PRANKSTER

 朝の展望室に差し込む日差しは目覚ましにちょうどいい。
 まだ気怠い体でどうにか起き上がって、くあ、と大きな欠伸をひとつ。胡座をかいたままで両腕を上に伸ばす。固まっていた筋肉がほぐれていくのが心地よいこと。
「……気持ちよさそーに寝やがって」
 隣で眠っている呑気なマリモ、——ゾロは少々足蹴にしたところで起きやしない。それをいいことにサンジは、寝ながらも自分を掴んでこようとする腕や足を遠慮なく払い除けた。
「おれは忙しいんだよ。てめェはメシが出来るまで大人しくしてろ」
 散乱した服を集めて身につけて、最後に煙草に火を点ければすっかり頭が冴えてくる。
「じゃあな」
 また二人でいられる夜まで、なんてことは口に出さずに立ち上がる。そのまま梯子を降りて行こうとして、小さな痛みが走った。
 それは、好き勝手穿たれたアヌスでも、執拗に扱かれたペニスでもない。夜の情事の匂いが仄かに残るシャツの下。乳首である。
「…………こんのクソマリモ」
 コイツ、やりやがったな。
 釦を外して確認すれば、加減なく噛んだのであろう歯形が胸の辺りに集中していた。腹が立つことにゾロの歯は乳輪だけでなく乳首まで齧っていて、じんわりと血が滲んでいる。これはじくじくといつまでも痛むような傷だ。最悪だ、と肩を落とす。
「しばらく“待て”だな、こりゃあ」
 異を唱えるように「んご」と間抜けな鼾が聞こえてきたがサンジは耳を塞ぐ。朝食が終わるまでにお預け期間を決めて、ついでに今日一番の蹴りも決めてやろうと心に決めた。



▪︎



「——絆創膏? 指でも切ったのか、サンジ」
「あぁいや、そうじゃないんだチョッパー」
 嵐のような朝食が終わり、宣言どおり華麗なる蹴りをお寝坊マリモに決めた後でサンジは医務室に顔を出す。なんだよ噛んだくらいで切れやがって、さっさと治せ、などと曰うゾロとは違い、チョッパーは純粋に心配をしてくれる。その純粋さに涙が出そうだ。あとで綿飴の差し入れをしようと頭の中のメモに書き加えて、サンジは自身の足先を指差した。
「ちょっと爪切りサボってたらこの前の戦闘で割れちまって」
「化膿してたら大変だから診るよ。そこに座って、靴と靴下を脱いで」
「化膿はしてない! してないから絆創膏だけくれりゃあいい。本当に先がちょっと割れただけだからさ」
「本当か?」
「本当! 絶対に本当」
 風呂の後でもねぇし気が引けるよ、と続ければ折れてくれた。
「おれは気にしないぞ」
「おれが気にするんだって」
 引き出しを開けて絆創膏を一枚取る。サンジはすかさず「一気に何枚か貼るから多めにほしい」と強請った。じと、と視線が強くなる。
「本当に化膿してないか……?」
「してない! してない!」
「信じるからな」
「何回も貰いにくるのが面倒なだけだって! 使わなかったら返すし」
「返してくれなくてもいいけど、……そうだ、こっちの軟膏も渡しておくよ。気休め程度だけど抗炎症剤が入ってるから」
「ありがとよ、ドクター」
 軟膏が入った小さな容器と絆創膏を十枚受け取った。
 医務室を出て、誰もいない男部屋でサンジはさっそくシャツの釦を外す。朝見た時よりも傷口が赤く、痛みが強くなっていた。やっぱりシャツで擦れるのが良くなかったのだろう。
「くっそー、能天気マリモめ。文句言ったらさっさと治せとか好き勝手言いやがって。てめェのせいだろうが!」
 一言くらい心配してくれても、——……そもそもあの男のせいなのだから謝ってくれてもいいくらいだ。いててて、と顔を顰めながら乳首とその周辺に軟膏を塗る。気休め程度のものでも軟膏をくれて助かった。これで治りが早くなるだろう。
 軟膏を塗り終わったらシャツで擦れないように絆創膏を二枚左右に貼って、シャツの釦を止め直せば完成。時折涼しい風が吹くこの海域ではジャケットは必須だし、海水浴をする予定もないので絆創膏は誰にもバレないはず。
「……ちょっと情けねぇけどなー……」
 レディの前で決まらない。それもこれもあの男のせいである。
 頭の中でもう一発蹴りを入れてから自分のボンクの上に絆創膏と軟膏を置いて部屋を出た。そろそろうちの船長が腹減ったと飛び付いてくる時間である。
 さぁ今日の昼は何を作ろうか。



