おいしいからだ

 ————おちる。
 
 その三文字が頭の中に浮かぶ頃には、ゾロの手のひらの中に絶叫を零していた。
 体は自分が思ったように動いてくれなくて、目の前が明るくなったり暗くなったりと忙しい。そもそも自分が今目を開けているのかどうかも分かっていない。
 ただただ気持ちいい≠ェずっと続いて、後ろから覆いかぶさってくるゾロの唸るような声が聞こえた。
「ッ、クソ……! 締めすぎだ」
 隙間なくくっついてくるゾロの体。深く捩じ込まれるペニス。迎え入れてはいけないところまで暴かれる。
「ヒ、ィ、あ゛……!」
 遠慮なくうつ伏せで床に押し付けられて逃げ場などどこにもない。暴れたいのに暴れられない。
挙句、嬌声を船中に響かせないための手のひらが邪魔でもうずっと酸欠状態。
「出すぞ、全部飲め」
 なのに、後ろの男は遠慮とか加減という言葉を知らないのだ。
 痙攣を繰り返すアヌスの一番奥にマーキングされていく。精液を塗りたくられる感覚に、サンジの目の前がまたホワイトアウトした。
「あ、あ゛、あぁ……」
 もうちゃんとした言葉など吐き出せなくて、呼吸と共に意味のない母音を繰り返す。
 そして、
「————あぁ、なんだお前、」
 何も出さねェでケツだけでイッたのか。
 
 揶揄うように囁かれた言葉を最後に、サンジはとうとう意識を手放した。



 ♡



 島が見えた、とルフィが騒ぎ始めたのはついさっきのこと。
 そういえば昨日ナミさんがそろそろ島が見えるはずと言っていたな、と思い出しながらも朝食を用意している手は止めない。
 昨夜から仕込んでいたスープは味の調整をし、厚切りベーコンを焼いていく。ふわふわのオムレツは冷めたら勿体無いのでここに来た順番に焼くとしよう。あとは、見張り終わりの船長の口に突っ込む骨つき肉は特製オーブンに任せることにする。
 今朝は白米ではなくパンの日である。
 昨日チョッパーと一緒に作ったパンは、少し形が歪だがきっとみんな朝から微笑んでくれるに違いない。想像しただけで笑みが溢れた。
「よし」
 骨つき肉と交代させるためにオーブンからパンを取り出す。途端に、少し甘めの、それでいて香ばしいパンの匂いがキッチン中に広がっていく。うん、いい匂いだ。
 くんと鼻を鳴らして満足げに口元を緩めて、——しかし気を抜いた瞬間にやってきた甘い痺れに思わず手をついた。
「〜〜〜っ、くっそぉ……」
 パンの香りにすら浸れない。なんだか今朝は起きた時から体がおかしかった。
 昨夜のセックスの余韻を引き摺っていて、今でもゾロのペニスを嵌められているような心地。腹の中がムズムズして、甘く痺れて思わず腰が抜けて喘いでしまいそう。
 じんわりと滲む額の汗を手の甲で拭った。顔まで熱い。
(なんなんだよ、もう)
 こんな長い余韻は初めてだ。
 火を点けていない煙草を噛み締めて気合を入れ直す。未だゾロの声が残る耳に、コツコツと軽やかな足音が聞こえてきたのだ。
 足音の主はロビンだろう。彼女のためのお湯を沸かして、チョッパーが彼女のために作ったお花の形のパンを用意する。ジャムは何がいいだろう。アプリコットジャムは好きだろうか。
「おはよう、サンジ」
「おはよう、ロビンちゃん。今日の服もよく似合ってるね。新しく買ったやつかい?」
「えぇ。ウォーターセブンでナミと一緒にお買い物したの。その時に、ね」
「アイシャドウも?」
「これはずっと持ってたけど使ってなくて、でもナミが似合うって言ってくれたから」
「あぁ流石ナミさん! とってもよく似合ってるよ、ロビンちゃん」
「ありがとう」
 今日も素敵だぁ〜! と心の底からの賛辞を重ねて、カウンターに座ったロビンに飲み物を聞く。朝食はチョッパーが作った甘めのパンだと伝えればコーヒーをお願いされたのですぐに取り掛かる。今朝は珍しくお腹が空いているらしく、オムレツとサラダもご所望だ。これは気合を入れなければ、とネクタイを締め直す。
 先に配膳した、彼女が好きな濃いめのブラックコーヒー。匂いを堪能してから飲んでくれるところが、ちょうど料理人の心を擽ってくる。
「サンジ」
「なんだい?」
 オムレツを焼きはじめたサンジの肩に、ふわりと花が咲いた。
「今朝は随分と可愛い顔をしているのね」
「へ……?」
 ロビンが咲かせた手が頬を撫でて、額に触れてくる。
「ロ、ロビンちゃん……!?」
 ただでさえ熱かった顔が一気にヒートアップしてそのまま後ろに倒れてしまいそう。それでも長年の経験からオムレツは焦がすことも崩すこともなくお皿へ。
「ふふ、ごめんなさい。料理をしてるのに」
「ロビンちゃんならいつだって大歓迎さ」
 だってこんな風にロビンに触れられたのは初めて。期待も込めて、なんなら続きを、と強請ろうとしたところで淡い夢は一瞬で散っていく。
「熱はないようで安心したわ」
 ガク、とわかりやすく肩を落とした。
「島に着いてもあまり出歩かないほうがいいわね」
「ありがとう。でも大丈夫だよ。ほら、熱もないし」
「……そう」
 何か言いたそうにしていたけれど、ロビンは静かに微笑んだ。同時に慌ただしい足音がダイニングへと傾れ込んできた。ウソップやフランキーの足元で、いつもより目がぱっちりと醒めているチョッパーにこっそりと笑う。
「サンジ、おはよう!」
「おはよう、チョッパー。昨日手伝ってくれたパンいい感じの出来だぜ」
「ほんとか!」
 飛び跳ねるようにしてロビンの隣に座り、キッチンを覗き込む。そして綺麗に並べられたパンを見てはチョッパーが感嘆の声を上げるのだ。
「すげー! うまそうだ!」
 同じようにウソップとフランキーも覗き込んでは、どの形にしようかと悩んでいる。
「なぁウソップ! おれが選んでいいか? オススメがあるんだ!」
「おう、じゃあ頼むぜチョッパー」
「おれのスーパーなパンも頼むぜ」
「任せとけ!」
 どんと胸を張るチョッパーをキッチンに招き入れて、パンは任せることにした。
 サンジはその間に人数分のオムレツとベーコン、スープにドリンクを用意していく。島に着く時間を算出していて少し遅れてやって来たナミには朝の挨拶と愛の言葉を、見張りを終えたルフィにはご褒美として焼きたての骨つき肉を。何かに集中していれば熱っぽさも気にならなくて楽だった。
 それに。
(楽しそうでよかった)
 いつもより少し早起きをして一生懸命に配膳するチョッパーは、ひとりひとりに「これがウソップの鼻で」とか「これがコーラとサニーで」と説明しては突っ込まれたり頭を撫でてもらえたりと楽しそうだ。
(今度はクッキーでも一緒に焼くか)
 クッキーなら蹄でも扱いやすく、仲間ひとりひとりに合わせたものが作りやすい。細かいところは手伝ってやればいい。
「サンジ! 配ってきたぞ!」
「ありがとな、チョッパー。さぁお前も冷めないうちに食ってくれ」
 真新しいダイニングテーブルに並ぶチョッパーの力作と自分の料理。それに舌鼓を打つクルーの顔を見渡して、サンジは一瞬だけ息をつく。戻って来た仲間と増えた仲間に口元を緩ませて、——しかしひとつ足りない色に眉を寄せた。
「あんのクソ剣士まだ寝てやがるな」
 大きな欠伸とともに少し遅れて入ってくることは多いが、ここまで遅いと言うことは完全に寝ているのだろう。
 しかも今日の寝床は展望室だ。男部屋と違ってウソップたちが起こしてくれることもないから放っておけば昼までキッチンに来ないかもしれない。
 キッチンに最後まで残った刀の形をした三つのパン。ずうっとそこに残っているのは胸が痛い。サンジは洗いたての布巾をパンが入った籠に被せ、キッチンから出る。
「起こしてくるから食べててくれ」
 あのクソマリモ、折角のパンが冷めちまうだろうが。
「サンジ〜、おかわりは?」
「キッチンにある分は勝手に食っていいぞ。マリモの分には手ェ出すなよ、ルフィ」
「おれが見張ってるぞ!」
 今朝は本当に頼りになる船医である。
「助かるよ」
 よっぽどパン作りが気に入り、褒めてもらえたのが嬉しいのだろう。キラキラといつも以上に瞳が輝いている。遠い昔の、懐かしい気持ちをひっそりと思い出してチョッパーの頭を撫でる。
そして、ルフィにもう一度太くて長くて頑丈な釘を刺してからこの場を任せることにした。
 
