20-2:唇が離れるたびに切なくなる


-Sanji Side-

出会う前から、君のことが好きでした。




「ほんと、ユイは可愛いのよ。」
中学・高校が一緒だったナミさんが
今日も”ユイちゃん”の話を始めた。

ナミさんの話に”ユイちゃん”が登場しだしたのは
会社に勤めるようになって、2週間ほど経った頃。
新人歓迎会で酔いつぶれてしまった”ユイちゃん”を
たまたま近くに住んでいたナミさんが
泊めてあげたのが始まりだった。

「私とは全く性格違うんだけど
 なんか気があっちゃってね。」

高校のときはノジコとよくつるんでいたが
ノジコとはまた違った魅力が
彼女にはあるらしい。

今日はユイがあんなことをいった
こんなことをした

と週に何度も聞かされること、3か月。

いつの間にか、会ったことがあるような気にすらなっていた。

そろそろ顔が見てみたくなって
「その”ユイちゃん”も、店に連れてきてくれよ。」

そうナミさんにお願いしたものの
「あの子はラブラブの彼氏がいるから
 サンジくんのところには連れてこれないわよ」
と写真だけを見せられた。

「へェ、ほんとに可愛いんだな。」
「でしょっ」

ナミさんと2ショットでうつる”ユイちゃん”は
言ってしまえばドストライクで
顔を見てさらに会いたくなったのだけれど

彼氏がいるんじゃ、仕方ねェか


そのときは渋々諦めたのだ。




それから数か月が経って
”ユイちゃん”が彼氏と別れたらしい、との朗報が入った。

レディが悲しんでるのに
朗報、なんて最低ではあるけれど
嬉しかったのが正直な気持ちだ。

「ナミさん頼む!!
 次の彼氏ができる前に、なんとか会わせてほしい!!」

頼みに頼みに頼みまくって

「連れてきた日の飲食代
 全部サンジくんの奢りならいいわよ。」

酒豪の言葉にギクリとしながらも
それでユイちゃんに会えるなら、と
なんとか約束を取り付けた。







そして、ついにきたその日。

「かっ…こいい…」
「は?」

いや、ナミさん「は?」はひどくねェ?

そんなことより
やっと会えた念願のユイちゃんは
写真の何十倍も可愛くて
思わぬ言葉に思わずいつもの持病”メロリン”が出そうになる。

それをなんとか「ありがとう」の言葉で答えると
いつもとは違う俺の様子に
さすがのナミさんも一瞬呆けた顔をした。

「よかったじゃない!サンジくん!
 ユイのタイプみたいだし、あんたたち付き合っちゃいなさいよ」
「お、いいね。」

ナミさんの言葉に、思わず乗っかってみる。

とまァそんなうまくいくわけねェよな。

ごめん、冗談です
そう続けようとした俺の言葉は
「よ、よろしくお願いします」
というまさかの言葉に遮られた。

え、本気で!?
本当に本当に本当に!?

鼻息が荒くなりかけた俺の背中を
ナミさんが軽くつねる。

痛ェわ!!

口パクでそう叫ぶと、ナミさんは笑った。





うちに帰ってからも
そわそわと落ち着かなくて
「なんか一言くらい、送った方がいいよな・・・」

考えに考えた結果
「これからよろしくね。」
その一言を送ることしかできなかった。

なんだこれ。
中学生かよ。





最初のデートは
手をつなぐべきかいなか
それで頭がいっぱいで
魚のことは覚えてねェ。


2回目のデートでドキドキしながらも手をつないで
ディナーのあとにいい雰囲気になったから
これはいけるんじゃねェかとキスをしたら

ユイちゃんは赤くなってうつむいた。




ナミさんの言っていた通り
ユイちゃんは本当に可愛くて
いい子で

他の子を好きになってくれてありがとう!!と
元カレに感謝の気持ちすら覚える。



そのまま1ヵ月が過ぎた。



『ユイとうまくいってるみたいじゃない』
ナミさんから届いたメッセージ。

携帯を見つめながら
自問自答する。

うまくいっているんだろうか、本当に。

心のどこかで、不安があった。
ユイちゃんは俺のことをどう思っているんだろう、と。


好きになって、くれたのだろうか、と。



直接聞く勇気もないまま
時間だけが過ぎていく。



直接聞く勇気はないくせに
一度気になりだすと、止まらなくて

「サンジさん、ちょっと聞いてくださいよー」
仕事中、接客をしながら
ユイちゃんがこちらを見ていることを確認する。

ユイちゃん、ちょっとは妬いてくれるかい?

