食べちゃいたいくらい君が好き




今日は星が綺麗に見えるから散歩でもしようか
と誘われ、サンジくんと二人、海岸沿いを歩く。

「本当に綺麗だねー!!教えてくれてありがとう!!」

星空を仰ぎながら私がそういうと、サンジくんは嬉しそうにほほ笑んだ。

「空ばっかり見てると転んじまうよ?」
「大丈夫大丈夫。」

だって、隣にサンジくんがいてくれるから。

私はさっきからずうっと空を見上げたまま。
歩く先のかじ取りは、組んだ腕に導かれるままだ。

この腕について行けば、絶対に大丈夫だ、と
そう信じる気持ちは、ずっと変わらない。

サンジくんにもそれは伝わっているのだろう。
小さく笑ったまま、ゆっくりと私を導き続けた。

「今頃みんなはもう寝てるかな。」
「不寝番のチョッパー以外はそうだろうな。」

行ってらっしゃい、と送り出してくれた可愛いチョッパーの姿を思い出す。
きっと今頃チョッパーも、一人この空を見上げているのだろう。

キラリキラリと瞬く星。
波の音はただ静かに、私たちの耳へと届く。

「綺麗だな。」
「うん、そうだ、ね・・・?」

空を見上げているのかと思いきや、優しく目を細めるサンジくんと目が合った。

「こんなに素敵なレディが俺の恋人だなんて、幸せすぎて夢みたいだ。」
「そんなこと・・」

いつだって真っすぐな愛を紡いでくれるサンジくんの唇。
私ももっと素直に、想いを伝えられたらいいのに。

そんなことを考えながら見つめすぎたのだろう、サンジくんがふっと意地悪な顔を作った。

「どうしたの?キスでもしたくなった?」
「・・・っ!!」

恥ずかしくなって、慌てて顔を背ける。

「あれ?ユイちゃんはしたくないんだ?」

笑いながら”かなしいなァ”なんていうサンジくんから腕をほどき、一人急ぎ足で前へと進んだ。

したくないわけじゃない。
そうじゃないけど。

いつまでたっても恥ずかしさは消えてくれなくて、自分からねだるなんてそんなことできるわけもない。

私のそんな気持ちを大事にしてくれるサンジくんは、無理にキスから先に進むことはなかった。
”ユイちゃんの気持ちが追いつくまで待ってるから”と。

キッチンのソファーの上で寝そべりながら、ただ私を抱きしめながらそう言ったサンジくんの表情は色気に溢れていて、思わず”先に進みたい”という言葉が喉まで出かかった。
そのときはサンジくんへの愛しさで胸がいっぱいになってしまって、結局、言えなかったのだけれど。

だから
誰にも邪魔されねェ空間を作りたい
とフランキーに頼んでキッチンに鍵までつけてくれたのに、それはいまだに活用されきれずにいる。

「ユイちゃん、」

とにかくこの火照った顔を鎮めなければ。
思い出してしまったあの時のサンジくんの表情をかき消すように、ザクザクと砂浜に足を押し付けながら進み続ける。

「ユイちゃん!」
「へ?あ・・っ」

サンジくんが急に声を荒げるから何事かと思ったら、ちゃんと前を見られていなかった私は突然現れた砂地のくぼみに足をすくわれた。
そのまま、砂が近づいてくる。
あぁ、違う、私が近づいてるんだ。

転んでしまう、と身構えた私の身体は、砂に着く前に宙に浮いた。

「危ねェな」

サンジくんの腕が私を支える。
腕から離れていても、やっぱりサンジくんは私を守りに来てくれた。

好き、大好き

気持ちはこんなに溢れてくるのに、言葉にするのはなんでこんなに難しいのだろう。

「ありがと、ごめんね?」

サンジくんの腕につかまりながら、顔を見上げると、サンジくんはそっとキスをおとした。

「サンジくん・・・」

離れていく唇が恋しくて、名前を呼ぶ。

好きだよ、サンジくん。
本当はずっと触れていたいし、キスだってしたいと思ってる。

でも、それを口に出すことは、なかなか私にはまだ難しくて。

そのままじっと見つめていると、サンジくんは小さくため息をついた。

「ダメだよユイちゃん。」
「?」
「そんな顔、他の野郎に見せたりしちゃ」
「そんな顔って・・・んっ、ちょっ、と、サンジく」

強く抱きしめられたまま、また唇が重なる。
さっきの触れるだけのキスとは違う、深い、キス。

息が苦しくて無意識に空気を求めて逃げようとするのだけれど、サンジくんの右手がそれを許さない。
さらに隙間を埋めるかのように、後頭部を掴んだまま、引き寄せられた。

「サン、ジく・・ぁ・・っ」

だんだんと膝に力が入らなくなって、崩れ落ちそうになるけれど、サンジくんは私の身体ごと引き上げてしまった。

「ユイちゃん・・・」
「はぁっ・・ん、・・どうしたの・・?」

やっと離され、息を整えながら尋ねる。

「大事にしたいからさ、あんまり煽んないで・・・。」
「そ、そんなこと・・・!煽ってなんか」
「それ、その顔」

だめ、と言いながらまたサンジくんの唇が重なった。

今度はすぐに離されて、額と額がコツンと合わされる。

そのままサンジくんは
はぁーー、と大きく息を吐いた。

「・・・どうしたの?」

変だ、今日のサンジくんは

「このまま食っちまいてェ」
「食・・っ」

その言葉の指す意味はどこまでだろうか。
そのままの意味?それともその先?

「ユイちゃん知ってる?キスには、”食べちゃいたいくらい君が好き”って意味があること。」

それくらい好きだよ
とサンジくんが続ける。

嬉しくて、でも恥ずかしくて
「美味しくない・・かもよ・・?」
そんな言葉しか返せない。

一瞬きょとん、としたサンジくんはすぐに声をたてて笑い始めた。

「ははっ、どんな心配してるの。」

可笑しそうに、サンジくんが笑う。
つられて、私も。

ひとしきり笑い終えると、サンジくんはそっと私を抱き寄せた。

「どんな料理も、きっとユイちゃんには叶わない」

優しく抱きしめられて、耳元でささやかれた言葉。

応えたい。サンジくんの真っすぐな気持ちに。
恥ずかしさと、応えたい気持ちとのはざまで揺れる。

「じゃぁ最後まで残さず召し上が、れ・・・?」

届いたかもわからないくらい、小さな声。

でも、ちゃんとサンジくんには聞こえたのだろう。
私を包んでいた身体が、一瞬で熱くなって、嬉しそうな笑い声とともに、私の身体は宙に浮いた。

「無理、してねェ?」
「うん」

お姫様抱っこの体制で、ゆっくりとサンジくんは船に向かって歩き出す。

「サンジくんなら、いいよ」
「待って待って、まだだめだ。このままここでしたくなっちまう。」

苦笑するサンジくんの首元に、熱くなった頬を寄せた。

「さすがに外はいやだな」
「わかってる」

心なしか、サンジくんの歩くスピードがあがったような気がした。


食べちゃいたいくらい

君が


そんなのずっと前から、私だって同じ気持ち










***あとがき***

さよ様に捧げます。

リク内容:サンジくんはキスがお上手

このままいくと裏突入なので、強制終了しました。笑
リク内容のわりにキス少なかったですかね?
もうちょっといれてもよかったでしょうか・・・

とりあえずその気になっちゃった夢主と、それを知らず夢主の為に我慢してるサンジくんが書きたくて・・・・!!

気に入っていただければ幸いです。


2019.11.24






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