 
 
 きっちり朝五時に抜け出した展望室は、その時と何ら変化がなかった。皺くちゃになって丸まった毛布の上で呑気に鼾をかいているゾロを含め、だ。
「爆睡かよ」
 確かに昨夜は盛り上がってしまったが。
(まぁおれも知らねェ間に寝ちまってたしな)
 眠るゾロのすぐ横に膝をついて顔を覗き込んでも起きる気配はない。大きく開いた口も、皺のない眉間も、こうしていれば年相応の幼さで、なんだか可愛く思えてくる。
(……マリモのくせに)
 しっかりと鍛えられ、そして袈裟がけの傷が走る胸の上。音もなく、そうっと自分の頭を落としていく。最初は額を擦り付けて、それからぺたんと体を折り曲げて項垂れるように体を預けて頬をくっつける。
 仄かに夜の情事の匂いが残っているが、そこまで酷くはない。
 何度も後始末をしてから寝ろと口酸っぱく言っているせいか、最近は濡れたタオルで体を拭いているようだ。もちろん、先に落ちてしまっているサンジの体もだ。
 及第点として、体を拭いたタオルをその辺りに丸めて放っているのはいただけないが、それは朝が早い自分が洗うことにしている。
(言われりゃあちゃんと律儀にやるんだよなァ)
 こんな風に二人の習慣が増えていくことを気に入っている。
 くふくふ、とはにかむように笑うくらい気に入っている。
(マリモのくせに、なぁ)
 胸の上の笑い声が耳に入ってきたのか、規則的な呼吸が乱れた。
そして眠っているはずのゾロの右腕が持ち上がり、サンジの頭を撫でる。起きたのだろうか、と頬を預けたままで見上げた。
「ゾロ、起きたか? メシだぞ、朝メシ」
 けれど返事は返ってこない。
 一瞬静かになった鼾はすぐに復活したのに、サンジの髪を撫でる手は動いているまま。時折、寝かしつけるようにポンポンと叩く。
「なぁ、おい」
 こうすることが当たり前のように、手が動く。
「……あー、お前さぁ……」
 いつも自分が眠った後で、こうやって触れているのだろうかと想像してしまって心臓が締め付けられた。
(……なんだよ、それ)
 今日は体の調子がおかしいから。
 だからこんな風にされしまっては甘い痺れが治らなくなる。
(おれのこと、すげー好きみてぇじゃねぇか)
 ゾロに好かれている自覚はある。自分たちはちゃんと恋人というやつで、普段からは想像もできないような甘酸っぱいことだってしている。
 ——ただ、どうしたってゾロを好いている自覚のほうが強い。
 それが嫌だとは思わないし、それでいいと思っている。こんな風に気まぐれに、唐突に、この男からの好き≠感じられたらそれでいい。
 むずむずと喜んで緩む唇を噛んで、ゾロの鎖骨に唇を寄せる。吸い付いて、淡く噛んで。でも跡が残らないように気を遣って。
(起こさねェと)
 頭ではわかっている。
 そろそろ飲み物のおかわりが必要かもしれない。チョッパーではいつまでもルフィを押さえつけておけないかもしれない。ルフィじゃなくても、ゾロのパンを間違って誰かが食べてしまったらチョッパーは悲しむだろう。
(起こして、キッチンに帰らねェと)
 わかっている。わかっているのだ。
 でも。
「——……ゾロ、」
 本当に今日はおかしい。顔も頭も、腹の中もなにもかも。全部がずっと熱っぽい。
 鎖骨だけで飽き足らず、首筋、喉仏、耳、頬、と唇を押し当てていく。サンジが動くせいで途中で落ちてしまったゾロの右手にもキスをした。応えるように頬を撫でられて背中が震えた。
 なぁ、起きてくれと懇願する。
 起きて、喧嘩でもしてくれないとここから動けそうにない。
「ゾロ、ゾロ」
 声が聞きたい。もっと触れたい。
 とうとうゾロの唇まで辿り着いて、呑気な下唇を噛んでやる。微かに痛みが走ったのだろう。ようやっと瞼がピクリと震えて、ゆっくり持ち上がっていく。
 微睡の中にいる琥珀色の瞳がこちらを捉えるまでの数秒、それすら我慢が出来なくてサンジは噛んだ唇に自分のそれを押し付けた。
「……てめェにしちゃあ珍しい起こし方だな」
「いつまでもぐーすか寝てっから好きにされんだよ。修行が足りねェな」
「呼んだか?」
「呼んだ。何回も」
 それなのにまったくてめェときたら、と煽るように鼻で笑ってやったのにゾロには響いていないらしい。じい、とサンジの顔を不思議そうに見上げている。
「なんだよ」
「……」
 無言で見つめられるのはなんだか居心地が悪くてサンジから顔を背ける。けれどゾロの手が顎を掴んでは戻されて、また真正面から目を合わせる羽目になる。
「おい、さっきからなんだよ」
「お前、熱でもあんのか」
「ハァ?」
「さっきからずっと顔が赤い」
「……あぁ、そういやロビンちゃんにも言われたな。でも熱はねェよ」
 原因不明の熱っぽさならあるのだけれど。
 それは心の中だけで呟いてゾロの手をやんわりと払う。
「……」
 まだゾロはこちらを見ている。
「だから熱はねェって」
 なんとなく。本当になんとなくなのだが、体の中で渦巻く熱をゾロには知られてはいけない気がして、逃げるように体を起こして展望室から出て行こうとする。
 これはきっと、動物的な本能だ。
 けれど。
「——……そうか」
 妙に腑に落ちたような声が背後で聞こえて、そうかと思えば体を起こしたゾロに腕を取られて彼のテリトリー内へと引っ張り込まれた。胡座をかいた足の上へと招かれ、逃げられないように逞しい両腕が纏わりついてくる。
 背中に伝わるゾロの体温に、昨夜の記憶が鮮明に蘇っていく。
「コック」
 耳のすぐそばで呼ばれて、体内の熱が一気に膨れ上がる。
「お前、昨日の熱がまだ引いてねェのか」
 くつくつ、と意地悪な声色で笑われて頭の中に靄がかかる。
「な、にが……」
 ドクドクと、過剰なほどに心臓が跳ねる。体内をめぐる血液が今にも沸騰しそうだ。
 なのに、ゾロの手がスーツの上から体に触れてぐうと下腹部を押す。気を抜くと襲って来ていたあの甘い痺れを、強制的に刺激するような動き。
「アッ、やめ……!」
 おかしい。こんなのはおかしい。
「覚えてるか? 昨日この中におれのチンコ突っ込まれて、何も出さずにイッちまったんだよなァ」
「ひっ、うぅ、そこ押すな、ぁ……!」
 全てを出し切ったばかりのペニスはまだ反応が鈍くて、その分アヌスが過敏になっているような、そんな感覚。
「今までにないくらいケツの具合が良かったのに、呆気なく気絶しやがって」
 でも、だからこそ。
「てめェも物足りねェんだろ」
 初めて覚えた感覚をもっと味わいたいと体が叫んでいるのだ。
「ち、ちが、」
「嘘つけ。顔に全部書いてんぞ」
「う、そだぁ……」
「つうか、てめェその顔で朝からキッチンに立ってたのか。ロビンにもバレてんじゃねェのか」
「ロ、ロビンちゃんはてめェと違って心配してくれたんだよっ」
「じゃあなんて言ってたか言ってみろ」
「島に着いてもあんまり出歩かないほうが、……あ、」
「あ?」
 違う、その前だ。気付いて泣きたくなった。
「……今朝は、随分と可愛い顔してるのね、って……」
「ほらみろ、バレてんじゃねェか。いいように遊ばれやがって、アホエロコック」
「やめろ! 言うな! おれはレディに弄ばれても本望なんだからな!」
 わっと泣きそうな顔で振り返りながら喚いたら、うるさいと口を塞がれる。肉厚な舌がすぐに入り込んできて、呼吸も唾液も全部奪われていく。更に、大人しくしていた手が腹を押してくる。
「ん、う、んんっ」
 トン、トントン、と腹に響く振動だけで気持ちいい。
 普段、内側からゾロのペニスで押される部分が、もっともっとと強請っている。
(いま、ぞろのちんこ、いれたら)
 考えただけで脳が焼き切れそうだ。三秒ともたずにイく自信がある。なんだったら妄想だけでもイけそうだ。
(いれてほしい、おく、ぐちゃぐちゃになるまで)
 意味もなく涙が溢れてきて鼻の奥がツンと痛む。酸素が足りない頭がぼうっとして、勝手に腰が揺れる。
「ふ、うぁ、あっ、ぞろ……っ」
 ゾロの言う通り物足りない。もっと強い刺激がほしい。
 いつものように、尻たぶが真っ赤になるまで激しく腰を打ち付けて、自分すら知らない奥の奥までペニスを捩じ込んでほしい。
 ————でも。
「ぞ、ろぉ、だめだ、チョッパーが、おまえのためにって、パンつくって、」
 ぐずぐず、と鼻を啜りながら力の入らない手でゾロの体を押し返す。
「きのう、から、アイツたのしみに、して、っ」
 押し返したその手でゾロにしがみ付きたいのに、なけなしの理性でどうにか此処にきた理由を思い出す。
「おまえが、食ってくれんの、まってんだよ、ぉ……」
 涙の向こう側のゾロの顔が、グッ、と唸って渋くなる。
 何かを言いたそうな顔で奥歯を噛み締めて、散々唸って、額に青筋を立てて、気合を入れるように深くて長い息を吐く。
「————そ、れは、いま、食わねェとダメだな」
 サンジと同じくらいに臨戦態勢だった魔獣は、しかし小さな船医の純粋な瞳には勝てないのだ。サンジもうんうんと何度も頷いて、互いに体を離していく。
「コック、てめェは落ち着いてから降りてこい。なんか適当に理由作っておく」
 ゾロの言葉に異論はない。
 小さく頷いて、寂しさを紛らわすようにゾロがさっきまで寝ていた毛布を手繰り寄せて丸めて抱き締める。それを見たゾロがわかりやすく体を固まらせたのだが、どうにか理性が辛勝したらしい。
「島に着いたら覚えてろ、エロコック」
「そりゃあこっちのセリフだ、エロ剣士」
 毛布に顔を埋めて、愛しい魔獣を精一杯の強がりで追い払った。