他の子なんか見ないで、って
好きだ、って。



「そりゃァ大変だったなァ」
そう言って客の女の子の頭をなでながらも
俺の意識は完全にユイちゃんの方を向いていた。








閉店作業をなんとか終わらせ
ユイちゃんのもとへといそぐ。

「待たせてごめんね、ユイちゃん。帰ろっか。」

ユイちゃんはどう思っただろうか、と
少し緊張しながら、家への道を進んだ。



ふとポケットで携帯のバイブが鳴った。

ナミさんからの、メッセージ。

『ちゃんと言わないと
 あとで後悔することになっても知らないんだからね。』

ちゃんと言わないと・・・か。


「ユイちゃん」
「ん・・」

ユイちゃんの手を引き
腕の中におさめると俺はユイちゃんに唇を重ねた。

「サンジく・・どうし・・んっ・・」

ちょっと苦しそうにする姿すら
可愛い。

好きだ好きだ好きだ、ユイちゃん。



「ユイちゃん、なに考えてるの」

少しだけ、唇を離して、ユイちゃんの言葉を待つ。

「さっきの子のこと・・・」
「あの子がどうかした?」

思わず肩が震えたのはバレちまっただろうか。

どう思った?
ちょっとは妬いてくれた?

「ううん、やっぱりいい。」
「何がいいの?ちゃんと言ってくれよ」

好きだ、って
言ってくれよ。


それだけを願っているのに
「私・・大勢の中の一人でも・・いいから。」
「・・んで・・っ」

なんで・・・
違う、そうじゃねェ

「・・ん・・ふぁ・・っ」

好きになってほしくて
ちゃんと俺のものになってほしくて

噛みつくようにユイちゃんにキスをした。

息をするために、唇を離すのすら惜しい。

もっと、もっと
と、ユイちゃんを求める。




「ユイ・・ちゃん?」

ふと、背中にユイちゃんの腕を感じ
顔が見えるまで、少しだけ
距離をつくった。

そのまま顔を覗き込む。



不安なのは俺のはずなのに

「なんでそんな顔をしてるの?」

ユイちゃんの方が、不安そうな顔をしていた。

「だって・・・!」
「だって・・・?」

ユイちゃんが下を向いてしまい
また顔が見えない。

「不安・・に、なる。」
「え?」

ユイちゃんが?

「ユイちゃん、顔、あげて。」

頬に触れると
涙が伝っているのがわかった。

「サンジくんは、優しいから・・・」

顔を伏せたまま、ユイちゃんが続ける。

「好きなのは・・私だけだから。」
「・・っ!ユイちゃん、ごめん!」
「謝らないで。いいの。
 サンジくんの一番近くにいられれば今は、それで」
「そうじゃなくて!!」

ほんと、俺最低だ。

不安がってばっかりで
自分の気持ち、伝えてねェままで。

ユイちゃんの気持ちに気づいてなかった。


ユイちゃんの頬を両手でつかむと
今度はあっけなく、ユイちゃんは顔をあげた。

涙にぬれた瞳と、視線が合う。
 

「ユイちゃん、俺はユイちゃんが好きだ。」

ユイちゃんの目が、見開かれる。

「ナミさんに店に連れてきてもらう前から
 話に聞くだけのユイちゃんが、ずっと気になってた。
 写真を見せてもらって
 会ったら絶ってェ好きになると思った。
 会ったら、やっぱりそうだった!」
「うそ・・・」
「ほんと」

ユイちゃんの瞳から、また涙があふれた。

「私たち、勝手に不安になって
 バカみたい。」

そのまま、ユイちゃんは笑った。

「そうだな。」

もっとちゃんと
最初から伝えとくべきだった。

俺も、一人で悩んでいた自分に笑えてくる。

「これからは、ちゃんと伝えるから。」
「うん。私も」


「「大き」だ」


重なった声に
俺たちは、また笑った。






***あとがき***

なんとか同日中?(ぎり)で後編までいけた!!泣

支離滅裂ですかね。すみません。

両思いと気づいてない
自分の気持ちでいっぱいいっぱいになってた二人のお話でした。

(サンジがサンジじゃなくなってるような気がする・・・。)


2019.04.17

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