 絆創膏を貼っているだけでストレスが全部解消された気分だ。汗をかくと剥がれそうになるのが難点だが、予備を貰っているので定期的に張り替えてやればいい。朝から張りっぱなしだった絆創膏を、夕方には一旦剥がして新しいものに交換する。軟膏のおかげか赤みも落ち着いて、そこまで痛くはない。これだと明日か明後日には治るだろう。
「……」
 ゾロには一週間の禁止令を出している。
 だが、
(早く治ったら、……まぁ、あれだ、許してやらなくもない)
 そうやって思い直してしまうくらいにはゾロとのセックスは気持ちがいい。
 昼夜問わずに甲板で鉄の塊を振り回している手は、存外優しく肌に触れてくる。自分よりも体温が高い厚みのある手に撫でられると、あんなにも力が抜けるものなのかと最初はとても驚いた。そして、力が抜けていく体にゾロは満足気に笑うのだ。
(腹立つことに顔はイイんだよなぁ、アイツ)
 全ての他人から受け入れられるかどうかは置いておいて、サンジの中では「イイ」に分類されている。それもかなり上位である。満足気な顔は、仲間に見せる顔でも、戦いの中で見せる顔でもなくて。自分だけが知っているあの顔を、下から見上げるのは特別感があって気に入っている。
 自分が受け入れる側になったのはその場の話の流れだったが、今更逆転しようと言われても素直にうんと言えそうにない。それくらいゾロに絆されている。何度も達して訳がわからなくなってしまった頭の中で、あぁちくしょう好きだコノヤロウ、と叫んではキスしてしまうくらいには。
 ジャケットを羽織り直して甲板に出れば、すぐにナミに声をかけられた。
「サンジくーん、ロビンと私の分の紅茶貰ってもいい? おしゃべりしてたら喉乾いちゃった」
「はーい、よろこんで!」
 今日も麗しいナミのオレンジの髪が潮風に靡き、夕焼けを受けて眩いほどに光った。それがどれだけ美しいか、紅茶を持っていったときに話そうと考えていたら反対側から声を掛けられて振り返る。
 目と鼻の先に、青白く輝く魚が一匹。そしてその尾を握るのは得意気な顔をしたゾロである。
「釣った」
 ふん、と鼻息が荒い。
「ルフィやウソップより、おれのが一番デカかったぞ」
 心なしか頬が紅潮していて、大振りで凶悪な顔をした魚とかなりの時間格闘したのだろうとわかった。
 それ以上の言葉がなくても「どうだ。すごいだろう」と聞こえてくるようでサンジは思わず自分の顔を隠すように両手で覆う。何やってんだとゾロが首を傾げているがサンジはそれどころではない。
「おい、コック」
 じわじわと耳が熱くなって、むずむずと口元が緩む。こんな単純に掴まれてしまった心臓が喧しいほどの音を立てて、ちょっとでも気を抜けば飛びついて頭を遠慮なく撫でていた。
(クソッタレ)
 これはあれか。釣れた魚が一番デカかったからと見せにきたのか。生簀に放り込んでおけばいいものを。わざわざ。自分のところまで。そうまでして反応が見たかったのか、誉めて欲しかったのか、それとも怒られたことへの謝罪なのか。サンジの中ではどれが理由でもいいし、どれも理由じゃなくてもいい。ゾロが今ここにいるだけで胸がいっぱいだから。
「聞いてんのか、クソコック。ちゃんと見ろ」
 煙草を吸っていなくてよかった。きっと落として勿体無いことになっていたに違いない。
 すう、と大きく息を吸って声が上擦らないように注意を払う。
「……刺身、追加してやる」
「よし」
 指の隙間から表情を窺えば、ゾロは珍しく表情筋を大いに動かして大層ご機嫌に笑っていた。
(おれも末期だなァ……)