 ♡



 島の地形がどうだとか、人の活気がどうだとか。思えば、そんなものはまったく頭に入っていなかった。
 連れ込み宿に辿り着いて手続きを済ませたところでゾロに引っ張られ、何度か道の間違いを正した後で部屋にたどり着くと、扉を閉めるや否や狭い通路の壁に押しつけられる。
 ガチャン、とやけに重い鍵の音が部屋に響く。
「ゾ、」
 たった二文字の名前を呼ぶ暇すら与えてくれない口付け。声も呼吸もゾロの唇に全部奪われて、ゴツ、と打ち付けた後頭部を痛いとも思わなかった。
 ようやっと手に入れた二人の時間。朝からずっと待ち望んだ時間。
 分かっていて、サンジは大人しくゾロの首に腕を回す。
「ん、んぅ」
 互いに相手の口腔内を余すとこなく舐め尽くして、だらしなく落ちていく唾液など構っていられない。息をするのも勿体無くて、歯が当たっても揶揄う余裕もない。
 ただひたすらに喰らい尽くしたくて、食らってほしくて必死になる。もっと、もっとと体を擦り寄せ合う。けれど、とうに勃起しているゾロのペニスの熱が服越しに伝わると、それだけでもうダメだった。壁とゾロの体に身を預けながらずりずりと崩れ落ち、へたり込む。顔が火照ってクラクラする。
「もうへばってんのか」
「うるせ」
 今からセックスをしようとしているくせに優しい言葉なんてかけてくれなくて、そのくせ琥珀色の瞳を獰猛に煌めかせながら頬を撫でてくるものだから頭がおかしくなりそうだ。
「おい、ベルト外せ」
「あ? ヤるならベッド行こうぜ。すぐそこだろ」
「あとでな」
 もう余裕がねェんだよ。
「いいからさっさとそれ外せ。じゃねェと千切る」
 高価で豪華な部屋を取ったわけでもあるまいし、ベッドなんて本当にすぐそこなのだけれど。それでもここで言い合いをする余裕はないので素直にベルトを外す。
「よし」
 するとゾロの手がザンジの足を掴んで靴を脱がして放り投げる。
「てめ、」
 サンジが文句を言うより先に今度はスラックスと下着を纏めて脱がしては放り、残された靴下もズレて足首のあたりでぐしゃぐしゃになっている。
「ケダモノか! てめェは!」
「昨日の今日じゃあてめェは勃ちが悪ィな」
「ひっ! ばか、あんま強く握んじゃねェよ、いてぇ」
 ゆるゆると勃ち上がったペニスは扱かれてあっさりカウパーを吐き出すものの、昨夜出し切ったせいで完全に勃起することはなさそうだ。
 焦ったい気持ちよさに下唇を噛んで、強請るようにゾロを呼ぶ。
「こっちか」
「あっ」
 カウパーで濡れた指先がアヌスへと降りていく。まだ縁が赤く色づいてふっくらと腫れているそこに、発情した魔獣の瞳が更に色濃くなる。
「っ、ゾロ」
 表情なんてほとんど影になっていて凄みが増していると言うのに、格好良く見えてしまって泣きたくなる。
(——そんな顔、)
 おれなんかに向けるなよ。
 もっと好きになって、もっと欲しくなって、離れ難くて頭が馬鹿になりそうだ。
 いつかお前がおれに飽きた時、笑って手が離せなくなってしまうだろう。
「ローションいるか?」
「い、らね、いまは、必要ねェよ」
 ひくひくと蠢く孔に指を引っ掛けられて擦られただけで背中がゾクゾクと震える。早く、とサンジがゾロの手首を掴む。そのまま自分の方へと引き寄せ、男の中指を咥え込んでいく。
 あ、あ、あ、と啼きながら奥へ。もっと、もっと。
「へぇ」
 ゾロが、アヌスの柔らかさと滑りに口角を持ち上げたのが分かった。
「ナカにローション仕込んできたのか。準備いいじゃねェか、エロコック」
 仕込んでる最中にひとりで愉しんでねェだろうな。
 興奮と、その根底でチリチリと焼けるような小さな怒り。するわけねェだろ、と噛みつきながらも緩む口元が止められない。世界一への道にしか興味なさそうなこの男の、自分だけに向けられた感情の機微はいつまでだっても堪らないのだ。
「準備しただけでちゃんと我慢したんだよ、おれは」
「ならいい」
 納得したように鼻を鳴らして、ナカに埋めた指を動かし始める。
「——ッ、ア! ゾロ、それ、そこ、っ」
「ここだろ? 腹の上から押されて気持ち良かったところ。ちゃんと自分で用意した褒美にこっちからも押してやるよ」
「い、ぁ゛っ、あぁあっ!」
 知り尽くされている弱点を指の腹で撫でられるだけで気が狂いそうだ。ずっと求めていた刺激をようやっと与えられて、勝手に眦が蕩けていく。
 けれど。
「ゾロ、っ、ゆび、も、いいから、……なぁ……ッ!」
 本当に欲しいのはこっちだと、ゾロの股座へと手を伸ばす。
 ズボン越しでもすっかり覚えてしまっているペニスの形を指で辿れば、口の中で唾液がじんわりと広がった。もしかしたらフェラだけでもイけるかもしれない、なんて真剣に馬鹿なことを考える。
「もうちょっと解さねェとあとでツラいのてめェだぞ」
「だから、おれ、が、……っ、ふう、いいって言ってんだろうが……!」
「文句言うなよ」
「言わ、ねぇから、も、焦れったいんだよっ」
 早くてめェのチンコくれよ、このヘタレ。
 今自分が出来る精一杯の怖い顔で睨んでやれば、ぐっと黙り込んだ後で指が引き抜かれていく。次いで、切羽詰まった声で後ろを向くように言われて大人しく従った。
 ざらりとした壁に手をついて、アヌスに擦り付けられる熱量にカウパーが漏れる。
「ぞ、ろ、ぞろ、はやく、なぁ」
