あなたとおちるために手をつないだ



※世の中の倫理に反した内容になっています。
 そういったものはちょっと、という方はそっと画面を閉じてください。








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彼女の薬指に指輪があることは、最初から知っていた。

その時の俺は特別これといった感情もなく、あぁそうなんだ、と
事実として、それを受け止めた。



仕事上の関わりの中で、自然と弾む会話。

至って自然な流れで連絡先を交換して

ちょっとしたやり取りが、途切れることなく毎日続いた。








仕事中、今までは気にならなかった彼女の声が、際立って耳に届くようになったのは

喫煙所の帰りに、彼女が席にいるかを確認するようになったのは

いつからだっただろう。

耳が、目が

彼女を探している。







彼女に惹かれていることには、気づいていた。

でも、まだ指輪の存在は気になるものではなくて。

久々に訪れた胸の高鳴りを
ただ楽しむだけの日々だった。









そして、訪れた運命の日。

ふとしたきっかけで、休日に彼女と会うことになった。

初めて見る、オフの彼女。
普段とは違うその姿に、心が躍る。

自然とお酒のペースはあがっていった。





たまたまその日は花火大会の日で

花火会場からは遠いはずのその場所からも
欠けた花火が見えた。

コンビニで買ったお酒を片手に、二人 遠くの空を見やる。

欠けているのにその花火はやたらと綺麗で

花火を見上げる横顔が愛しくて

気づくと二人の間に距離はなかった。


思わず酒をぐいっと飲み干して

まわる、まわる

酒がまわる。


だめだ、と言い聞かせていた気持ちに

もう制御がかけられない。



終わった花火に動き出す人たち。

俺たちも移動しようか、と伸ばした手に
彼女の手が重なる。

掌に伝わる指輪の感触。

それでも、それすらも

もうどうだってよかった。



好きだ、好きだ、好きだ

心の中で叫ぶ。

絶対に
君に届いてはいけない気持ち。

この温もりを
離せる気なんて、もうしなくて

「手、まわして」

君の手が首の後ろにまわったのを確認して
俺は君を抱きしめた。












それからも
オフィスで行われる
秘密の視線のやり取り

それだけで胸が苦しくて


たまたますれ違った瞬間の
君のはにかんだ笑顔が可愛くて







愛してしまった。
愛してはいけない君のこと。



そうなっては
いけなかったのに。




愛してしまったから
だから
もう





さようなら





だって
君の人生を
俺が壊すわけにはいかないだろう?

君を悪者になんて、俺にはできない。

だから

「好きな人が、できたんだ」

君が好きです。
誰よりも、誰よりも。

「そうなんだ、教えてくれてありがとう」

ありがとうだなんて
まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった。

もしかしたら俺はどこかで期待していたのかもしれない。

引き止めてくれるのを

俺を選んでくれるのを




でもどこかで知っていた。

彼女が俺を選べないこと

選ばないこと。


彼女を悪者にしたくないから、なんて

そんなの嘘だ

ただ、つらかっただけ。

これ以上、君を好きになるのが怖かっただけ。

君はこんなにもあっさり俺から離れていくから。

背を向ける直前
一瞬陰った君の瞳にさえ
俺はまだ何かを期待しちまう。



なァ、ユイちゃん。

お願いだ。

俺は遠くから
見守っているだけでいい

隣を歩けなくていいから。



一つだけわがままを言えるなら

君を思い続けること
それだけは許して欲しい

俺に運命の人が現れる、その日まで。




そんな日は

来そうにねェけど。

君にとってはただの気まぐれだったかもしれない。

それでも俺にとっては










『今迄ありがとう。ずっと言えなかったけど、私』

届いたメッセージ。

通知画面に映る文字は途中までで。

「ずっと言えなかったけど、、なんだよ・・・・」

見たらきっともう戻れない。

ただ、スマホを握りしめる。


そのまま自分の肩をぎゅっと抱いて


一度だけ抱きしめた
ここにあったはずの
君の温もりの残像を探す。



あなたとおちるために

をつないだ


だけどやっぱり

君のことは堕とせない














***あとがき***

下書きしてたものを読み返して、ちょっと手を加えて勢いでUPしてみました。
このお話は受け入れられない方もいるかも、とは思いましたが
でも、やっぱりUPしたくて。


20.04.12

title:シュロ


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