 大好きなレディの麗しい髪の輝きよりも、こっちの笑顔のほうが心に深く刺さるのだから。



▪︎



 ——あれ? と一番最初に思ったのはお風呂場だ。
 身体中につけられた歯型とキスマークを他のクルーに見せるわけにはいかないと、今日という日が終わってから入ったお風呂。予想通り乳首に泡がつくと滲みて、サンジは静かに唸り声をあげる。この時ばかりは魚の件を差し引いても、ゾロに対して恨み節しかない。
 けれど、唸るくらいに泡が滲みるのに、お湯で流した後はなんだがムズムズしているのだ。触りたいような、引っ掻きたいような、痒いような、痛いような。よくわからない感覚がそこに残っている。右も左も同じだ。
 まさか本当に化膿するんじゃねぇだろうな、と不安になっていろんな角度から確認してみたが膿んでいる様子はない。
(化膿してねぇならいっか)
 きっと傷が治りかけている痒みなのだろうと放っておくことにした。
 ——だが、その判断を後悔するのは次の日の昼間である。
 眠る前に絆創膏を貼り直して、朝起きたらもう一度貼り直そうと思っていたのに寝惚けたルフィに「食いもんの匂いがする」と絡みつかれて出遅れたせいで昼まで放置することになってしまったのだ。
 サンジは誰もいない男部屋に慌てて駆け込んでシャツの釦を外した。
 そして、
「ヒ、ィ……っ!?」
 べりっと右側の絆創膏を剥がした瞬間に、昨日感じた痒みのような違和感が牙を剥く。
 一瞬で腰が砕けそうになるほど、ゾクゾクと腰と背中が震えて上擦った声が出た。慌てて目の前のボンクを掴んで倒れずにはいられたものの、頭の中はパニックである。
(な、なん、なんだよ、いまの……!)
 まさか、と嫌な予感をそのままに左側の絆創膏に手を伸ばす。今度はゆっくりと、体が驚かないように慎重に。けれど、べり、と少し剥がれただけで「んんっ」と声が出た。
 その瞬間に確信した。これは痒みでも痛みでもない、——ただの快感である。
(なんで、おれ、絆創膏外してるだけじゃねぇかよッ!)
 歯を食いしばって残りの絆創膏も外した。長く放置していたせいでしっかり皮膚にくっついていて、僅かに皮膚が持ち上がり、乳首に振動がいくのが堪らなく気持ちいい。
 剥がし終えたことに安堵して、へなへなと力なく座り込む。触ってもいないペニスはやんわりと力を持っていて、腹の底から深呼吸をひとつ。
(おちつけ、おちつけ)
 こんな真っ昼間から男部屋で自慰などしたくない。出来るだけ他所ごとを考えて、落ち着いたところで目を開けて乳首を見てみる。
(……あれ?)
 右目を擦ってもう一度。
(おれの乳首って、こんなだっけ……?)
 
 ぷっくり膨れて、淡く色づいて、——こんなエロい形してたっけ……?