 ローションで濡れた入口を何度もペニスで撫でられて、くちゅくちゅと響く水音が恥ずかしくて。でもそれ以上に興奮と期待で腰が揺れた。急かすように顔だけで振り返れば、——眉を寄せて、何かに耐えるような顔をしているゾロと目が合った。
「……あ? なに、おまえ、どうしたんだよ」
「うるせぇあっち向いてろ、アホ。こっち見んじゃねェ。ふざけんなよ」
「アァ? 急に怒ってんじゃねぇよ」
「怒ってねェ」
 まだ電気すらつけていない薄暗い部屋で、それでも赤く染まって見える頬と耳は、果たして見間違いなのだろうか。聞いてみたいと思うのに、これ以上話をするつもりはないとでも言うようにゾロのペニスに入口を押し広げられる。
「——ァ゛ッ、」
 ぶわり、と全身に鳥肌が立つ。
「あ、あ゛っ、はいる、はいってくる、ぞろ、ぞろ、ぉ……っ」
 ゆっくり、ゆうっくりと。
 ナカを傷つけないように配慮される挿入がもどかしくて、同時に愛おしく感じて意味もなく涙が溢れていく。腸壁を押し広げられ、誘うように蠢く襞を亀頭で優しく抉られていく感覚。すぐに射精しそうだと言うのに、しかし開いたままの鈴口からはやっぱり精液は出そうにない。
「ひ、ぁあ、あっ、はら、んなか、ンッ、あちぃ」
「もうちょっと、堪えろ」
「んっ、ん゙ん……! おく、おくまで、入ってきてる、ゾロの、」
 とうとう尻たぶにゾロの下生えが当たった感触がして、腹の中がゾロのペニスでいっぱいになる。
「は、あ゛あ、これ、ぇ……っ」
 腹の中が満たされて、これが欲しかったのだと実感させられる。教え込まれる。アヌスが勝手にゾロのペニスにむしゃぶり付いて、奥まで嵌められただけで腰が抜けてだらしの無い声が出る。
「う、ぁ、あ、ぞろ、きもちいぃ、チンコ入ってんの、きもちいぃ……っ」
 このままイッてしまいそうだと、舌を縺れさせながら訴えた。
「まだ奥までハメただけだろうが」
「分かって、んだよ、でも、きもちいい……」
「おい、崩れ落ちんな。踏ん張ってろ」
「むり……」
 壁についた手が汗で滑ってしまう。もう一度踏ん張ることが出来なくて、顔も体も持ち上げられずに重力に従うように落ちていく。
「チッ」
 舌打ちが聞こえても、待ち望んだ刺激に自分の体が自分で制御できないのだ。だからベッドに行こうって言ったんだよ、と心の中で反論する。
「仕方ねェな」
「な、に……?」
 脱力した体はゾロの両腕に捉えられ、下肢は彼の太腿に座るように乗せられたことで安定する。信頼できる逞しい腕と太腿にホッとして、背中に密着してくる胸板に体重をかけた。マリモの馬鹿力と筋肉も役に立つじゃねぇか、なんて小馬鹿にするように小さく笑って後頭部をゾロに擦り寄せた。
 ギシリ、と彼の体が軋んだ気がしたがまぁ気のせいだろう。
 あとは身を任せておけば崩れ落ちることはないと、——そこまで考えてハッとした。冷や汗が頬を伝う。
「遅ェよ」
 崩れ落ちることはないけれど、逃げることも出来ない。
「ま、待て、」
「待つわけねェだろ」
 耳元で悪い声で笑うゾロが制止の声など聞くわけもなく、ずるりとペニスを引き抜き、再び奥まで嵌める。最初のような手加減など一切ない突き上げにサンジは絶叫のような嬌声を上げる。
「——ッ、ヒ、ぁあ゛あ゛あ゛っ!」
 ぴゅ、と鈴口に引っかかっていたカウパーが壁に飛び散った。けれどそんなことも気にしていられないほどにアヌスを好き勝手に穿たれて、サンジは唯一自由な手で壁紙を引っ掻くことしかできない。
「あっあぁあ゛あっ! だめ、ぞろ、ぞろぉ……! これ、っ、いやだぁ……ッ! ひっ⁉ 待て、ア゛、あっあ゛ーッ!」
「やめて欲しいなら、人を煽る癖でも直しやがれ、ッ!」
「おくっ、奥まで入ってくんの、や、ァ……! ケツのなか、あちぃ、ゾロのちんこで、おれ、おかしくなっちまうっ、から、はなせってぇ……!」
「ッ、言ったそばから、お前は……!」
 腹の中が焼けてしまいそうな快楽に、背中も腰も逸らして前へと逃れようとする。
けれどそれを許してくれないゾロに抱きすくめられ、慎ましく口を閉じている結腸に亀頭が当たる。ア゛ッ、とだらしなく口を開き、舌を突き出して喘ぐしかできない。
「逃げんな」
「あ゛、ぁあ……ッ! おく、イく、イ゛……ッ!」
 ゴツゴツと鈍い音でしっかりと閉じられた結腸をノックされて足が痙攣する。汗が吹き出して、脱がせてくれなかったシャツが張り付いて気持ち悪い。
 でもそれ以上に何かが腹の底から込み上げてきて、いっそう涙が溢れて苦しい。
「だ、め、……ぞ、ろぉ……!」
 ゾロに抱き締められているのに、昨夜のおちる♀エ覚がサンジを襲う。
「アッ、ア゛ァ————……ッ!」
 ぐるりと強制的に世界が反転するような不安定感。気付けば全身がガクガクと痙攣して息が詰まる。過剰なほどに心臓が脈打って、キィンと長い耳鳴り。
「ぁ゛、ひ、ゔあ……」
 深い深い絶頂。崩れ落ちようにもゾロから逃げられず、奥深くまでペニスを咥え込んだままで目を白黒させた。
「昨日と同じように出来たじゃねェか」
 剣だこと傷だらけの無骨な手にペニスを撫でられる。
「あ、」
 思ってもいなかった箇所の刺激に腰が跳ね、同時に、びゅるっと何かを漏らす。
 精液ではない透明な液体がペニスの先から噴き出るのを見ても、サンジの今の思考能力ではそれが何かもわからない。
「お、おれ、いま……?」
「あぁ、潮吹いたんだろ。たまに漏らしてるぞ、お前」
 知らなかったか? なんて揶揄うように耳を舐められてまた少しだけ漏らしてしまった。
