。

「気を遣ってもらうのって、そんなに悪いこととは俺は思わねェ。ナミさんたちだって、自分たちが嫌になるくらいの気の遣い方はしねェさ。ほかのやつらも。今も、あいつらなんも気にしてねェよ。」
「たしかに」

いつも通りぎゃーぎゃー騒ぐルフィと、怒鳴りつけるゾロの声が聞こえる。
それに、サンジの言う通り、みんな”自分たちが嫌になるくらいの気の遣い方”はきっとしないだろう。
そんな気の遣い方をするくらいなら、きっと私たちに怒ってくれるだろうし、怒らなくても真っすぐに文句くらいは言ってくれるだろう。
そういう人たちだ。みんな。
そういう関係だ、私たちは。

気を遣わせたくない、だなんて
内緒にしている方が私たちの中ではよくないことだったかもしれない。

「花火、サンジがしようって言ってくれたの?」
「今日、店の前でじっと見てたから。したいのかなって思って、ナミさんに予算の相談したんだけど・・・違った?」
「違わない」

サンジの肩に、そっと頭を乗せる。
いつの間に、こちらを見ていてくれたのやら。
ずっとナミとロビンに夢中なのかと思ってたのに。

「私ね、サンジも大切だけど、みんなも大切なの。」
「うん。」
「だから、今は・・・」

二人でいたいのは本当。
恋人としての時間だって、確かに欲しい。

だけど、今日は
今、この瞬間は

「みんなではしゃぎたい!」
「奇遇だな。俺もだ。」

立ち上がったサンジが、私に向かって手を伸ばす。
サンジに手を引かれながら、私たちはみんなの方へと走った。


私の王子様っぽい人


みんなの笑い声が聞こえる。
隣には、あなたがいる。












***あとがき***

飯田様に捧げます。

リク内容:サンジ夢で麦わらの一味でリゾートに行った話

リゾート、ということだったのですが
ただのバーベキューと海の話になってしまってますね・・!!
申し訳ありません・・・!
ヤシの木のある海辺のバーベキュー場イメージではあるのですが・・・・!

とにかく夏のうちにこれは消化せねば・・!と思い仕上げました。
過去最長の割に甘要素は後半でなく、中盤という新しいパターンとなってしまっております。笑

最初は「最後に夜抜け出して、二人で花火」という展開を予定していたのですが・・・笑

気に入っていただければ幸いです。


2019.09.16

title:エナメル


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