 気付いてしまってからは地獄である。
 ずっと絆創膏を貼っていたから蒸れてしまったのかとサンジは絆創膏を貼るのをやめた。その代わり軟膏は多めに塗ったのだが、この行為がまた苦痛だった。触るとあり得ないほどに気持ちがいいのだ。傷を治すためと割り切っても耐えられなくて途中で何度も断念しそうになった。
 完全に勃起してしまったペニスを慰めたかったが誰がくるかわからない男部屋である。やっぱり自慰は出来ないと必死に料理のことだけを考えた。長い時間はかかったが、大人しくなった股座を見てサンジはホッと息を吐いた。
 けれど地獄は終わらない。寧ろここからが本番だった。
 絆創膏に守られていない無防備な乳首はぷっくりと膨れているせいで想像以上にシャツに擦れる。それが不意に気持ちいいところにヒットして何度も嬌声を上げそうになった。特にルフィに飛びつかれた時と、ナミとロビンに恭しくお辞儀をするときに気持ちよくなってしまったのは本当に泣きそうになったくらいだ。
 だから。
「おい」
 ようやっと皿洗いが終わった瞬間にゾロに声を掛けられて、思わず足が出た。
「ッ、元はと言えばてめェが……!」
「なんだよ、いきなり!」
 濡れた手を拭く余裕もなく流れるような足技を気が済むまで繰り出していく。ギリギリのところで全て躱されて、受け止められているのが余計に腹が立って、キッチンやテーブルを壊さないようにだけ気をつけて重みを増していく。
「てめェがあんな……! だからおれは、おれはっ!」
「なんの話をしてんだ! おれはてめェの様子がおかしかったから、」
「おっ、おっ、おかしくねぇ! おれは何も、別に、これっぽっちも……!」
「顔赤いぞ」
「うるせぇぇえ!」
 ゾロからすれば、本当に気になって声を掛けてきただけなのだろう。いつもならばすぐに抜かれる刀は鞘の中で大人しいままだ。しかしサンジからすればそれも腹立たしい。この男が乳首なんて噛んできたから傷になって、軟膏と絆創膏で対処しなくちゃいけなくなって、その結果が今である。
 衝動に任せてゾロの足を払い、バランスを崩したところに追い打ちをかけるように振り上げた足を真下に下ろした。仰向けに床に倒れたゾロの左耳のすぐ真横で自分の黒い革靴が光る。それなりの衝動と音がしたはずなのに、ゾロは眉ひとつ動かさない。
「気が済んだか?」
「済むか! ふざけんじゃねェぞ、クソ剣士」
 声を低くして怒鳴ったところでやはりゾロには効き目がない。
 暫く一方的にサンジがゾロを睨みつけたままで、ゾロはただジッと待っていた。余計なことは言わず、無駄な慰めはせず、見守るような穏やかな視線に段々と居心地が悪くなって。舌打ちとともに降参したのはサンジだった。
「なに怒ってんだ」
「うるせ。藻、アホ、マリモ、腹巻」
「よし、ちょっと機嫌が直ったな」
「てめェがそう感じる基準がわかんねェよ、バァカ」
 寝転がったままのゾロの腹の上に容赦なく座り込んだ。勢いをつけて座ってやったので「うっ」と苦しそうに唸っている。崩れた表情にやっと溜飲が下がった気分だ。
 ハァ、とわざとらしく溜息をついて、まだしっとりと濡れている手をゾロの白いシャツで拭いた。
「おい、こら」
「これぐらい許せってんだ」
 乾いた手でジャケットを脱ぐ。畳もうか悩んで、どうせすぐに着るからいいかと乱雑に落とした。次いでネクタイも同じように落として、シャツの釦に手を掛ける。二つ三つ外しただけでは分からないか、と臍あたりまでの釦を全部外した。