「ほらな、簡単に漏らす」
「っ、やめろよ、その言い方……!」
「事実だろ。いいからそのままジッとしてろ、漏らしたかったら勝手に漏らせ」
「なに、……っ、ゾロ、待て、まだ動くなって、ぇ……っ」
「無理に決まってんだろうが。さっきからケツがチンコに吸い付いてきてんだよ」
「ンなことして、……ひうっ、ぁあっ、あっ!」
「それにおれは昨日一発しか出してねェからなァ」
 ――勝手にケツでイッて気絶しやがったてめェが悪い。
 死刑宣告とも、八つ当たりともとれるゾロの言い分に「知るか!」と怒鳴りたくても嬌声しか出ない。絶頂の余韻が残るそこを、凶悪に張り出したカリ首が好き勝手に抉っていく。そうかと思えば前立腺や精嚢を狙った角度で突き上げられて身も世もなく叫ぶ。
「やっ、また、またいく、すぐにいっちまう……ッ」
「好きなだけイけ」
 涙を流して、抱き締めてくるゾロの腕を引っ掻いたところでやっぱり解放はしてくれなくて。ナカに仕込んだローションと体液が混じってはしたない音を立てるアヌスは、あっという間に二度目の絶頂を迎えさせられた。
 だが、
「ヒッ、ぃあ、ア゛ア゛ァア————ッ!」
 目の前で光が散るような絶頂を迎えても、ゾロが止まってくれることはない。
「ア、ア、むり、もう、むり……ッ」
 どこにも逃げられないままで好き勝手に犯されて、顔がぐしゃぐしゃに歪んでいく。暴力的なまでの快楽に恐怖まで感じた。
 奥歯が噛み合わずにガチガチと音を立てて、何度も首を横に振った。
「ぞろ、ぞろぉ……っ! も、イくのやだ、こえぇよ、ぉ……っ」
 えぐ、と喉が引き攣って涙が止まらない。自分の体が知らないものになっていくようで、それなのに強引に突き上げられると簡単にアヌスでイッてしまう。嫌だと言っても潮吹きは止められない。
「ぞろ、なぁ、」
 たすけて、と自分を苦しめる男に助けを求めて振り返る。
 眉を寄せて獰猛な息を吐き出すゾロに頭を擦り寄せて、うえぇ、と子どものように泣いた。
「お、おい泣くな」
 そこでようやっと動きが止まったのに、奥深くまで穿たれたままで呼吸するだけで気持ちがいい。
「コック」
「ふ、ゔぅ、ぞろ、おれ、おかしくなる、きもちいいの止まんねぇのやだ、こわい」
「心配すんな、おかしくねェよ。上手に出来てんじゃねェか」
 やだやだ、と駄々を捏ねていた体がピタリと止まる。
「……っ、じょ、うず……?」
 鼻にかかった声で反芻すれば、ゾロが大きく頷く。
「あぁ。そのまま気持ちよくなってろ」
 そのほうがおれも気持ちいい、なんて。
 普段ならば自分勝手だと怒るような言葉にも、きゅうと心臓を掴まれる。これが惚れた弱みというやつなのだろう、クソッタレ。
 そのまま呼吸すら食われるほどに乱暴にキスをされた。
(じょうず、)
 うっとりとキスを受け止めて、使い物にならなくなった頭にゾロの言葉が麻薬のように浸透していく。褒められたことがじわじわと嬉しくなって、与えられる快感を素直に受け止める。
(じょうずって、ぞろが)
 嬉しい。嬉しい。
 もっと上手にイけたら、もっと褒めてくれるだろうか。
「……なんだ、いい顔になったな」
「あっ、ひっ……♡」
 乱雑に涙を拭われて、そのまま頭を撫でられた。優しさなんてないような、髪の毛を乱すだけの撫で方だったけれど今のサンジにはそれでも十二分に嬉しい。
 はーっ、はーっ、と吐き出す息が熱い。
「もういいか? 動くぞ」
「んっんっ♡」
 ずる、と引き抜かれて甘やかな電流が背中を走っていく。
「あっ、あっ、あっ♡」
 さっきまでとは違う。もうイくことは怖くなくて、寧ろもっと上手にイッてゾロにも気持ちよくなってほしいと頭の中はそればかり。
「ゾロ、もっといっぱい、しろよ……っ♡ナカいっぱい突いて、好きにしろッ♡」
「……また泣いても知らねェぞ、お前」
「——アッ♡ゾロのチンコ、ビクッてなった、ぁ……♡」
 分かりやすく反応してくれたのが嬉しくて、顔が蕩けていく。
存外余裕があるような言動に腹を立てたのか、対抗心を持ったのか。額に青筋が浮いたと思えば遠慮なく突き上げてくる。
「余裕あんなら今日は最後まで付き合えよ、コック……!」
「あっ、あーっ♡奥までぐちゃぐちゃにされんの、きもちぃ、もっと♡っん、あっ、ぁあ♡またイく、おれ、ケツだけでイく……ッ♡」
 肌がぶつかり合って、尻たぶがじんじんと鈍く痛むのですら気持ちいい。
「〜〜〜っ、ひぃ、あ゛♡イ゙、イッて、おれ、……っア゛、ふゔ、うぅ……っ♡」
 逞しい前腕に血管が浮かんで、切羽詰まった息遣いはすぐ耳元。こちらがイッているかどうかなんて関係ないと、射精をするためだけの腰使いに目の前が眩む。
「出すぞ……ッ!」
 次いで肩口に噛みつかれ、皮膚に犬歯がめり込む痛みで潮が漏れた。ぴゅる、びゅう、と数回に分けて漏らした後でペニスがひくりと震えた。
「あ、う……」
 ひどく痙攣してはうねるアヌスは、どぷどぷと注ぎ込まれるゾロの精液を嬉しそうに咀嚼しては、もっと搾り取ろうと躍起になっている。
「ぞ、ろ、ぞろぉ、……なぁ」
 だらしなく眉を下げて、眦は蕩けて。勝手に溢れる涙は止まらないし、きっと涎だって垂らしてしまっている。
 けれど。
「おれ、もっとヤりてェ……♡」
 振り返った先の愛しい魔獣が口角を持ち上げ、噛み付くようにキスをしてきたのできゅうんとアヌスが甘くひくついた。
 
 
 
 ————無意識に人を煽る人間ほど、厄介なものはない。これはゾロの持論である。
「ぞろ、ぞろ、ぉ、すき、すき、ぞろ」
 すっかり力が入らなくなったサンジの背中をしっかり支えて下から穿つ。
「すき、すき」
 本当はサンジの体をベッドの上に転がして正常位で好き勝手に犯したいのだが、頭の中がぐずぐずに蕩けたこの男に「やだ、おまえとくっつけねぇじゃねぇかよぉ」と泣きながら駄々を捏ねられて対面座位という形を取らざるを得なかった。
 だらりと脱力した腕も足も、好き勝手犯すには邪魔である。
 だが。
「あー……♡きもちい、ぞろ、おれこれすき」
 好きな奴にすきすきと甘えられて、それでも冷たくあしらえるほど鬼にはなれない。寧ろ気を抜けば口元が緩んでしまう。
(くそ、普段言わねぇくせに……!)
 ゾロの気など知らずに凭れかかった肩口や耳、それにピアスにキスをする呑気な男の弱点を擦る。途端に腰を震わせて声を上擦らせる。
「それ、またイッちまう……っ」
「何回でもイけよ。その代わり寝んじゃねェぞ」
「んっんっ♡あっ、だめ、ほんとに、イくイく、きもちいい……っ♡ケツんなか、ビリビリって、っ♡あっあっ、——……っ♡」
 小さく震えていた体がガクンと大きく痙攣して、ナカのうねりが強くなる。もう何度もアヌスだけで達しているサンジの癖を理解したゾロは、精液をすべて搾り取られる前に引き抜いた。
「ひう、っ♡」
 引き抜かれる時に、孔がぐうと拡がるのすら気持ちいいらしい。
反射で反る背中を捕まえて自分の方へと引き寄せる。そのまま唇を食らって、舌を差し込む。いつもより熱い口腔内を堪能しつつ、すっかり煙草の味が薄くなった舌に絡み付く。
 こうやって、ドライオーガズムの余韻にキスされるのが好きだと言っていたのは果たして何時間前のことか。部屋に入ってからカーテンを開けることもなく、電気も点けず、ずうっと繋がったままの体では時計すら確認できない。
「ぞろ、もっと、ちゅーしてぇ」
「舌出せ」
「ん、べえ」
 互いに舌を出して絡めて、ぽたぽたと唾液が落ちていく。そのうちサンジが顔を寄せて、ゾロの舌に吸い付いた。甘えるようにちゅう、ちゅっと吸って、閉じ切っていない瞼に半分ほど隠れた瞳がとろんと滲む。
 唇も舌もサンジの好きなようにさせて、ゾロは自身のペニスをアヌスに擦り付けた。昨日今日と散々味わったそこは何もせずとも緩く口を開けていて、奥に出した精液がぽたぽたと溢れている。
「んー、んん……♡」
 ペニスが侵入してくることは拒まず、寧ろ悦ぶように吸い付いてくる。
襞のひとつひとつに扱かれる感触は何度味わってもいいものだ。食らっても食らっても一向に飽きる気配がない。
 けれど。
「あ、んっ♡ふは、ゾロのちんこ、もどってきた、ぁ……♡」
 唇をくっつけたままで自分の下腹部を撫で、心底嬉しそうに破顔するのはいただけない。すっかり心に根付いた、この男を好きだと思う気持ちが膨れ上がって頭が茹だりそうだ。
「へへ、おかえり」
「アホか」
 心情を隠すために呆れるように笑って、不覚にも熱くなる耳に気付かれないように腰を揺する。前立腺に亀頭を押し当てれば、サンジのペニスから雫ほどの精液が垂れた。射精している、というよりは残滓が押し出されたようだ。
「てめェのちんこからはもう何も出ねェな」
「んっ、でもいっかい、出た、ぁ……っん゛ん、はぁっ♡」
「ちょっとだけだろ」
「だ、って、おれ、っ、きのう、出した、し」
「おれはまだ出る」
「ふ、はは、なんの勝負だよ」
 息が出来ないほど激しく求め合うのもいいが、こうやって穏やかに気持ちのいい波に身を委ねるのもいい。なにより、素直に笑って甘えて、気持ちを言葉にするサンジを真正面から堪能できるのがいい。
「コック、気持ちいいか?」
「うん、きもちいい」
「どこがいい?」
「ケツの、おく、……っん、そこ、カリで引っ掻いてくんの、すき」
「こっちは?」
「アッ♡や、急に、乳首ひっぱんな、ぁ……っ♡」
 でも、すき。どっちもすき、だいすき。
 ゾロが触れていない方の乳首は自分でカリカリと引っ掻いて、それから泣きそうな声を出していたので、甘い痺れとともにまたやんわりと達したのだろう。もうどこに触れられても、どんな風に突き上げられても簡単にイッてしまうようだ。
 ぐず、とサンジが鼻を鳴らして、体を擦り寄せてくる。
「ベッドに転がるか?」
「ん」
 ゾロが支えているとはいえ、そろそろキツイだろう。
 素直に頷いたのをいいことに早速ベッドに押し倒していく。サンジの腰の下に枕を押し入れて、乱れた金髪を撫でつける。
丁寧に撫でてやれるような器用な手ではないのだけれど、サンジは気に入っているらしい。自ら甘えるように手のひらに擦り寄って、へらりと笑った。
「なんだ、まだ余裕あんのか」
「よゆーに決まってんだろ、……って言いてぇけど、ちょっとねみぃ」
「だろうな」
 ゾロと違ってほとんどずっとイキっぱなしで、体力を消耗しているのだ。気絶していないだけ十分タフである。
「抜くか」
「んあ? いーよ、お前まだイッてねぇし。好きにしていいぜ、未来の大剣豪サマ」
 それに。
「おれもてめェのチンコ入ってるほうが寝られそうだし」
「ハァ!?」
 今にも寝てしまいそうな目をして、それでもこちらの心を揺さぶるようなことを言う男にゾロは言葉を強くする。普段から喧嘩を重ねている分、ゾロの動揺など手に取るようにわかるのだろう。サンジは呑気にはしゃぐように笑っている。
「なんだよ。ただゾロのチンコが入ってるほうが落ち着くってだけだって」
「いや、おまえそれ」
「あれだな、もうずっとてめェとばっかヤッてるから、おれのケツの形は変わっちまったんだろうなぁ。最初は痛すぎて削いでやろうと思ってたのによぉ」
 人体って不思議なもんだな。
「おれもうさぁ、お前以外とセックスしてもイけねぇのかも」
 なんて、へらへらと間伸びした口調でとんでもない爆弾を幾つも落としていく男に、腹の底から深いため息をついた。
「————……お前なァ……」
 本当に、無意識に人を煽る人間ほど厄介なものはない。