「よく見ろ、クソマリモ」
 そしておれに誠心誠意謝れ。
 自分のやったことの重大性が嫌でも分かるようにと、サンジはゾロの顔の両側に手をついて背を逸らして胸を張り出す。
「てめェが容赦なくガブガブ噛むからこうなんだよ」
 分かるか? と言い聞かせるように言葉を重ねる。
「血が出るわ、傷になるわ、軟膏塗って絆創膏貼りゃあ何故か悪化するわ、痛ぇわ、痒いわ。なのにさっさと治せとか簡単に言いやがる」
 本当に最悪だったのだと切々と訴える。訴えた上で現物を見れば今度こそ素直に謝るだろう。ごめんなさい、もうしません、と言ってくれればこっちだって許してやらなくもない。
 だが、下にいるゾロは一言も発しない。
「おいマリモ、てめェ聞いてんのか」
 眉を寄せてゾロの反応を見ようと上体を起こそうとして、——しかしそれより先にゾロの手が背中に伸びた。
 そして。
「ヒッ……!」
 肉厚で、ザラついた舌がサンジの乳首を舐めたのだ。
「っ、な、なに、やって……!」
 尾骶骨から頭の先まで電流のような快楽が走ってサンジは慌てた。距離を取ろうと体を動かすもゾロの手はそれを見越したように完全にホールドしている。右手で肩を掴んで押し返そうにも容赦なく吸いつかれて「ひうぅっ」と情けない声が出る。
「ぃ、あっ、あぁっ、ゾロ……!」
 ぢゅうう、とはしたない音を立てて吸われると全身の力が抜けていく。
「ひぃ、あぁっ、あっ! だめ、いやだ、吸うな、ってぇ……ッ」
 床に転がっていたはずのゾロの体が腹筋だけで起き上がった。逃げようと反り返るサンジの体を両腕でしっかり確保して、ぷっくりと膨れた乳首を丹念に愛でていく。真っ赤に熟れた乳輪も、ピンッと主張する乳首も。全部を食べるように口に含んで甘噛みする。
「かむな、ぁ……ッ!」
「無理だろ。ふざけんなよお前」
「なんでてめぇが怒って、……っ、ひう、ぁっ、あっ! ちくび、やだ、もうやだ……っ、ゾロ、ゾロ……!」
 若草色の短髪を掻きむしるように引っ張ってもビクともしない。それどころか反対側の乳首を指で弾かれ、引っ張られて、情けないほどに体が跳ねる。痛いような痒いようなあの感覚がゾロに触られることで治って、でも舌が離れるといっそうひどくなってを繰り返す。触って欲しくない、でももっと触ってほしい。
「〜〜〜っ、ひ、あっあ゛ぁあっ! 引っ張んな、ぁ……っ」
「こっちか?」
「うあっ、や、引っ掻くのも、いやだ……ッ」
「わがままコック」
「ッ、ぜってー、あとで、オロす……!」
 夕方からずうっと我慢していたせいだ。何度も何度も押し殺してきた欲望はゾロの指と口に簡単に翻弄されて膨れ上がる。今までにない、目まぐるしい気持ちよさに頭の中が混乱する。
「なぁぞろ、まて、本当に、ンッ、だ、だめだって」
 スラックスの中のペニスは痛いくらいに張り詰めていて、時々ゾロの腹に擦れてしまうのが堪らなく恥ずかしい。
 なのに。
(くそ、っ、やっぱ、きもちいい……ッ)
 絆創膏を外した瞬間より。自分で遠慮気味に軟膏を塗った時より。
 この男に遠慮なく舐められて、甘噛みされて、吸われる方がずっとずっと気持ちいい。
「ゾロ……ッ」
 ——妄想しなかったわけじゃない。自分で触るだけであんなに気持ちいいのだから、ゾロにされたらどうなるんだろうと邪なことだって考えていた。
 でもこれは、この気持ちよさは想像以上。寧ろ辛いくらい。
「ぞろ、ぞろ……っ、ゃ、ん、……っあぁああ!」
 今度は、引っ張られていた乳首を吸われる。痺れるような痛みが残るそこを、慰めるように舐められてどぷりとカウパーが漏れたのがわかった。狭い下着の中でいっそう膨らんでビクリと跳ねる。慌てて頭を横に振ってゾロの頭にしがみついた。
「なぁゾロ、ほんと、に、……ッ! おれ、イく、ちくびで、イッちまいそうに、なる、っ……!」
 いやだ、いやだ、と涙が勝手に溢れてくる。それなのにゾロは乳首に唇をくっつけたまま、目だけでサンジを見上げて怪訝な顔。
「嫌ならイかなきゃいいだろ」
「むっ、むちゃ、いうんじゃねぇよ……っ!」
 しれっと返ってきた言葉に、バカだろ! と叫んでも快感は止まらない。文句を言おうにも嬌声に変わって、せめて下着の中で出したくないとベルトを外そうとしても上手くいかなくて嫌になる。思ったように動かない指先に、ひぐ、と情けなく喉が鳴った。
「手伝ってやるから泣くんじゃねぇ」
「ないてねぇ!」
 強がったところで虚勢であることはバレバレで。執拗に乳首を弄ってくる指はちゃんとベルトを外してくれた。そのままスラックスと下着を下げてくれたので、てっきりどろどろに蕩けたペニスに触れてくれるのかと思ったのに、そうではないらしい。
「ゾ、ロ……?」
「自分でも触んじゃねぇぞ」
「っ、なんでだよ」
「てめェがこのエロい乳首だけでイくところが見たくなった」
「〜〜〜っ、悪趣味だな、てめェは!」
「なんとでも言え」
 煽ったのはてめェが先だ、アホ。
「あっ、や、あぁあ!」
 続いた言葉に「そんな記憶はねぇ!」と怒鳴りたかったが、乳首への愛撫を再開されてしまって嬌声へと変わる。とうとう膝立ちでいることすら難しくなって、ゾロの太腿の上に座り込んだ。
 もう逃げることはないと踏んだのだろう。背中に回されていた腕が離れて、ゾロの両手がそれぞれに乳首を弄る。カリカリと引っ掻かれて、遠慮なく引っ張られて。
「あっ、あっ、あぁっ」
 外気に晒されたまま触ってもらえないペニスは、ビクビクと震えて情けなくカウパーを垂れ流す。漏らしているのかと思うほどの量で、結局中途半端に下げられただけの下着が濡れていく。
「ゾロ、なぁ、ン、たのむから、……っ、も、チンコさわりてぇ……ッ」
 カウパーでしとどに濡れたペニスを扱いたら、きっと頭が真っ白になる程に気持ちいいと思うのだ。そんな直接的な快感が欲しくて欲しくて仕方ない。
「あとでいっぱい触ってやる」
「いまが、いいんだよ……っ! クソっ!」
 意地悪な男の首に腕を回し、肩口に頬を擦り寄せる。はふはふと短い息を繰り返しながら舌を這わせた。そんなことをされると思ってもいなかったのだろう。首筋を舐められたゾロの肩が揺れた。ぐう、と悔しそうに唸る声にサンジは悪戯が成功した子どものように小さく笑う。
 しかし。
「ダメだって言ってんだろうが」
「——ッ、ヒ、ぁ゛」
 仕返しだと言わんばかりにゾロの唇が右耳に触れる。触れて、直接鼓膜を低い声が揺する。
「ぁ、ま、まて……っ」
 体を離すより先に肉厚な舌が耳腔に入り込んできた。
「ふ、ぅ、あ、あっ」
 くちゅり、と。わざとらしく響く水音に腰が震えた。音に合わせるように乳首を押し潰されると頭の中が真っ白になっていく。
「乳首だけでイくところ、ちゃんとおれに見せろ」
「ッや、あ゛、あぁ! そこ、で、……っ、しゃべんな、ァ……ッ!」