 折角自分の欲を抑えて終わろうとしたところに、これである。この男に「今それを言うとどうなるか」と、懇々と教えてお説教をしてやりたいのに、最早どこからどう怒ればいいかわからなくなってきた。
 朝から発情した顔でキスで起こしてくるところか。涙目で一生懸命睨んでくるところか。今から犯されるというのに考えなしに擦り寄っては甘えてくるところか。
 候補を挙げ始めたらキリがない。
「? ゾロ?」
 いったい何をどう育てたらこんなにも全方位危なっかしい人間に育つのか。義足の料理人に問い詰めたいけれど、知るかの一言と強烈な蹴りを食らいそうだ。
 それに育て方と言うより、天性の才能のようなものすら感じる。
(……目離さねェようにしねェと)
 今は煽る方向性が自分に向いているからいいが、これが他人にも向けられると思うだけで腑が煮え繰り返る。
「……おいコック、好きにしていいんだな?」
「んだよ、いいって言ってんだろ」
「よし。じゃあお前ちょっと覚悟してろ」
「んん?」
 軟体生物かと思うほどに柔らかい足を掴んで、するすると膝裏まで手を滑らせる。自分の体重もかけながら、サンジの膝を彼の肩にくっつけて、ナカに嵌めたままのペニスをさらに奥へと突き入れる。
「うあ、っ♡」
 ふるり、と足が震えたのが伝わってくる。
「舌噛むなよ」
 言って、凡そ真上から体重をかけて突き刺すような律動を始める。
「ヒィッ!?」
 真っ赤に熟れて膨れた入口から、最奥の結腸まで。彼曰く、ゾロのペニスの形になったというアヌスを余すとこなく犯していく。喰らい尽くしていく。
「ひ、い、ぃッ! ま、まって、おく、おくまではいる、はいっちまう、ぅう……っ!」
「挿れんだよ」
「〜〜〜〜っあ゛あ゛ああぁ♡あっ、っひ、ぎ、あぁああっ♡ハッ、ァ、おく、おく、がぁ、っ♡だめなとこ、はいる、はいってる、ぅ……ッ♡」
 宣言通りしっかりと閉じられた口を亀頭で無理やりこじ開けて、グポ、と嵌め込んだ。途端にサンジの体が跳ねてペニスから勢いよく潮が噴き出る。体を丸めさせているせいでそれはサンジの顔に掛かり、涙と混じってシーツへと落ちていく。
「ア゛、——ッ♡ひっ、ああっ、あああっ♡イ゛く、イく、……っは、ぁ゛……っ♡」
「もうちょい踏ん張れよ」
「ひ、あ゛ぁああっ! イッ、た、いまいったから、ぁ……! とま、……っんん゛っ♡く、……ぁあっ♡いったのに、またいく、もうやだ、ぞろ、ぞろぉ……ッ!」
「あー、クソ、搾り取られそうだな……ッ」
「っ、またイく、イ゛————ッ♡」
 首を逸らして、シーツを好き勝手に乱して。
それでもゾロに押さえつけられている下肢は逃げられない。結腸にグポグポと嵌められる度に簡単にイッてしまっているようだ。
「——ん゛っ♡ぁ、ああっ♡ぞ、……っ、おく、はめんの、いやだ、やだ……ッ」
「アァ? おれのチンコ嵌めてたら落ち着くんだろうが」
「でも、っ、……ヒ、ア゛ァア! も、ずっとイッて、あ、あたま、っお、おかしくなる、や、あ゛、イく、やだ、ゾロ、ゾ、〜〜〜ッ♡」
「ずっと挿れっぱなしにしててやろうか、なァ? そうすりゃあ他の奴とヤるって発想すらなくなんだろ……ッ!」
「アアッ、ひぃ、ぁ♡ア゛ア゛アァ————ッ! ハァッ、イく、……ぁ゛、あッ、……! おかし、いく、イ゛、イくの、止まんね、しぬ、おれ……ッ」
「ッ、おい、出すからちゃんと飲め」
 絶頂に上り詰めたまま降りて来られない体に、こちらもあっという間に限界が来る。もっと味わいたいとも思うのに、この男の最奥の部分を汚したくて堪らないのだ。
「ゾロ、ゾロぉ……ッ」
 伸ばされた手に導かれて、開きっぱなしになっている口に噛み付くようにキスをする。密着したせいでペニスがよく深く嵌り、ぐう、と苦しそうにサンジの喉が鳴ったが離れてはやれない。
 そのまま奥深くに精液を流し込み、腰を軽く揺すって腸壁に擦り付ける。細かな動きですら気持ちがいいのだろう。キスの合間に嬌声が漏れて、足が跳ねた。
「ぞ、ろぉ」
 首に回された腕がシーツの上に落ちる。
「はぁ、ぁ゛、きもちよすぎて、……しにそう……」
「お前がこれくらいで死ぬか」
 限界が来た瞼はもう既に閉じられていた。もう何をしても勝手に寝るだろうと、ゾロは荒い息もそのままに額や眦にキスを落としていく。
「ふ、はは、おまえも、……ずっと……」
「あ? なんだよ」
「へへ」
「おい」
 何を言っているのか気になって、容赦なくペチペチと頬を叩く。するとうっすらと瞼が開いた。海の色をした瞳がゾロを捉えては揺れる。
「おまえも、おれだけ、だなぁ」
 ずっと挿れっぱなしにしたら。——……あぁそれいいな。
「……う、れし、……い、なぁ…………」
 えへへ、と消え入りそうな声で笑ったと思ったら、一瞬で深く寝入ってしまった。
 ひとり残されたゾロは、ドッと音を立てて深くポンプした心臓のせいで顔が熱い。耳も、指先も、全身が熱い。このままではこっちが死んでしまいそうだ。
「ッ、そ、んなこと、てめェ、今更……!」
 何言ってんだ、と怒鳴りそうになって、しかし起こしたくなくて我慢する。
(こいつ、実は分かってねェな……!?)
 自分がどれだけこの男を好きなのか。
 この男の一挙手一投足でどれだけ心が乱されるのか。
「後でもう一回泣かす」
 覚悟してろ。
 わかっていないと言うのならしっかり分からせよう。泣こうが喚こうが関係ない。
 ずるり、とペニスを引き抜いて風呂の準備をする。気怠い体で風呂など面倒以外の何者でもないが、後始末をしっかりすると起きた後のサンジの機嫌がいいのだ。
 そして機嫌がいい男が作る料理は、なによりも美味い。
 湯が溜まるまでの間にベッドに戻ってきて、大人しい体に自分の所有物である証を刻み込んでいく。暫く怪我のひとつもできない体になったことに満足して、鼻で笑う。
(——……そういや、)
 痕をつけたことはあっても逆はない。
 傷跡以外がない自分の体を見下ろして、不貞腐れたように口を歪めた。
 おれがしたのと同じように痕をつけろと言えばどんな顔をするのだろうかと、想像したらサンジが起きるのが楽しみになった。