「イヤじゃねェだろ」
 ——好きなくせに。
 少し掠れて、興奮が混じる声。
 セックスの時しか聞けない、ゾロが自分を煽る声。
「〜〜〜っ、ふ、ぅうう……」
 獣のように獰猛なくせに、根底には甘さが流れていて、呼称を呼ばれるともう何も抵抗ができなくなる。うまく意地が張れずに寄り掛かってしまう。素直になってもっと愛されてみたいと思わせられる。
 それをゼロ距離で吹き込まれてしまっては、もうどうしようもない。顔だけじゃなくて、声まで「イイ」だなんて卑怯以外の何者でもない。分かってやっているから、余計に重罪だ。
「はぁ、ぁ、ぞろぉ……」
 ゾロの思惑通りになっていく。眦も口元も腰も、なにもかもがだらしなく蕩けていく。声に芯がなくなって、男の名前ですらちゃんと発音できたのか怪しいレベルだ。
「おら。ちゃんと気持ちいいところに集中してろ」
「ん、んっ」
 力なく腰が揺れる。今夜はまだ触れられていないアヌスが疼いて仕方ない。この男に教え込まれた奥でイく感覚が欲しくてもどかしい。はくはく、と淫らに口を開くアヌスを見られなくて本当に良かった。
「気持ちいいんだろ?」
「き、もち、きもちいぃ、……アッ! ひ、ひっかかれんの、すき……っ」
 ゾロの声に支配された頭ではもう何も考えられなくて。ただただ素直に口を開いては「でる、もう、もれる、ぞろ」と擦り寄るしかできない。
「イけ。全部出しちまえ」
 そして、ゆっくりと積もり積もった快楽が決壊して溢れていく。
「ぁ、イく、ぞろ、おれ……! っ、ひ、あぁああ——っ!」
 びゅく、と。痙攣するように震えたペニスから精液が漏れ出して、ゾロのシャツも腹巻も白く汚していく。
「あ、あ、あ……」
 乳首だけで達してしまうなど初めてで。さらにずっと我慢していたせいか、絶頂の余韻が引いてくれない。ぎゅうっと瞑った目の奥で光が散って、内腿が軽く痙攣する。時折、腹筋が震えるほどに力が入って、その度に少量の精液が漏れた。糸を引くほどに粘度の高いそれは、だらだらと下に落ちていく。
「ふ、ぅ゛う、……ハァ、ッ、ハァ……」
 どうにか息を整えようと躍起になっていれば、耳元でゾロがクツリと笑う。
「上手に出来んじゃねぇか」
 興奮したままの、しかしひどくご機嫌な声色に頭がクラクラする。こんなことでも褒められたことが嬉しくて堪らない。うれしい、好きだ、もっと見てほしいと次々と感情が爆発していくのが止められない。
 あっという間に、次の浅ましい欲望に火が点く。
「ん、ぁ」
 まだ萎え切らないペニスをゾロに擦り付けるように体を寄せてキスをした。自ら舌を差し込めば、やり返すように絡みとられて、ついでだと言わんばかりに口腔内を余すとこなく舐めとられた。ふる、と背中が震える。
「——なぁ、ゾロ」
 場所変えようぜ、と額同士をくっつけて自ら誘う。
 蕩けた眦も、唾液で濡れた唇も、なにもかも隠さなくていい。
「今度はさぁ、てめェのクソでけぇチンコ挿れられて、乳首噛まれながらイきてぇ」
「ハッ、今日はとんだわがまま野郎だな」
「なんだよ、……だめか?」
「いや、悪くねェ」
 御座なりに下着とスラックスを持ち上げられて、ジャケットは肩にかけてくれた。あとは、すっかり力が入らない体ごとゾロが持ち上げてくれるので移動には困らない。
 床に落とされたままのネクタイは明日朝一番で拾っておかないとなぁ、なんて考えながらサンジは自慢の足をゾロの体に甘く絡めた。
 
 
 
▪︎
 
 
 
 翌日、医務室で作業するチョッパーを訪ねたのはゾロである。
「サンジが使ってた軟膏?」
「あぁ。アレって誰が使っても平気なやつなのか?」
「あ! もしかしてサンジ痛がってるとこ見たのか!?」
「いや、そういうわけじゃねぇんゆだが……」
 寧ろ乳首がえらく淫らなものに仕上がって昨夜は気持ちよさそうでした、——なんてことは当然言えなくて、ゾロは腕にある適当な引っ掻き傷を指差した。
「ほら、おれのこういう傷にも塗れんのかと思って」
「ちゃんとした傷に塗るのはダメだよ。ゾロ、腕出してくれ、今消毒するから」
「ありがとう」
 きちんと爪を清潔に保っているサンジに付けられた引っ掻き傷だから消毒の必要はないかもしれないが、大人しく処置されることにする。
 それよりも、
「チョッパー。ちゃんとした傷に塗るのはダメってのはどういう原理だ」
 気になったのはこっちである。
「ん? うーん、サンジには内緒にしてくれるか?」
「わかった。約束する」
 患部にガーゼを当てて、ご丁寧に包帯を巻いてくれるチョッパーは少し言いづらそうにして、それから困ったように笑う。
「あの軟膏、特殊な薬草を混ぜたやつなんだ」
「へぇ」
「サンジってすぐに怪我とか隠すから、……今回は切り忘れてた足の爪が割れたって言ってたんだけど、おれは化膿してるんじゃないかと疑って」
「足の爪?」
「うん。戦闘中に割れたとか」
「あー」
 アイツに限ってありえねぇな、と心の中でだけ呟いておく。
 足も手も、きちんと管理していることをゾロはよく知っている。時々、機嫌がいいときはゾロの爪にも手を出してくるのだ。これくらいちゃんとやれよ、と言われて「そうだな。てめェのナカ触る手だから今度からちゃんとする」と返せば顔を真っ赤にしていつもの五倍ほど蹴られたのはつい最近のことだ。
「で、割れたって言うわりに全然見せようとしてくれないからあの軟膏渡したんだ。あれは傷口があると配合した薬草が反応して、痒くなったり熱を持ったりするんだ」
 もちろんごくごく少量だから拭き取ればすぐに治るんだよ、と包帯を巻き終えた小さなの蹄がぴょこぴょこと動いて言い訳をする。
「でもあの軟膏塗ってもサンジは何も言ってこなかったし、おれの考えすぎだったんだな」
 えへへ、よかった。なんて純粋な笑顔を向けられてゾロはもう何も言えなくなった。
 実際は足の爪ではなく乳首で。ゾロが噛んだせいでちゃんと傷があったので熱を持って腫れたように膨れていた。そのせいで過敏になったそこを昨夜は気が済むまで堪能させてもらった。
(……いや、あれはエロコックも望んだことだ)
 もっと噛んでくれ、と強請ってきた熱っぽい声も蕩けた顔も寸分違わず思い出せる。
 朝になって我に返り、痛い痛いと怒っていたが蹴りが飛んでこなかったのでそこまで怒っているわけではないのだろう。
「ゾロ?」
「……あぁ、わるい」
 意識がチョッパーには言えない方向へと飛んでいて、慌てて頭を横に振った。
「あの軟膏は使わねぇようにする」
「うん、そうしてくれ」
「ただ、チョッパー。もう一個聞いていいか?」
「うん?」
 すっかり見慣れたピンクの大きな帽子に手を置いて、ゾロはチョッパーに顔を寄せる。
「ありゃあ何回使っても副作用はないんだな……?」
「え? あぁ、うん、ないよ?」
「そうか」
「……使わないんだよな?」
「あぁ。おれは使わねェ」
 返ってきた答えにゾロはひとつ頷いて立ち上がる。よくわからないという顔をしているチョッパーにもう一度礼を言ってから医務室を出た。
 するとさっきまでは誰もいなかったキッチンにサンジの姿があった。ちょうどいい、とゾロは背後に近寄る。
「あんだよ、メシはまだだぞ」
「まだ腹いっぱいだからいらねぇ」
「じゃあなんだ、——ヒッ!」
「お、やっぱ腫れてんな」
「急に人の乳首触ってんじゃねぇよこのエロマリモ! 昼間だぞ!」
 ぬう、と背後から伸ばした手でシャツの上から乳首を触れば、そこはしっかりと主張したままで満足げに頷いた。怒鳴ったサンジは、しかしゾロが指を少し撫でるように動かすだけで一気に静かになった。
「っ、く、んぁ……っ」
「感度がいいな」
「あ、ほ……! 痛ぇんだよ!」
 どっかのマリモが噛むからな! と言われてゾロはニンマリと口角を上げる。
「そうかそうか。じゃあおれがちゃんと面倒みてやるよ」
「アァ!?」
「チョッパーに軟膏貰ってんだろ? あれ寄越せ。おれが毎日塗ってやる。治るまでな」
「……てめェなに考えてやがる」
「優しさだろ」
「てめェが……? 優しさ……?」
 納得いかねぇ、とでも言いたそうに顔を歪めるサンジの耳に唇を寄せる。ちゅう、と可愛らしい音を立ててキスをすれば、分かりやすく肌が赤く染まり、文句を言う口も止まる。きっと耳だけではなく頬も赤くなっているのだろう。見たいなぁと思うが、とりあえず今はお預けである。
「あとで手が空いたらおれのとこ来い」
 体を離してダイニングから出た。仕込みが終わってひと段落すればあの男はやってくるだろうと確信して、釣りをしているウソップの隣に座る。
「おれもやる」
「おぉ、ゾロ! 釣竿ならそっちに、……ってなんつー顔してんだよ」
「あ? 顔?」
 指摘された顔を手で触ったところで自分ではわからない。なんだ? と首を傾げればウソップはけらけらと軽く笑って指を指す。
「今からすっげぇイタズラしますー、楽しみですーって悪ガキみてぇな顔してるぞ?」
 なぁに企んでるんだよ、と肩を叩かれて、ゾロはご機嫌にふんっと鼻を鳴らした。

「内緒」


>> list <<