 ♡



 昼食が終わったばかりのキッチンから甘い匂いがし始めて、ゾロは昼寝をしようとしていた瞼を持ち上げた。
「チョッパーとクッキーを作るそうよ」
 それを目敏く見つけたのはロビンである。
 珍しく読書をするわけでもなく、手摺に凭れて黒い髪を潮風に靡かせている。
「別に聞いてねェ」
「パン作りが楽しそうだったからって、サンジが誘ったみたい」
「……」
「チョッパーも喜んでたわ」
 聞いてもいないのに差し出される情報に眉を寄せつつ、しかしあの料理人らしいなと小さく息を吐く。
「今度はどんな形を作ってくれるのかしら」
「さァな」
 なんでもいい、と言ったのにロビンは相変わらず綺麗に微笑むだけだ。
「なんだって嬉しいのね」
「……」
 ぴたりと言い当てられてしまっては黙るほかない。
 もう放っておこうと昼寝を再開しようとして、しかし近くに居るロビンの気配が気になって仕方ない。眉間に皺が寄って、眠気が遠のく。
 そわそわとどこか落ち着かない空気。言いたいことを隠している口元。島でいい本を見つけたと言っていたくせに読もうともしていない。
「————あぁもう!」
 仕方ねェな、と立ち上がってマストに立て掛けていた刀を腰に。そうして迷うことなくロビンの手を取った。
「来い!」
「え、」
 大股でキッチンへと向かって、乱暴に扉を開ける。
 バァン、と響いた音にいち早く反応したサンジが顔をあげて脊髄反射で怒鳴った。
「コラ、マリモォ! 扉は静かに開けろっていつも言って、……って、」
「あれ? ロビン? どうしたんだ?」
 目をつり上げて怒鳴っていたサンジも、ゾロがロビンを連れているという珍しい構図に固まっている。
「こいつもやりてぇってよ」
 ゾロは強引に引っ張るようにしてロビンをキッチンへと送り出す。
 背中を押されたロビンは困惑しているのだが、
「ロビンちゃんもクッキー作り興味ある? うれしいなぁ」
「ロビン! ロビンはどんなの作りたいんだ!? チョコも抹茶もいちごもいっぱいあるぞ! サンジが用意してくれたんだ!」
 なんて二人に笑顔を向けられては素直に降参するしかなかった。
一度ゾロを振り返って、肩を竦めて白状する。
「クッキーは作ったことないんだけど、……私も一緒にいいかしら?」
「もっちろん! なんだったらおれが手取り足取り教えてあげるよ〜っ♡」
「おいコック。茶ァ」
「お茶くださいと言え! クソマリモ!」
 ぐあ、といつもの調子で大口で怒鳴るサンジを華麗にスルーして、チョッパーが「まずは先に手を洗うんだぞ!」とロビンに教えている。カウンターに腰を下ろしたゾロは大人しくお茶を待つ。
 チョッパーに言われた通り手を洗ったロビンは、チラリとゾロを見た。その視線に直ぐに気づいた琥珀色の瞳が、意地悪に眦を眇める。
「何でわかったんだって言いたそうだな」
「……そうね」
「教えてやろうか」
 それはな、と声を落とせば、聞き逃さないようにとロビンが耳を寄せた。
 そして。
「”随分と可愛い顔をしてた”からだな」
「——……ふふ」
 どこかで聞いた言葉に、ロビンが目を丸くした後で堪えきれないと言った風に笑う。
お茶の用意をしていたサンジは意味深に笑う二人の横顔に首を傾げ、チョッパーと顔を見合わせている。
「ロビンちゃん、もしかしてクソマリモになんか言われた? おれが海の果てまで蹴り飛ばそうか?」
「いえ、……ふふ、」
「なんかよく分かんねェけど、ロビン楽しそうだな〜」
 喋ろうにも笑ってしまって言葉が紡げないロビンなど、初めて見た。ゾロも溜飲が下がったとでも言うように口角を持ち上げて、サンジが置いた湯呑みに口をつけた。
「ゾロも仕返しなんてするのね」
「まァな」
「今度から気を付けるわ」
「そうしてくれ」
 アイツのためにも、とは言わなかったが伝わっているだろう。
 ロビンはサンジ監修のもとチョッパーと並んで生地を捏ね、好きな形を作っていく。作るつもりがないゾロは眺めていることしか出来ずに退屈だったが、そのうちサンジの楽しそうな横顔に「たまにはいいか」と思い直してカウンター席に居座った。
 頬杖をついて、忙しない金色を静かに眺める。そんな穏やかな昼下がり。
「サンジ見てくれ! 麦わら帽子だ!」
「お、上手くできてんじゃねぇか。ロビンちゃんは蜜柑かな?」
「そう、見える……?」
「見えるよ。きっとナミさんも喜ぶね」
 ジジジ、とオーブンが熱を発する音。
 焼けたクッキーを並べるお皿を選ぶ三人の楽しそうな背中。
 他愛のない会話と、綻ぶような横顔。
「クッキーって焼けるまでどれくらいかかるの?」
「今日のは大きいし厚みもあるから、十分ずつ様子見ようかな」
「いい匂いだなぁ〜」
「先に焼けたやつの味見してみるか?」
「する!」
「わたしも」
 オーブンから香る甘い香りは、まるで平和の象徴だ。柔らかく温かで、微笑ましい。
「……」
 自分が踏みしめる道からは程遠いものだと思っていたはずなのに、苦手なもののはずだったのに、——……甘い香りに肩の力が抜ける日がくるなんて。
「よし、大体準備できたな。じゃあちょっと早めのおやつにするか」
「おれルフィたち呼んでくるよ!」
「わたしはナミに声をかけてくるわ」
「あぁお願いするよ」
 ロビンとチョッパーがキッチンを出て甲板へと向かう。残ったサンジはコーヒーカップやマグカップを取り出して、その後でゾロの湯呑みを回収しにきた。
「珍しいこともあるもんだな、お前がここに居座るなんざ」
 しかもあまーい匂いたっぷりのキッチンに。
「いいだろ、たまには」
「そうだな」
 サンジの手が湯呑みを持ったと思ったら、ふっと影が落ちてくる。
 甘い香りに、嗅ぎ慣れたほろ苦い煙草の匂いが混じる。ちゅう、なんて可愛らしい音を立ててサンジの唇が離れていく。
「……だから自分で呼びに行かなかったのか」
「分かってても言うなよ。デリカシーのない奴め」
 昼間に、しかもキッチンで手を出そうものなら蹴り飛ばしてくるくせに、今日は機嫌がいいようだ。揶揄っても照れ臭そうに笑うだけで、足はおとなしい。
 チラチラ、と外の様子を伺うように視線を遣って、ゾロの頬にサンジの手が触れる。目を閉じてやれば、もう一度唇が触れた。
「ロビンちゃん連れてきてくれてありがとな。夜のつまみ期待してていいぞ」
「おう」
 あぁでも、とゾロがサンジのネクタイを引っ張った。
 子どものようなキスでは物足りないと、舌を絡めて吸ってやる。
「つまみの後であとでてめェも食わせろ」
「……ん」
 じわ、と目の前で広がる頬の赤にゾロは満足して手を離す。

 クッキーに舌鼓を打つクルーをよそに、ゾロはひっそりと夜に思いを馳せる。
 誰も知らない、誰にも譲らない美味しい体を今夜はどうやっていただこうかと、そればかりである。

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